第42話[こういう平和な日々が一番大事だったりする]

森の中でしっかりと休んだのち、俺たちは次の街に向けて歩いていた


「オール君、次に向かう街は、どんな街なんですか?」

「あぁ、次に向かう街は、獣人の多く住む街、フェリダンシティだ」

「獣人、ってことは私と同じかぁ〜」

「姉さんの場合ちょっと特殊ですけどね…」


苦笑いをしながらカゼイチと話すブレイブ、何か普通の獣人ではないとは思っていたけども、やはり混血とかそういう問題なのだろうか


「でも、獣人なら、これまでも色々な街で見てきましたけど、そのフェリダンシティっていうのはそんなに獣人さんが多い街なんですか?」

「多い街というか、この国にいる獣人のほとんどはフェリダンシティで生まれるんだよ、単純に獣人がたくさんいるって言うのもあるけどさ」

「へぇ……」

「もちろん他の街で生まれる獣人もいるんだけど……この国の外には、獣人の国ってのがあって、そことこの国は友好関係を結んでるんだけど、フェリダンシティは元々そこの国の住人で作られた街だから」

「あ、そうなんですね」

「逆に獣人の国の方には、俺たちみたいな人間の街があるって聞くな、行ったことないけど」


獣人の街には何回か行ったことある、というのもギルドに属していた時に討伐任務が何回か依頼されたのでそのままメリナと二人で魔物の討伐に打って出たのだ……ただし、特に仲の良い人が獣人の街にいるとかではなく、宿に泊まって魔物倒して即帰還みたいな感じだったからあんまりあの街に関しては詳しくない、まぁ、獣人の人たちは距離感が近いため、よっぽど変な奴か悪い奴ではない限り基本的に受け入れてくれるところはあるのであまり心配はしていないが……まぁ別に、旅の途中なわけだから誰かと親しくなる必要はないのだが…


「どんな人たちがいるんですかね……とっても楽しみです」


ブレイブがワクワクしてる、目がキラキラ光ってまるで子どもみたいにワクワクしてるのが見て取れる、これまでこういうことはなかったのだが、なぜ今回はそんなに楽しみにしてるんだろうか


「ブレイブはね、昔っから動物が好きなのよ、鳥とか、猫とか、犬とか……私も実家にいる時は良くモフモフされたわ」


俺が不思議そうに見ていると、カゼイチがそう教えてくれた……なるほど、そもそも動物が好きだったのか…でもまぁ、これはちゃんと言っておこう


「ブレイブ、フェリダンシティに着いたからって好きなだけモフモフできるわけじゃないぞ」

「え」


いや本気でモフろうと思っていたのか……


「そ、そんな!?」

「ほら、そんな変なこと考えてると足引っ掛けて転ぶぞ」

「わわっ、あ、ありがとうございます」

「どういたしまして」


道を歩いていると、ゴツゴツとした岩場が増えてきている、獣人は基本的に人間よりも身体能力が高いため、こういう岩場をわざと残しておくのだ、いかに身体能力が高いとかいえ、それを活用するには慣れが必要ということだろう、獣人の若者は、この岩場で問題なく走れるようになるところから子ども時代の遊びが始まるらしい、その後、冒険者になる人はさらに特訓を続け、他の道を選ぶ人は最低限の動きができるようにしておくくらいにしておくらしい、とは言ってもまだまだフェリダンシティは先だ、たどり着くまでにはさらに岩場が険しくなっていくため、ここから先はもっと注意を払わないといけない……ちなみに俺は最初にこの街を歩いた時に転びまくってメリナに大爆笑されてた


「道がガタガタですね…」

「フェリダンシティって、どうやって他の街から物とか仕入れてるの……?」

「それは俺も疑問に思ってる」

 

