第178話 連隊長からの依頼

 連隊基地となったここに戻ってきてからの1週間は、中隊を分けひよこさんたちを基地周辺の仕事につかせ、使える兵士を連れて日帰りで基地周辺の探索を入念に行っていた。

 ポロンさんの発見のように知らずに基地に近づいて来るのが現地勢力ならばまだ良いが敵さんの侵入を許すわけには行かない。

 とにかく安心してひよこさんたちが活動できるように探査を済ませたところにしか派遣していない。

 その探査も日帰りで行ける部分はほとんどなくなってきた。

 ポロンさん以外に現地勢力の活動を示す痕跡は見つけられなかったし、ここに元々あった村を破壊した敵である共和国の痕跡も見つけられなかった。

 このあとのことを考え始めていたところに、薔薇連隊の連隊長であるサカイ中佐が俺の横まで来て話し始めた。

「グラス中尉、ちょっといいか」

「はい、連隊長。構いませんが、どこかに行きますか」

「いや、それほどのことじゃないからここでいい。で、君に相談なんだが、聞いてくれるかな」

「なんでしょう。我々にできることならなんなりとおっしゃってください」

「そう言ってもらえると助かる。まあ我々だけの利益になるというわけではなく、君たちのところのひよこだったっけ、彼女たちのためでもあるのだが、君たちが行っている探索の件だが、そろそろジャングルの奥地に向かってくれないか」

「は~~、どういうことでしょうか。ジャングルの奥地に向かうのは一向に構いませんというよりも、正直そろそろ装備を整えて奥地探査に向かおうと考えていましたから問題はありませんが、どういうことなのでしょうか」

「我々がここに拠点を置いているが、ジャングルでは敵の状況が全く見えない。

 1日の活動範囲には敵の姿を確認できないのは君たちのおかげでわかったが、現状敵がどこまで来ているか正直不安なのだ。そこで、君たちにはとにかく威力偵察ではないが敵の勢力圏まで向かってくれないか。方向的には南東方向にとにかく進むと200KMもすればジャングルもなくなり敵の基地があるのはわかっている。その方向にとにかく進んでもらい、敵の勢力圏を探って欲しい」

「我々だけで敵の勢力圏まで向かえと」

「そうだ。しかし誤解しないで欲しい。威力偵察とはいったが戦闘までして欲しいわけじゃない。とにかく敵の勢力圏を知りたいのだ。上空偵察だけではここジャングルを調べることが出来ない。それにここは君の報告では一度は敵にやられていたということだし、それに君が師団本部付近での捕虜の確保もあったしな。敵が見えないのが正直不安なのだよ。私が調査に向かえればいいのだが、ことジャングルでは君には及ばないのはよくわかっている。それに基地の整備もあってここを動けない。お願いできないだろうか。私に出来ることならなんでも協力する」

「よしてください、サカイ中佐。いつも良くしていただいているし、それにジャングル探査は我々の仕事なのですから。わかりました。ここいらの探査も終了してますし、敵さんの様子を探るのもいいですな。ローカル勢力との接触もしたいことでしたし、明日から2週間くらいの期間で一番近い敵の基地のある南東方向に向かってみます。そこで中佐にお願いなのですが、ひよこはおいていきますので面倒を見ては貰えないでしょうか」

「それは構わない。いや地図の作成などでそうしてもらえるほうが正直助かるが彼女もおいていってもらえるのか」

「彼女?あ~エレナのことですか。エレナはひよこ主体ですが小隊を一つ付けて残しますのでいいように使ってください。まだ測量まではできそうにありませんから」

「そうか、そうか。そうれは助かる。で、明日から2週間の予定だということでいいのだな」

「はい、陸戦隊主体で1個小隊に中隊本部他で移動します。これなら準備もさほど時間はかかりませんから。アプリコット君。聞いての通りだ。すぐに準備にかかってもらえないかな」

「明日から2週間ですね。同行者は、今までと同じでいいですね」

「俺らにはそれしか敵さんと戦えないだろ。最も敵さんに出会うようなら一目散で逃げ帰ってくるけどな」

「は~~~、中尉がそう思っていても口には出して欲しくはありませんでした。誰もがわかっていますからいいですけどね。すぐに準備にかかります」と言ってアプリコットはここから出て行った。

 ジーナは俺とアプリコットの漫才を呆れながら聞いていたが、俺が彼女にも仕事を割り振った。

 居残り組に対して命令の発布だ。

 サカイ連隊長が不安に想う気持ちもよくわかる。

 俺がこのジャングルに墜落しながら到着して以来、敵の捕虜を捕まえたが、それ以降一切の敵の気配が感じられないのだ。

 正直あの時の様子からかなり敵には被害があったと予想されるが、それでも師団のある基地のそば近くまで敵は来ていたというのはわかった。

 それが今ではその気配すら感じられない。

 ジャングルからの撤退も考えられなくはないが、ゴンドワナ大陸を放棄する気持ちがなければそれもありえないとの司令部の統一した考えも聞いている。

 それに先ほど話題に挙がっていた敵の基地は確かにここから200kmの距離を取って確かに存在するし、その活動もやめていない。

 要は敵の考えが見えなく不気味だというのだ。

 俺としてはとにかくあれほど残酷なことをしでかす部隊の存在が許せないし、その部隊がこのジャングルにいた痕跡はこの目で確認までしている。

 そんな連中には会いたくない気持ちと、サリーが大切に想っている人たちに対する非道な行いに対して許せない気持ちとで行ったり来たりしている。

 最も実際に会うようならば一番のヘタレが俺なのはわかっている。

 逃げの一択しかないのだ。

 で「助けてドラ●もん」よろしく、ここまで逃げ帰り薔薇連隊にやっつけてもらうつもりだ。

 自分で言っていて非常に情けないがそれしかないだろう。

 ま~明日からは少し気持ちを入れ替えちょっとでも痕跡を見逃さないように注意しての探索だ。

 今日はゆっくり休むとしよう。

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