第11話 底辺配信者、奥の手を披露する。

 俺は『白い虎』をたくさん討伐するため、95階層を歩き回る。


〈結局、『yu-ya』はS級モンスターの白虎も瞬殺したぞ〉


〈化け物かよ〉


〈しかも、まだまだ倒すらしい〉


〈これは面白くなるぞぉ!『yu-ya』が白虎を瞬殺したこと、SNSで広めよ!〉


〈俺は拡散してるぞ。てか、もうすでに『yu-ya』が白虎を瞬殺した動画が出回ってる〉


〈はやすぎww〉


〈って、こんな話をしてる内にどんどん同接者が増えていく〉


〈お、同接者が1000万人を超えたな。こりゃ1億人くらい行くんじゃねぇか?〉


〈行きそう。なんなら余裕で超える気もする〉


〈SNSから来た。白虎、瞬殺したってマジ?〉


〈マジ。なんなら今から白虎の瞬殺祭りが始まるぞ〉


〈何その祭りww。見るしかねぇだろww〉


「さて、虎を探すか」


 俺は剣を鞘に収め、再び歩き出す。


 しかし、なかなか『白い虎』が現れない。


〈おい、全然白虎が現れねぇぞ〉


〈『yu-ya』にビビって逃げてるんじゃね?〉


〈それはある。そして、フロア内を歩いてる間に同接者が5000万人を超えたぞ〉


〈SNSってすげぇなww〉


〈Hello!!I came to see Japanese “samuraiサムライ”!!〉


〈そして当たり前のように外人がいるな〉


〈日本のサムライに会いに来たってよ、この外人〉


〈この配信の注目度が半端ねぇww〉


〈お兄ちゃん!虎さんが全然現れなくなったよ!私、まだまだお兄ちゃんが虎さんを倒すところ見たいのに!〉


〈ユウ、こうなったら奥の手を使うしかない〉


「そうだな。ここまで出てこないと奥の手を使わざるを得ないな。そして何より、歩くのが疲れた」


 美月と紗枝が『白い虎』が現れなくなったことにフラストレーションが溜まっているようなので、紗枝の提案通り、奥の手を使う。


 俺はその場で立ちどまり、周囲を見渡す。


「お、いい場所発見!」


 俺はベストポジションを見つけ、そこに向けて歩き出す。


 たどり着いた場所は剣を振っても問題ないくらいの広さがある行き止まりで、出入り口は1箇所しかない。


 つまり、俺が通った道しかない。


「さて、ここなら『白い虎』が現れる場所は目の前の通路しかないから、後ろから攻撃されることはない。しかもこの通路は狭いから、無駄にデカい『白い虎』は1体しか通れそうにない。奥の手を使うにはもってこいの場所だな」


 そう呟いて、大きく息を吸う。


〈お、おい。『yu-ya』の奴、何しようとしてるんだ?〉


〈「歩くのが疲れた」とか言ってたから、ここに白虎を呼び寄せるんじゃね?〉


〈いやいや!S級モンスターを呼び寄せるなんて自殺行為、さすがにしないだろ!〉


〈そんなことしたら死ぬぞ!?これは流石に止めた方がいい!〉


〈やめろ、今回ばかりは死んでしまうぞ!〉


〈おー!お兄ちゃんの奥の手だ!これでお兄ちゃんの下にたくさんの虎さんが集まってくるぞー!これ、見てて面白いから好きなんだよねー!〉


〈私も好き。さっそく見れる視聴者はラッキー〉


〈あ、これ、レアイベントなんだ〉


〈嬉しくないから。『yu-ya』が死ぬ瞬間とか見たくないから〉


〈『yu-ya』が死ぬんじゃないかとドキドキしながら見ることになるんだけど!〉


〈てか、俺たちの想像通り、今から白虎を呼び寄せるつもりなんだなww〉


〈相変わらず、あり得ない行動をするよなww〉


「すーっ!虎さーん!ここに獲物がいますよー!」


 俺が大声で叫ぶ。


 すると「ドドドドッー!」と、ものすごく大きな足音が鳴り響く。


〈コイツ!大声で自分がいる場所を教えたぞ!〉


〈やりやがった!さすがの『yu-ya』でも生き残ることは無理だ!〉


〈でたー!お兄ちゃんの奥の手!テンション上がってキター!〉


〈ワクワクドキドキ〉


〈この2人のメンタルが凄すぎるっ!〉


〈お兄ちゃん死ぬよ!?テンション上がってる場合じゃないよ!?〉


〈あれ?俺の心臓がドキドキしてうるさくなってるぞ?俺もテンション上がってきたのかな?〉


〈それは違う意味でドキドキしてるんだよ!〉


 ものすごく大きな地響きと共に、数十体の白虎が通路奥に現れる。


〈ひいっ!〉


〈おい!95階層の白虎、全てが集まってきたんじゃねぇか!?〉


〈あり得るっ!てか、もうこの配信、ホラー配信と化してるだろww〉


〈今日は数が少ないなー〉


〈ん、想像より少ない。ドキドキ半減〉


〈あ、この数で少ないんだ〉


〈ドキドキは半減していいんだよ!むしろドキドキなんてない方がいいんだよ!〉


「よしっ!歩く手間が省けたし、頑張るかー!」


 俺を視界にとらえた虎が「ガルルルルっ!」と唸りながら一体だけ俺の下に飛び込んでくる。


「はーい1体目ー!」


「ガル……」


 虎は俺の斬撃を喰らい、力のない声を発した後、魔石をドロップさせる。


 飛び込んできた虎が一瞬で魔石に変わったことに何も感じないのか、どんどん俺に飛びかかってくる。


 しかし、通路の幅が『白い虎』1体分の幅しかないため、1体ずつ俺の下に飛び込んでくることとなる。


 そのため…


「ほい2体目ー!」


“ザシュっ!”


「はい3体目ー!」


“ザシュっ!”


「それ4体目ー!」


“ザシュっ!”


 という感じで、全て一撃で瞬殺していく。


〈おいおいおいおい!なんだこの配信は!〉


〈『yu-ya』は一歩も動いてないのに、どんどん白虎が魔石に変わっていくんだけど!〉


〈相変わらず剣筋が見えねぇ!気づいたら白虎が魔石になっとる!〉


〈いけー!お兄ちゃん!〉


〈何度見ても面白い。さすがユウ〉


〈いいぞ!もっとやれ!〉


〈そうだそうだー!〉


〈純粋に楽しんでる視聴者が現れたしww〉


〈この異常性に何かツッコめよww〉


 俺はひたすら突っ込んでくる虎を一振りで瞬殺していく。


 合計13体討伐したところで、通路先にいた『白い虎』がいなくなる。


〈結局、13体討伐しとる……〉


〈化け物かよ〉


〈人間やめてて草〉


〈今日もカッコよかったよ!お兄ちゃん!〉


〈ん、さすがユウ。今日も良かった〉


〈あれ?一撃で討伐できる白虎って実は雑魚モンスターなんじゃね?俺、白虎に遭遇することがあったら逃げずに戦ってみよ〉


〈それは自殺行為ww〉


〈この配信、こんな感じで勘違いする奴でてきそうだよなww〉


〈初心者はコイツの真似するなよ!絶対だからな!〉


〈いや、熟練者でも真似したらアウトだろww〉


「ふぅ、これくらい倒せば満足だな」


 俺は散らばった13個の魔石を見て、そんなことを思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る