第5話 霊峰学園七不思議 3/3


最後の七不思議『魔の十三階段』に会うため、ラーゼロン達は裏門から学園のへ出た。



「学園を出てしまったが…?」


「これで良い。『魔の十三階段』の所には学園のから入る。ほれ、振り返って、裏門へ続く坂を見てみぃ」


「…?」


ラーゼロンは万治郎に言われた通りに振り向いた。

裏門の入口は車両が入れるように、緩やかな坂になっていた。



「坂の削れとる部分を一段ずつ踏んで裏門へ入るんじゃ」


「削れている部分だと…? …あっ!」


万治郎に言われるまで気が付かなかったが、よく見ると坂には12箇所の小さな切れ込みがある。

それは経年劣化で出来たものではなく、人工的に削り取られたものだった。



「いち、に、さん…」「ほら、まおう! ぼくたちについてきて!」


生徒達は、不規則に削られた切れ込みを踏み、ジグザグに登って行く。



「あ、待つのだ子供らよ! …一、…二、…三」


生徒達の後に続いてラーゼロンと万治郎も登って行く。


「…六、…七、…八」


「 削れとる部分以外は踏まんようにの。あくまでも階段であることを意識するんじゃ」


「…十一、…十二、……これで…十三だ!」



最後の削られた部分を越え、13段目となる学園の敷地内に踏み込んだラーゼロンは、目を疑った。



「こ…これは、転移魔法か…!?」



そこには先程まで見てきた霊峰学園の姿はなかった。



そもそもではなく


ラーゼロンはいつの間にか、薄暗い洋館の廊下に立っていた。


延々と続く廊下。

等間隔に並んだ扉と照明。

窓を見ると、抽象画のように歪んだ紫色の空、灰色の大地が広がる。



状況を飲み込めないラーゼロンに、万治郎は説明した。


「裏門の坂に12の切れ込みを入れ、階段に見立てる事で、『学園の敷地内全体が13段目』と定義付けておる。先の手順通りに登らねば、この空間には入れん。ここは言わば、万が一に備えた生徒達のシェルターじゃ」



生徒達は洋館内を駆けて行き、思い思いに扉を開け、中に入って行く。



「こっちじゃ」


無数にある扉のうち、一つの扉を開け、万治郎は中へ進む。

ラーゼロンも続いて中に入ると、中世ヨーロッパを思わせる内装の部屋が広がる。


部屋の左右には扉があり、万治郎は右の扉に入る。

後を追うと、先程と全く同じ外見の廊下に出た。


ラーゼロンは方向感覚を奪われそうになった。


「まるで魔界にある迷いの森だな…」


「しっかり付いて来るんじゃ。逸れんようにのぅ」



奇妙な感覚に襲われながらも、何回か部屋と廊下を出入りしていると、不意に背後から声が聞こえた。



「…おや、招待されていない者が屋敷に侵入して来たようだ。さて、この場合どうするべきだったかな、ミリー?」


「はぁ…忘れたの、ビリー? 『旅人には祝福とワイン』を。オンズ家の家訓に従い、豪勢におもてなし致しましょう…」



ラーゼロンが振り向くと、そこには壮年の男女。

ピエロの格好をした恰幅の良い男と、車椅子に乗った痩せた女の姿があった。



「そうであった!」


パァン!



ビリーと呼ばれたピエロは唐突にクラッカーを鳴らした。



「早速、『第ニ階層・パーティ会場』で宴の準備を!」


そう言うとビリーは、ミリーと呼ばれた女の乗る車椅子に手をかけ、その場を後にしようとした。



「な、何なのだ、この者らは…」


急な展開に、ラーゼロンは圧倒されてしまった。


万治郎はそんなビリー達を引き止めた。


「これ、オンズ夫妻。盛り上がるのは挨拶を済ませてからにせい。それともオンズ家には、客人をほっぽって話を進めるなんていう家訓でもあるんか?」


「とんでもない、ミスター・イワゾノ!」


ピエロの男は車椅子の片輪でターンを決めると、軽やかに近づき手を差し伸べた。



「失礼、ジェントルマン。挨拶が遅れてしまった。ボクは陽気な学園の道化師、ビリー・オンズ。そして…」


「妻のミリー・オンズです…」



ラーゼロンはビリーの手を取り握手をした。


「うむ、我は新人七不思議のラーゼロン。『赤マント』の怪談にして異世界アルマリアの魔王である! 貴様らが『魔の十三階段』か。この空間を作り上げているのも貴様らなのか?」


「それは違う、ミスター・ラーゼロン。そもそもボクら夫婦は、正確に言えば


「む? そうなのか?」


「私とビリーは付属品…。である七不思議、『トリリ・オンズ』の…」


「おや? トリリはじゃなかったかな?」


「ビリー…あなた最近、物忘れが激しいわ…。霊力の配分をもう少し頭に回したら…?」


「ハッハッハッ! これは手厳しい!」



「……ふむ、トリリ・オンズ…。ここに居ない其奴が七不思議なのか…」


ラーゼロンが思案していると、話を聞いていた生徒達が、どこからか集まって来ていた。


「うたげ?」「ねえ、ビリー。さっき宴って言ったよね」「ぼくたちも、宴出ていい?」


生徒達の頭を撫でながら、ミリーが答えた。


「ええ、勿論よ…。ジュースの用意もしておくわね…。そうね…30分後くらいにパーティ会場に来てちょうだい…」



「やったーーー!!」


生徒達は狂喜乱舞した。


「やったーーー!!」パァン!


