第87話 平穏な日常?

 正式に旅団司令部の承認ももらい、小隊と呼ぶには大きすぎるが、小隊を改変した。

 その後、小隊員の全員を集め、各分隊ごとに並ばせて、小隊の編成が全員に分かるようにみんなに説明を行った。

「は~い、皆さん、今並んでいるのが、今後一緒に仕事をしていく分隊です。先頭にいるお姉さんがみんなの親分である分隊長ですので、仲良くしてください」

 俺が、集まった隊員の前で挨拶をしていると、ジーナとメーリカが両脇から現れ、抱えるように連れ出されて、代わりにアプリコットが現れた。

「もう、少尉はいいですから、脇でおとなしく見ていてください。後の説明は私の方でやっておきます」と、俺にだけ聞こえるように言って、隊員の前に立った。

「え~、今話していた方が、わが小隊の隊長であるグラス少尉である。すでに配属の折に会っているので詳しく挨拶もいらないだろうと思います。そこで、早速の説明に入ります」と言い始めて、今までの経緯と今後の予想されうる事柄について簡単に要点をついて説明していった。

 その後、しばらくは分隊単位での訓練を中心に行うことを宣言し、その場を解散させ、元山猫のみんなと准尉たちを集め、今後の予定などを詰め所に戻り話し合った。

「それじゃ~、明日からは、各分隊単位で効率よく訓練をしていってくれ。元山猫の皆さんとレイラさんとこから移ってきてくださった兵士の方は、色々面倒をおかけしますが、自分たちの分隊長を補佐してください。俺の隊は、今まで優秀なベテラン兵士のおかげで困難を無事生き残れてきたけれど、今後はそのベテラン頼みというわけにはいかなくなってきています。少しでも、新兵たちの練度を上げてください。全員が無事生き残るためですので、よろしくお願いします。各分隊長は、慣れないことが多いとは思いますが、みんなと協力して仲良くやっていってください。困ったことは、本当に遠慮なくここに持ち込んでください。俺やマーリンさん、それに頼れるメーリカさんがいます。絶対に邪険にしたり、無視したりすることはありません。よくよく相談してください。メーリカさん、マーリンさんには、これからも面倒をかけるけどよろしく頼みます。で、ジーナさんには、別件をお願いしたいのですが」

「別件??」

「マキアさんを連れて、シバ中尉のところまで行って、うちらの移動手段の確保をよろしくお願いします。最終的には、司令部に申請しなければならないけど、事前のネゴは大切だから、そのネゴセッションをお願いします」

 すると、マキアさんが、「少尉は、どれくらいの装備を考えているのですか?」

「全員が、車やバイクで移動ができるようにしたい。1~2個分隊レベルでの徒歩によるジャングル内移動は避けたい」

「各分隊ごとに車などが必要ですか」

「いや、逆に移動は小隊がまとまって行いたいから、例の指令車とバイクが数台にトラックが1~2台といったくらいかな」

「そうですね、小隊単位の移動ならそれくらいでしょうか。わかりました、ジーナ准尉と一緒にシバ中尉のところでネゴしてきます。おやっさんにはネゴは要りませんか?」

「シバ中尉を口説き落としたら必要だろう。でも、シバ中尉を口説けたら、サカキ中佐のところまで一緒に行ってくれると思うから、今はいいかな」

 ここまで話したら、ジーナが「わかりました、シバ中尉のところまでネゴに行ってきます。

 でも、それだけでいいんですか?」

「余裕ができたら、司令部当たりの補給将校を捕まえて、資材の確保もよろしく。とくにチェーンソーは数をそろえておきたい。それと、車の数が決まらないうちに量の見当は難しいけれど、ガソリンもできるだけ多く確保しておきたいので、それもついでに頼みます」

「「わっかりました~」」と言って、二人は出て行った。

 で、残った面々で小隊でのジャングル移動について図上シミュレーション??を行っていった。

 できるだけ基地での訓練で、考えうるトラブルを潰しておきたかった。


 そのころの司令部は、先日来の懸案事項の補給問題の対応に追われていた。

 ジャングル方面司令部から伝わってくる情報は、日に日にろくなものじゃなくなってくるし、第3作戦軍司令部からの通達も、日を追うごとに緊迫感を増してくる。

 幕僚を派遣して直接海軍鎮守府から補給する案件も中々交渉が難しく、今朝早々に海軍出身のクリリン秘書官を応援に出さざるを得なかった。

 だが、それなりの成果があった。

 同じ海軍の士官同士であり幾人かに面識のあるクリリンは、的確にキーマンを捕まえて、先ほど交渉に成功したと連絡をしてきた。

 まともに交渉しても埒が明かず、困っていたところで、クリリンから邪道ともいえる提案を行い、それならばと、海軍側に了承をもらった。

 それは、少しでも陸軍が絡むと面倒だからと、正式な荷揚げ前にサクラ旅団分をこっそり抜き取り、横流ししてもらう案だった。

「さすが、クリリンね。ありがとう。危うくジャングルでじり貧になるところだったわ。

 これで、どうにかやりくりができそうね」

「でも、旅団長。我々から、『第3作戦軍所属サクラ旅団名』での受領書を発行しなければなりません。すぐに第3作戦軍司令部にばれますよ。その時には、どうしましょうか?」

「その時には、そのときよ。ばれるまでこのままいきましょう」

「鎮守府長官には許可はもらっております。今後は直接埠頭管理官の対応になりますので、補給の際には彼のところへ直接向かいます。間違っても倉庫管理者や、物資搬出責任者には向かわないようにお願いします」

「わかったわ、うちの補給担当はその仕組みを理解しているのよね」

「はい、今しがた彼と一緒に埠頭管理官に挨拶に行きましたから、今後は彼が同行することになります」

「わかったわ、ありがとう。急いで戻ってきてね。それ以外にも仕事が溜まりだしたから、お願いね」

 サクラ旅団の司令部は、懸案だった補給問題にも応急処置ではあるが目途をつけ、あとは日常業務だけとなるので、比較的に余裕ができそうだった。

 心なしかサクラにも笑顔がこぼれている。

 最近運のなかったサクラにもやっと運が巡ってきたのか、唯々嵐の前の静けさなのかは判断がつかないが、少なくとも今の時点では、この基地は平和であった。

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