夢に近いところで

第12話

　たぶん生まれつき体は弱いほうだと思うけど、おかげで体調の変化にすごく敏感。だから大崩れしたことはない。そのぶん普段ちょっとずつ無理を蓄積していくから、休日はずっと寝てる。

　優しいピアノの音が鳴るベッドの上で、猫になりたかった頃を思い出していた。かわいいものになりたかった。でも大人になるにつれてわかった。かわいいものは好意を向けられる。そして好意と悪意だったら、好意のほうがずっと怖くて迷惑だってこと。

　悪意は私が強くなれば跳ね返せる。好意はそれが難しかった。跳ね返したら私が悪いことになるから。私でさえ何度か困り果てた経験があるんだから、かわいいものに生まれてたらもっともっとひどかったと思う。特に小さくてかわいいのが一番しんどそう。

　爪を切った。今回もかわいくないくらい短くしてしまった。こういう生き方が今は好き。これでいい。体を丸める。