ビリーもクラッカーを鳴らして狂喜乱舞した。



そんな中、ふと、万治郎はラーゼロンに近付き、話を切り出した。


「ところで、ラーゼロン君。先の件を覚えておるかね? お前さんの実力を測りたいという…」


「ああ。百色ももいろとの戦闘訓練か」


「宴会まで少し時間もある。早速じゃが、お前さんの…、異世界魔王の力を見せてもらえんかね?」


「良いだろう。我が力、その目に焼き付けるが良い!」

(……むむ? 結局、トリリ・オンズは紹介されずじまいだったが…。まぁ、いいか)



─────────────────────────────────────



ラーゼロン達は第一運動場にやってきた。


そこには既に百色が待機していた。


「百色は学園内ならどこにでも出現可能じゃ。本体は木じゃから、花びらはいくら傷付けても問題はない。遠慮はいらんぞ」



「1体だけか? 先程は4体居ただろう?」


ラーゼロンの言う通り、この場に百色は1体しかいない。


「まあ、手始めにまずは1体じゃ。レベルは20くらいにしとこうかのぉ」


「レベル?」


よく見ると、百色の顔には「Lv20」と書かれている。


「当然、レベルが上がればその分強くなる。MAXがレベル100じゃ」


それを聞いてラーゼロンはムッとした。


「我を舐めるな、最初からレベル100で来い」


その発言に生徒達はどよめいた。


「100はムリだよ魔王~」「魔王、自分の霊力、視えてないのー?」


「黙っていろ、子供らよ!」



少し考えてから万治郎は口を開いた。


「なら、妥協してレベル75。七不思議・第六節のテンシアがクリアできる最高レベルじゃ。これに勝てれば、お前さんはテンシアに並ぶ実力を持っとる事になる」


「…ふん。まあ、良いだろう」


シュシュシュ…と花びらが振れ、百色の顔に書かれた数値が「Lv75」に切り替わった。



「納得してくれたようじゃな。では……」



一瞬の静寂。


そして…



「……始め!」


万治郎の号令とともに、模擬戦が開始された。



「ファイアボール!!」


先手を取ったのはラーゼロン。

詠唱不要の下級魔法を唱える……。


だが、



「は?」「え?」「何も起きないけど?」


ファイアボールは現れない。


(くっ…やはり、この世界には『マナ』が無い。下級魔法ですら発動できぬとは…!)



スッ… と、百色が正拳突きの構えを取った。



(来るか…! だが、我は体術でも勇者と互角! 花の魔物ごときに遅れは……)



パフッ!



それは一瞬の出来事。

百色の柔らかな拳がラーゼロンの顔面を打ち抜いた。


そして…



どひゅぅぅぅぅぅーーーーーーん……!!



ドゴォン!!



ラーゼロンは吹っ飛ばされ、校舎に激突した。


「かはッ…!!?」

(馬鹿な…! 勇者よりはやく……重い……!!)



「そこまで!」


万治郎の号令で模擬戦は終了した。



こうして、ラーゼロンの日本でのデビュー戦は幕を下ろした。


惨憺さんたんたる結果を目の当たりにした生徒達は落胆の声を上げた。


「え、終わり?」「よわw」「歴代最弱の七不思議かも…」



生徒達と対照的に、ラーゼロンは度肝を抜かれていた。


(信じられん……有り得ない強さだ…! もし、この百色が1体でも我の世界、アルマリアに存在していれば、アルマリアなど簡単に征服できてしまうだろう…! しかも、さらに上のレベルがあり、数まで増やせるだと…! 一体何なのだ、この世界は……!?)



「ラーゼロン君…」


いつの間にか、万治郎がラーゼロンを見下ろしていた。



「君、明日から戦闘訓練ほしゅうね」



と言って、万治郎はにっこりと笑った。




そのあと、十三階段の洋館でラーゼロンの歓迎会が行われた。

沈んだ気持ちで参加したラーゼロンだったが、生徒達・教員達・七不思議達はとても良くしてくれて、多少は打ち解けることができた。



こうして、七不思議の一員となったラーゼロンの、最初の一日が終わった。




───七人の悪霊 復活まで 後 169日


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