小さくなる食べ物
半ノ木ゆか
*小さくなる食べ物*
雲が流れ、風が吹き抜けた。翼がかわるがわる影を落とす。谷底には、どこからともなく涼しげな
「先生、この生物はなんですか」
教授が学生のそばにひざまづく。大きく映し出された
「プセウドモナス・アエルギノサですね。和名を
「先生、これはなんでしょう」
別の学生が訊ねる。
「これは、アキディティオバキルス・ティオオキシダンス。温泉や火口でよく見かけますが、下水道にも棲みつきます。硫酸を出して
細菌たちが映像のなかで
「普段食べている生き物が、こんなに身近にいただなんて思わなかった」
風が吹き抜けた。影が飛び交う。
「――アフリカを出た人間の食べ物は、時とともに小さくなっていきました」
青い地球が回り出し、白い雲がたなびくのを学生たちは見詰めた。
「人間はまず、大型動物にねらいを定めました。マンモスや
「貪欲な私たちの祖先は、より小さな動物を食べてゆきました。
青かった陸地が、少しづつ砂色に染まる。
「哺乳類と鳥類を全滅させた人間は、昆虫食に移りました。昆虫は、地球上でもっとも種類の多い、ありふれた動物でした。昆虫がみんな滅びてしまうなど、生物学者でさえ思ってもみなかったでしょう。ところが人間は、それをまたたく間に喰い尽くしたのです。デボン紀から四億年以上続いた虫たちの血筋は、人間の胃袋へ消えたのです」
人々のおなかを満たすため、工場は今日もいきいきと稼働している。育てた細菌をおいしい料理に加工して、地球のすみずみまで届けるのだ。
「先生」
一人の学生が問いかけた。
「今度細菌が絶滅したら、次に人間は何を食べるんですか」
教授のコートが旗めく。茶色いビル群を背に、彼は質問を笑い飛ばした。
「あなたも喰いしん坊ですね……いつまでも食べていけると思わないで下さい」
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