【短編】徹夜明け大学生たちの談話

羊光

啓馬視点①

「おい、てめー、斬り上げ攻撃に俺が巻き込まれたぞ」


「いいじゃん、私の気分が良いから」


「よし、ちょっと、俺のガンランスで〇撃砲を撃つからコントローラーから手を放せ」


「なに、いきなり、下ネタ? 俺の〇撃砲が火を噴くぜ、とか寒いんですけど?」


「下ネタじゃねーから。ってか、お前の斬り上げ攻撃から、モンスターの追撃のデスコンボに嵌められて、俺、死んだんだけど?」


「ご愁傷様。今のうちに討伐しちゃうね」


「鬼か。俺が到着するまで待て。それか捕獲してくれ」


「はいはい、っと」


 言いながら、一花はモンスターを捕獲したようで画面にクエストクリアの文字が出る。


「よし、終わった。……って、俺まだ切断した尻尾を剝ぎ取ってない!」


「あはは、それは頑張って~~」


 結局、尻尾の剥ぎ取りは間に合わなかった。


「今日も徹夜でやったなぁ……。もう外は明るい」


 現在、朝の五時半過ぎ。


 俺と一花は乱れ切った大学生ライフを満喫していた。


 お互いに大学の講義が無い、もしくは午後からの時は俺のアパートでこうやって朝までゲームをやっている。


 ただし、付き合っているわけじゃない。


 こうやって、徹夜でゲームや雑談をするだけで〝恋人同士がやるようなこと〟は一切していない。


 特別に仲が良い友達。

 それが俺と一花の距離だと思う。

 

「もう寝る?」と一花に尋ねると

「どうしようかな? とりあえず、コーヒーでも飲んでから考える」


 一花は勝手に冷蔵庫を開けて、ストックしている缶コーヒーを手に取った。


「俺にも一本くれ」

「ほいっと」


 一花は二本の缶コーヒーを持って帰ってきた。


「はぁ~~、沁みるなぁ~」


 などと言いながら、一花は缶コーヒーを飲む。


「大袈裟だな」と笑いながら、俺も缶コーヒーを開けた。


「ここでクイズです」


 一花は唐突に言う。


 別に今日だけじゃない。


 一花は話題を変える時、「ここでクイズです」と言う。


 もう小学校時代から十五年以上の付き合いだ。

 それくらいは分かるし、昔から変わらない。


「親友と恋人の境界線はどこでしょうか?」


 でも、今日のクイズは何だかいつもと違った。


「親友と恋人の境界線?」


「そうだよ。…………実はね、昨日、後輩から恋愛相談を受けたんだ。一花先輩は彼氏さんととても仲が良さそうだから、何かコツがあるんですか、ってね」


「何、お前、恋人いるの? 教えてくれたって、良かったじゃん」


「…………残りのコーヒー、ぶっかけてあげようか?」


 一花に睨みつけられた。


「冗談冗談。お前の後輩ちゃんは俺が彼氏だと思っているんだな」


「そういうこと」


 今に始まったことじゃない。


 昔から俺と一花はよく一緒にいた。

 だから、周りから彼氏彼女と言われていた。


 俺も一花も聞き流すのは慣れている。

 そのはずだが、今回の一花は様子がおかしい。


「私は後輩の子に啓馬とは恋人じゃない、って言ったんだけど、『週の半分以上、異性の家にお泊りしたら、立派なカップルです』って、言われちゃって……。今まではね、気にしていなかったけど、確かにこれは恋人かなって考えるようになったんだよね。で、もう少し思考を進めるとさ……」


「親友と恋人の境界線を考えるようになった、と?」


「そうそう。……ねぇ、どこからが恋人だと思う?」


 一花は真っ直ぐに俺を見た。


 コーヒーを一口飲んでから考える。


 親友と恋人の境界線か……。


「そ、それはキス……とか、からじゃないのか?」


 平然と言う予定だったのに、声が裏返ってしまった。


 焦りと恥ずかしさを隠す為にもう一度、コーヒーを飲むと、

「中学生か」

と一花から突っ込みをもらってしまった。


「じゃ、じゃあ、お前はどこに境界線があると思っているんだよ。自分の答えはあるのか?」


「え? 私にそれを言わせるの。啓馬のエッチ」


 一花はわざとらしくモジモジする。


 それを見て、碌でもないことを言いそうなのが分かったので、

「あっ、言わなくていいです」

と先回りをしたのに……


「〇ンコに〇ンコを突っ込んだらとかじゃない」


「!?」


 火の玉ストレートが飛んできた。


「俺は言わなくていい、って言ったんだけど!? それにもっと別の言い方があるだろ! 性交渉とか……セッ……とか!」


「なんかさっきから中学生みたいな表現しかしないね」


「そういう一花はいつの間にか酒でも飲んだのかよ」


「残念、シラフです」


 シラフだったら、さらに残念な気がする。


「話が脱線しそうだから、戻すね。じゃあ、啓馬のラインはキスで、私のラインは性交渉ってことで良いかな?」


「そっちのラインについては言いたいことがあるけど、まぁ、そうだな」


 今日の一花はやっぱりおかしい。


「…………それじゃ、私がさ〝彼氏が出来た〟って、言ったら、どうする?」


 一花は緊張し、躊躇いながら、言った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る