ガタガタなのは良いのだが、整備されてる道が一本もないというのは流石にどうなんだろうか…馬車とかここ通れないだろ……無理して入っていったような形跡はあちこちにあるが…もしかして毎回ここをそんなゴリ押しで通って資材を運搬しているんだろうか、そんなことしたら箱に詰められた物資などはともかくとして、馬車の車輪がガッタガタになるだろう……まぁ大方、街からみて俺たちのいる場所の反対側にちゃんと整備された道があるというのがオチだろうけど…この地図が古いのかそんな道はどこにも書いてないし、ついでに直線距離だけで言えばこっちからのほうが近いのでこの道を歩いている


「ぃよっと、ここら辺はちょっと歩きやすい道ですね」

「めっちゃ道細いけどなっ…と」

「ちょっと足の裏が痛くなってきました…」

「私も〜…オレオール、ちょっと休憩しない?」

「ん……そうだな、ちょっと休憩するか…急ぎすぎるのも良くないしな…でも、日が傾く前には移動し始めよう…ここら辺の土地では、テントを張るのにあんまり適してないし」


そう告げると3人がこくりと頷いてそれぞれが座る、俺も岩に座り息を整える、森の中とは一転して、険しい岩道が続いている、空を見上げると鳥の群れやワイバーンなどが飛んでいる……あのワイバーン、友好的な奴か、よく見ると人が乗っているように見える……魔物がいると言っても、全てが人間たちに対して敵対的なわけじゃない、あぁいうワイバーンみたいに友好的な魔物達もいる……そういう魔物は人間たちと共生していて、人間が移動を手伝ってもらう代わりに魔物たちは食べ物と住処を提供してもらえる、ある意味で人間同士のやり取りに似ている部分もあるな


ちなみに友好的な魔物で、すでに人間と共生している魔物は大抵国公認の装備をつけている、それで敵対的な魔物かどうかを見極めているのだ……まぁ一口にワイバーンとか言ってもたくさん種類がある、基本的に友好的な種類は野生でも人間に友好的だからその種族だけでも覚えていて損はない


「……?」


キィンッ、と金属音が響き渡る、何かと思えばブレイブ…いや、いつの間にか女の姿になっていたから、アイギスが自身の持つ刀の手入れをしていた……結構使ってたもんな


「あー、やっぱまだ使ってんだ、天輪刀」

「えぇまぁ……これは、僕の大切な物ですから」

「そっか……」


「天輪刀?」


聞き覚えのない単語に思わず声を出してしまう、するとアイギスがこちらを見て話し始めた


「この刀の名前です、正確にはもう少しあるんですが、基本的には天輪刀と呼ばれてます」

「はぇー、天輪刀ねぇ」


なんだか豪華な名前だ……天輪の刀だろ?


「父さんもきっと喜んでるよ、自分の愛刀を息子が受け継いでくれて」

「そうですかね……そうだと嬉しいんですけど…」


「?」


父親が使ってた刀なら、それは父親がアイギスに渡した物じゃないのか……?


「父さんは、もういないの」

「え?」

「あいや、なんでもない、忘れて」

「お、おう……」


父親がもういない?どういうことだ……?失踪…ではありえないか、ならそんな会話はしないだろう……なら…


「!オール君!何か近づいてきてます!」

「え!?」


その瞬間、俺の後ろで爆発音が聞こえた……なんだと思い振り返ると……


「!お、お前……!」


その男には見覚えがあった、そう、ギルドでメリナを連れて外に出ていた……そして、俺がこうして旅を出ることを決めたその原因……メリナの浮気相手


「……お久しぶりじゃないですか、こんなところで会うなんて、奇遇ですね?オレオール先輩」


奴はそう言って、ニヤリと笑った


「お、オレオールさん、知り合いなんですか……!?」


焦ったように俺の後ろにやってきたエクレが質問してくる、俺はその言葉に頷く


「あ、あぁ、俺が前に所属してたギルドのメンバーの一人で……そして」

「オレオールさんから見れば、間男と言ったところでしょうか?」

「え、間男って……」

「間男ってあれですよね?」

「間男って……間男だよね?」


……面倒なことになったな…



ナノハナの花言葉[快活][明るさ]

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