第3話 城下町

約束どおり日曜日にみんなでやって来ました、城下町。


じいちゃんがついて来ようとしたけど、先王がうろうろしたら騒ぎになるので縛って置いて来た。



「何年かぶりに来たけど、やっぱこっちの空気はいいな」


「排気ガスとかないからね」


「むかし城を抜け出したときのことを思い出してわくわくするわ」


「むかしってどれくらいまえ? あ、いいです」


「姫さま、俺から離れるなよ」


「はい、勇者様」


「はいはい、わかってた、オレ空気になるの」



二人は普通の庶民の服で変装しているけど、むしろ変に浮いている。


なんか見た目がキラキラしすぎてる。見慣れてるとわからないけど、比較対象があるとはっきりするね。



「わたしのことも忘れないで、トラ」


「あ、ペス」


「忘れてたでしょ、いま! しかも犬みたいな呼びかたしないで!」



えーっと、いまの王様が母さんの兄だから、オレの伯父さんで、ペスは王様の娘、つまり王女様で、オレのいとこだ。たしかまだ十三歳になってないはず。


ペスの本当の名前はプルジェスタみたいな感じだけど……オレには発音できない。というか子どものころからそう呼んでいるからいまさらだ。


オレたちが城下町に行くと言ったらついて来てしまった。かなり手馴れてる感あるな。オレは城から出してすらもらえないのに……。



「お、あそこにアクセサリー屋があるぞ」


「あら、新しいお店ね。行ってみましょう」



父さんと母さんはもうデート気分で浮かれている。完全に忘れられてるな。



「わたしたちもどこか行きましょう」


「ん? ああ、城下町案内してよ。ペス」


「しょうがないわね。デートの下調べくらいするものよ」



デートの予定でもなかったし、オレ城から出られないし、そもそもペスとデートしても意味ないし。



「なんか失礼なこと考えてたわね」


「さあ、行こうか。おいしいものを探しに」


「色気より食い気か。トラはブレないわね……」


「あれなに? 黄色くてもじゃもじゃしたの」


「グルジャヴァティェサプルシェントよ」


「……あれなに? 黄色くてもじゃもじゃしたの」


「もう一回聞き直すんじゃないわよ! 甘くてネバネバした果物よ」


「食べよう!」


「そのままじゃ食べられないわ。すりおろして団子にして茹でてから捏ねるの」


「めんどくさ! すぐ食べられるものない?」


「あの薄紫に緑と赤のボツボツが生えたの、トゥラムグフャーヴィチュランならそのまま齧り付けるわ」


「キモっ」


「あとはあそこの屋台で売ってるティレムサテュヴァの塩焼き、鳥肉ね、ならどう?」


「……鳥? 脚が六本あるように見えるけど」


「六脚鳥だもの当然じゃない」


「……よし、なんか小物でも見よう!」


「あら、アクセサリー選んでくれるの?」


「友達にお土産でも買おうかと」


「アクセサリー、選んでくれるの?」


「あ、はい」


「じゃあ、あっちにいいお店があるわ」



ペスの案内で小物屋を見て回る。あ、この首輪トンチンカンに似合うかな。



「ねえ。このネックレスどうかしら?」


「ん? それは似合わないよ、ってか小さすぎない?」


「小さい? ……トラ、まさかあなた……」


「え? トンチンカンはもっと大きいのじゃなきゃダ」


「ケルベロスの話してんじゃないのよ!!」


「ふぇ?! なんでいきなり怒ってるの?」


「あーもう、いいわ。トラにはちょっと早すぎたわね」


「えぇ……。あ、冒険者組合ってここにあったのか」


「ああ、トラはまえから冒険者になりたいって言ってたわね」


「冒険者になっていろんなとこに行ってみたいんだー」


「旅行じゃダメなの?」


「旅行? ……なにが違うんだろう?」


「わたしたち王族なら豪華な馬車で世界じゅう旅行できるわよ」


「魔物と戦ったり、ほかの冒険者とごはん食べたり」


「しないわ。護衛の騎士たちが戦うし、基本的に上級貴族意外と顔を合わせることはないわね」


「あー、そういうのやだなぁ」


「そうよね。わたしもたまにはこんなふうに自由に歩き回りたいもの」


「たまに?」


「…………たまによ」


「たまに」


「でも城下とほかの町じゃ勝手が違うし、まして外国じゃそんな自由与えられないわ」


「やっぱり冒険者になって冒険したいな」


「そうね。トラの言いたいことがわかったわ」


「友達誘って冒険者になろうと思うんだけど」


「わたしのことは誘わないのね」


「だってペスは王女様じゃん」


「そうよ。……勇者様は王女をさらって旅に出るものよ」


「人さらいとか犯罪じゃん」


「あなたのお父さまに言いなさいよ」


「勇者って微妙に言葉が通じないときがあるんだよな」


「大変ね、あなたも」


「わかる? 王女様も大変だよね、知らんけど」


「社交辞令で会話するのやめてもらえる?」


「オレの友達なら頭いいから魔法使いとかできる気がするんだよね」


「あなたも微妙に言葉が通じないときがあるから勇者になれそうよ」



そこに冒険者組合から出て来た全身銀色の鎧を着た男が声をかけてきた。



「きみたち。あまり大きな声で勇者の噂話をしないでくれたまえ」


「へ?」


「は?」


「ぼくが王都冒険者組合の勇者ことブジャマ・ニコケタンさ」


「……なにこれ?」


「さあ? 庶民の子どもには勇者の真似をして遊ぶのが流行ってるって聞いたことがあるけど」


「おじさん、子どもなの?」


「……子どものごっこ遊びといっしょにしないでくれたまえ。ぼくは勇者なんだよ」


「勇者って任命されてたっけ?」


「今代はまだ生きてるでしょ。偽物よ」


「ぼくが偽物だって? お嬢さん、あまりバカなことを言うもんじゃないよ」


「バカなことを言ってるのはあなたよ。頭がおかしいだけならともかく、詐欺を働くようなら衛兵がしょっ引かれるわよ」


「頭のおかしい人に頭がおかしいって直接言っちゃダメだよ」


「きみたち。一度痛い目に遭いたいようだね。勇者をバカにするとただでは済まないよ」


「へえぇ。それはそうかもね。ちょうどいいからお灸を据えてもらうといいよ」


「トラ、こんなとこでなにしてるんだ?」


「父さん、これが王都冒険者組合の勇者だって」


「ほう。真昼間から酒でも飲んでるのか?」


「なんだい。親子で疑うのかい? ぼくが勇者なのは見てわかるだろう」


「あらあなた。いまどき珍しいわね。勇者コスプレなんて久しぶりに見たわ」


「こす……?」


「ああそういえばたしかむかし子どもたちに流行ったことがあったよな」


「その生き残りなのかしら。おたくもこじらせると大変ね」


「よくわからないけどぼくのことをバカにしているね? これは成敗しないといけないね」


「へえ。剣を抜くつもりかい?」


「きゃあ、あなた、盗賊よ。こわーい」


「ふふ。きみのことは命を懸けて守るよ」


「あなた……」


「頭がおかしいのはどっちかしら……」


「非常識って怖いね」


「あなたが言うの?!」


「あ、衛兵さーん、こっちです」



まあ衛兵というか護衛の近衛が最初から付いていたわけだが。


偽勇者は捕まってしまった。


本物に喧嘩を売るとか偽物の名折れである。出直してほしい。



「初デートを邪魔した恨みは晴らさせてもらうわ」



お忍びとはいえ王女に絡んだので厳罰が下されるようだ。

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