第10話 挨拶

明日から冒険の旅を始めるってことで今日はお城に挨拶に来ている。



「おお、トラよ。元気にしていたか?」


「クマオおじさん、ちぃーっす。」


「忙しくてなかなか会えなくてすまんなあ。そしてそちがトラの友達か」


「は。畏くも国王陛下におかせられましてはありがたきお言葉を賜り畏れながら申し上げます。この度は謁見の栄誉を賜りまことに光栄の極みでございます。わたくしは乾辰巳と申します。タツとお呼び捨てくださいますれば恐悦至極に存じます」


「ふぇ? 辰巳、それなに語?」


「はっはっは。そう畏まる必要はないぞ。気軽に接してくれるとうれしい」


「そっすか。じゃあお言葉にあまえて」


「切り替えの早さと落差」


「よいよい。それでそちらがタツの両親かな」


「お初にお目にかかります。わたくしが辰巳の父親の乾堅鋼けんこうと申すものです。こちらが妻の柔烈じゅりえっとです。よろしくお願いいたします」


「辰巳がいつもお世話になっております~。姫ちゃんとも仲良くさせていただいてますわ~」


「お兄さま、ジュリちゃんは向こうの世界でわたくしとお友達になってくれていろいろと助けていただいたのよ」


「ほう。慣れない異世界で頼りにできる友達がいるとは予てより聞き及んでおったが。こちらこそヒゥミェリアンが世話になったようだ。感謝する」


「それで明日から旅に出ます。お城のみなさんには大変お世話になりました」


「話は聞いておるぞ。近衛騎士団長にはぜひ騎士に任命しろと言われたし、名誉魔法師団長は魔法師団に採用しろとうるさいし、鍛冶師長や医薬錬金術師長も逸材だと騒いでおったぞ。主教や料理長にもずいぶんと気に入られているようだな」


「辰巳は優秀だからな」


「旅の支度のためにみなさんのお力を借りました。すべては虎彦の冒険の旅の目的を果たすためですから手厚い手当をお願いします」


「わかっておる。しかしみんなタツが気に入ったようで教えただけで満足だと言って報酬を受け取ろうとしないのでな。代わりにおまえたちに餞別として与えるということで一致したのだ」


「え? せんべつ?」


「もったいないことです」


「すでに武器防具一式と旅具、それに魔法袋は与えてあるが、追加で馬と馬車と馬丁を付けよう」


「おお? 専属運転手付きの乗り物がもらえるってこと?」


「そうだ。旅の範囲が広がるぞ」


「おおー。遠くまで行ける……ワクワクしてきた」


「ありがとうございます(護衛と見張り役だと思うけどな。あと馬車で行けないような危険地域に行かせないためかな)」


「タツにもトラのことを頼んだぞ(わかっておるな? くれぐれも危ないことには頭を突っ込ませないでくれよ)」


「承知しました(わかってるよ。それは当然計画どおりだ)」


「ふふふ……」


「ははは……」


「なにを二人でニヤニヤしてるのさ」


「詳しいことはモョオブォンに案内させよう。さ、大人は向こうでもう少し砕けた場を設けよう」


「あ、モブ。いたんだ」


「最初からいたぞ? ついて来い」


「えっとだれ?」


「あ、これはモブ。気にしなくていいよ」


「わたしはモョオブォン・キゥミュィァモン。この国の王太子だ」


「モォブ・クマモン? ペスのお兄さんか」


「……モブでいいさ。君たちとは同い年だし気楽にしてくれていい」


「わかった。俺はタツ。よろしくな」


「モブ、馬ってどんなの? 仲良くなれるかな」


「馬は人に馴れているから安心しろ。餌をやって撫でてやればすぐに懐くだろう」


「うわあ。オレ馬初めてだあ」


「俺もこの世界の馬は初めてだな」


「え? 向こうでは触ったことある?」


「ああ、子どものころ乗馬をやってたからな」


「辰巳ってちょっとお坊ちゃま?」


「そんなことないだろ」


「馬丁がついて行くから世話や馬車の運転に困ることはないだろう」


「馬丁さんってだれ?」


「もうすぐ着くから紹介しよう」


「あ、クマさんだ。こんちは」


「モョオブォン様、トラ様、タツ様、お待ちしておりました」


「このキゥミュィァン(キゥミュィァマェントゥ王国警備兵)が君たちにお供するエドゥオンだ」


「ん? クマさんがエドさん??」


「これから馬丁を務めさせていただきますエドゥオンです。よろしくお願いします」


「こちらこそよろしくお願いします。エドさん」


「クマさんって名前じゃなかったのか……」


「エドさん、俺たちのお世話係になっちゃいましたけど、お仕事はいいんですか?」


「幼いころから見守ってきたトラ様が危険な旅に出かけられると聞いて、それについて行くことを希望したのは実はわたしなのです。陛下に認められてほっとしました」


「なるほど。迷惑でないならよかったです」


「クマさんといっしょに旅できるってこと?」


「そうらしいな」


「やったー! クマさん、いや、エドさんといっしょなら楽しいよね」


「ふふ。ありがとうございます。わたしも楽しいですよ」


「それでこちらが馬と馬車だ」


「あ、モブ様、まだいらしたんですね」


「忘れてた」


「出番待ちご苦労さまです」


「……もう戻っていいかな?」


「で、この王族仕様のピカピカの立派な馬車で旅に出るのか?」


「かっこいいじゃん」


「どう考えてもトラブルのもとなんだけど」


「そうかな? 王族の馬車に喧嘩売ってくるほどのバカはあんまりいないと思うけど」


「虎彦が言うと説得力あるな」


「どういう意味?」


「トラ様のお好みに合わせて塗りなおしたと陛下はおっしゃってましたが。ちなみになかの空間は魔法で拡張して広々してますし、座席はふわふわのクッションで、揺れも少なく空調も完備で快適に過ごせますし、そとからの物理・魔法攻撃もほぼ反射する最高級馬車です」


「あー、王族の旅行基準なのね」


「そうですね。一般の冒険者とはほんの少し気持ち違う気もする程度の印象ですね」


「そんなわけないだろ」


「え、冒険者と違うの?」


「いえ、勇敢な冒険者はみなこのように完璧な防御を心掛けるものなのです」


「そんなわけないだろ」


「そっかー、安全第一だよね」


「緊急時には王宮に転移することも可能なので安心です」


「うわー絶対冒険者が持ってるはずのないやつ」


「王族の紋章が入ってますからそもそも触れることもできませんね。目に入ったら即膝まづくのが普通です」


「まあそうだよね。こんなピカピカの黒塗り馬車に赤と金で染められた紋章なんて、たとえ知らなくてもヤバすぎてうかつに近づけないよ」


「冒険者の人と仲良くなれる?」


「な、仲良くは、なれます、よ?」


「そんなわけないだろ」


「ちなみに金は王族を表していて、赤は国王を除いて王族のなかでも最高級の扱いという意味だ」


「あ、モブ様、まだいらしたんですね」


「忘れてた」


「説明台詞ご苦労さまです」


「……もう戻っていいかなぁ?」

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