第23階 炭の凱旋


「何者だったんだろう」

 

 予想外の戦闘だったけど、こちらにケガ人が出なかっただけでも良かった。

 それに多分、まだ何か奥の手を隠し持ってるみたいだったし。


「……『魔解』ね」

 

 気にはなるけど、どうしようもない。

 

 この場に残されたのはゼノとエアリス、そして新しく従魔化したドラゴンのみ。

 すでに召喚したオーガとゴーレムはマナへ変換し、魔本に戻していた。

 

 エアリスが力なくへなへなと座り込み、ゼノは新しく仲間になったドラゴンの体を撫でる。

 

「このドラゴンが目当てだったみたいだね」

「あー、私の羽根がボロボロだ……」


 強敵との戦いで羽根を大量に消費したエアリスの翼はぼさぼさに毛羽立っている。

 そのみすぼらしさに耐えられなかったエアリスはすぐに羽を繕い始めた。


「……これは」

 

 ゼノは地面に落ちたエアリスの羽根を拾い上げる。

 それは様子の変わったキュロへ向けて飛ばした羽根の1枚。

 拾い上げた羽根は元の美しい白ではなく、灰色の石へ変わっていた。


「羽根が石に変わってる……それで地面に落ちたのか」

 

 何が原因でこうなってしまったのかわからない。

 それでも彼らに繋がる貴重な材料にはなるはずだ。

 

 懐に羽根を入れたゼノは、羽根を繕うエアリスに一声かける。


「エアリス、キングーフに戻ろうか。ドラゴンに乗って」

「……そうだな、そうすっか」


 エアリスは羽繕いをそこそこに、立ち上がった。

 伏したドラゴンの背にゼノとエアリスが登る。


「ほら、さっさと座れよ」

「う、うん」

「……んだよ、あんま見んな」

 

 ぼさぼさの翼が恥ずかしいのか、少し顔が赤いエアリス。

 ドラゴンの首元に座ったゼノは目の前のちょうどいい岩に手を回す。

 その後ろにエアリスが座り、羽でゼノを包むようにして体を固定した。

 

「じゃあ、飛んで……えーと、『グラン』」


 ドラゴンに立った今、名付けた名前で呼びその言葉に従うようにグランは巨大な翼を広げた。

 生えたばかりの羽根も十分馴染んでいるようで力強く、羽ばたき始めた。


 数回の羽ばたきで天穴を潜り抜け、あっという間に地上から離れて空中で飛翔しながら停空を行う。

 エアリスの風に乗って飛ぶ軽やかな羽だとすれば、グランは風を巨大な翼で押し流す力強い羽ばたき方だ。

 その分推進力は凄まじく、指示した方向へ飛ぶグランの背に張り付くゼノは張り付くだけで精いっぱいだった。

 

「くっそ、風が強いなぁ」

 

 エアリスの羽がある程度風よけにはなってくれたが、それでもまともに目を開けられないほど風は強い。

 鼻歌まで歌っているエアリスは慣れているのか、大して堪えてはいないようだ。

 

 ゼノがじっと耐えていると、数分程度で目的のキングーフの真上に到着した。

 ゆっくりと降下するようにグランに指示を出す。


「……なんか下が騒がしいな」

 

 徐々に地表が近づき、キングーフが騒がしいことに気が付いたゼノ。

 歓迎でもしてくれてるのかな。

 そうゼノが思った矢先、1本の槍が目の前を通り過ぎた。


「あー、あれじゃね。ドラゴンが攻めてきたと思ってんじゃねーの?」

「それは……よくないかも?」

「かもじゃないだろ」

 

 その槍を皮切りに、様々な武器が投げられる。

 槍や剣、斧も投げられその数は徐々に増えていく。


「いいよグラン。そのまま降りて」

 

 当たった所でグランにダメージはなく、弾かれるだけだ。

 軽く左右に旋回しながらグランはそのまま降りていく。


 炎の漏れる炉の前に突風を起こしながら着地したグラン。

 すぐさまグランを囲うドワーフの中から、里長のカルトナを見つけたゼノは大声を出しながら手を振った。


「ただいまー! ちゃんと戻ってきたよ~!」

「ゼノ!? あんた、まさか」

「ドラゴンは捕まえたから、暴れたりしないから安心してね」

 

 なんでもないようにゼノがそう言って、伏せたグランの背中から跳び下りる。

 うまく着地したゼノはすぐに立ち上がり、グランの顎を優しく撫でた。

 その姿を見てカルトナは肩に担いでいた大槌を地面に降ろした。

 

 事態をうまくの目込めていないドワーフもいるようだが、一応敵意はないことは伝わったみたいだ。

 武器を下ろすようにカルトナが指示をだすと、すぐに全員が武器を収めてくれる。

 

「まさかドラゴンを捕まえてくるとはな……こりゃ恐れいったぜ」

「戦いは大体エアリスがやってくれたけどね。っとそうだ、この辺りで頭から黒い布を被った変な2人組とか知らない?」

「2人組?」

 

 顎に手を当てて考える様子を見せたカルトナ。

 すぐに、そんな2人組は見ていないと両手を振った。


「そっか、まぁ見てないならいいや」

「そいつらとなにかあったのか?」

「いや、なんでもないよ」


 そうか。とあまり気にする様子は見せないカルトナ。

 そして、今日は泊っていくようにカルトナからの提案をされたゼノは有難くその申し出を受けた。

 

 ゼノが帰還した後、すぐにドワーフ達は騒がしく坑道へ向けて出発した。

 ぞろぞろとたくさんのドワーフが、修理用の木材から採掘用のピッケルやシャベルを持って往復を繰り返している。

 

「大変そうだな」

「そう? 活き活きしてるようにも見えるけど」

 

 伏せたグランを背もたれに、その様子を見ていたゼノ達はゆっくりと体を休めている。

 忙しなく働くドワーフを眺めるゼノ、エアリスは荒れた羽を戻すのにご執心なようだ。

 

 日が暮れた頃、案内された休憩室で休んでいたゼノ達。

 運ばれてきた食事を食べ、日もとっぷりと暮れた頃そろそろ寝ようかとゼノは片隅に置かれた布の上で横になった。


 ドワーフは強靭な肉体からか、あまり寒暖が気にならないらしい。

 そのため寝具も薄い布一枚と、丸めた布の塊を枕にする程度のものだ。

 

 少し肌寒さを感じながら、小さく縮こまって体を丸める。

 うとうとと目を閉じていると、がさがさとすぐ隣で人の気配がして目を覚ます。

 

「エアリス?」

「いいから目を瞑って寝てろ」


 言われた通りに目を閉じると隣でエアリスが横になり、翼がふわふわと優しくゼノを包み込んだ。

 何も言わずに目を閉じたゼノは簡単に意識を手放す。

 

 ふわふわとしたエアリスの羽根の布団は寝心地が良いと、1つ学んだゼノだった。

 

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