休日はBBQなのです 前編
「……うん。メルはもう少し休むべきだ」
「それに関しては完全に同感……働きすぎなんだよなぁ、メルちゃん」
「そんなこと無いと思うけどなー……ねー、フィアちゃん?」
「あ、えっと……メル様は働きすぎかと……」
「そんなー……全然普通なのにー」
ライオット家ノエルの自室。
ソファに座るのは、いつもの3人……クレハ、メル、ノエルの3人に、フィアを加えた4人。
彼女達の議題は1つ──メル・シーカーがワーカーホリックだということである。
そんなことない、とクレハに膝枕してもらいながら対面に座るフィアに同意を求めたメルだったが、そのフィアすらも働きすぎだと苦言を呈していた。
むぅ、と頬を膨らませたメル。膨らんだ頬をぷにぷにと突くクレハは、どうしたものかと顔を顰める。
「私が色んなものを作って欲しいって頼んじゃうからー、とか思ってたけど……どー考えてもそれ以上に色々作ってるよね?」
「間違いない。この前なんて農家の元を訪れて自動水撒き機の設置を行ってたぞ……私が把握していない事業だ」
「しょーがないじゃーん。思い付いたんだからさー」
思い付いた。
メルがこの一言で突拍子も無いものを生み出してきたのは語るまでもないだろう。
しかし、何が厄介かというと一件クレハに無関係なことのような発明も全て『クレハのため』の発明だと考えている節がある。だからこそ彼女は動き続ける。
「ちなみに、一応言い訳聞くけど、どうして作ろうと思ったの?」
「んー? それのお陰で質のいい農作物が取れたら、クレハが手に入れる食材の質も良くなるでしょー? つまり、クレハのご飯が美味しくなるのー」
「いいかいフィアちゃん。メルちゃんはこんなことを常日頃考えて常日頃それを実現する天才なんです」
何度でも言おう。メル・シーカーはクレハ・ヴァレンタインのための天才である。
クレハのためならこの世に存在しないものですら生み出してみせるし、オーバーテクノロジーだとしてもなんのその。自宅をオートロックにもしてみせるし、どんな魔物も寄せ付けない魔物避けすら生み出す。
一体どこをどう間違えたらこんな存在が生まれるのか──彼女たちとの付き合いが短いフィアには、皆目見当もつかなかった。しかし、フィアだけではなく世界中の人間が分からないので何も不思議なことでは無い。メルの存在が常識外なだけだ。
「ふっふっふー。もっと褒めてくれても良いんだよー?」
「もー、メルちゃん凄い! いつもいつも私のために沢山の道具を作ってくれてありがとう! 大好き! ずっとずーっと一緒だよ!」
「おいこらクレハ。メルを甘やかすな」
この若干歪な関係が成り立ってしまっているのは、一重にクレハがそんなメルのことが大好きで大好きで仕方が無いからである。
うりうりうりー! とメルの頭を撫でるクレハ。きゃっきゃっと喜ぶメル。
そんな女児2人を見てため息を吐くノエルと、呆気にとられているフィア。
「まぁ……それはそれとして、メルは休め。そうだな……4人で何処かに遊びに行くか」
「お、それはありだねっ! メルちゃんも一緒に行こー?」
「んー、モチのロンだよー。2人が行くなら当然私もー」
「…………あれ? 私もですか?」
何やら盛り上がり始めた幼なじみ3人。そんな中にしれっと自分も入れられていたことに困惑していたフィアだが、そんな彼女をじっと見つめる6つの双眸。
「もちろん! フィアちゃんも一緒に遊ぼうよ!」
「人は多いに越したことはないからねー」
「うむ。それに……いや、なんでもない。それより、場所はどうしようか?」
ノエルが何やら言い淀んでいたが、すぐに次の話題に進んでしまった為流れてしまった。
場所かぁ、と腕を組むクレハ。この中で最も外の世界を見てきている彼女が、こういう時に数多く提案をするのはいつもの流れだった。
うんうんと頭を捻り、考え──ぽんと1つ手を打った。
「キャンプっ!」
「却下ー」
「ダメだ」
「えっと……それだとむしろ疲れるだけなのでは……」
そして、真っ先にキャンプを提案し、否定されるまでが一連の流れなのだった。
むぅ、とむくれた顔を下からメルにもにもに揉まれるクレハ。話し合いはまだまだ続く。
────4日後────
「…………あのさ、結局名案が出なかったのは分かるよ?」
「…………あぁ」
「だからってさ…………私の家でとにかくダラダラしようってさ…………流石に違くない?」
「……言うな」
結局。
何も案が出ずうんうん頭を悩ませた結果。メルの「皆でお泊まり会したい」というその一言が飛び出した。
あまりにも案が思い付かず迷走していた残りの3人は、「もうそれでいっか」と疲れた頭でその案を採用してしまった。結果、週末にクレハの自宅に集合することになってしまった。
普段と変わらないのでは? と気付いた時には、既にお泊まり会前日となってしまっていた。何気に準備万端、何が来ても何が起きてもばっちこいだった。
「それで……メルは?」
「準備に手間取ってるってさ……そっちこそ、フィアは?」
「忘れ物があったと取りに帰って行った」
ここはクレハ宅。先に集合していた2人が、ぼけーっとソファで寛いでいた。
現在朝の10時。あと1時間で昼食の準備をしようかと話をしていたので、まだまだ時間に余裕はある。
つまり、暇なのである。
「……ノエルちゃんさぁ、もしだよ……もしも、フィアちゃんが────たら、どうする?」
「……私としては、嫌ではある。が…………フィアが選ぶのならば、仕方ないだろう」
「だよねぇ……だって、その方が自然だもんね……」
はぁ、と天を仰ぐクレハ。ううむ、と眉間を押さえるノエル。
どれだけ彼女たちが悩んだとしても、彼女たちに何か出来る問題などでは無い。自分の力でどうにかなるのは、自分の手の届く範囲のみ。
相手の中身には、どう足掻いても届かない。例え彼女たちが卓越した存在であっても。
「結局、本人次第だからね……あ、メルちゃんとフィアちゃん来た」
そうクレハが呟き立ち上がった次の瞬間、玄関から呼び鈴の音が響いた。
目を丸くするノエルに、なんて事ない、2人の魔力を感じ取っただけの事だとクレハは笑うが、それが世界有数の技術であることを彼女は理解していない。
あぁ、また幼なじみが人間辞めてる──生気のない瞳で、クレハの背中を眺めるノエル。
なまじ一般教養と常識を兼ね備えているノエルの負担は、語るまでもないだろう。彼女が幼なじみ2人の手網を握っていなかったら、クレハはもっと我が物顔でダンジョンを蹂躙し尽くし、メルはそんなクレハのために世界の有り様を作り替えてしまっていただろう。
この世界が(まだ)秩序とバランスを保てているのは、ノエルがしかと2人を管理しているから。
知る人ぞ知る苦労人であるノエルもまた、ある意味では超人の1人なのである。最も、様々な要因により、彼女にそんな自覚は一切無い。
「……もう何をしても驚かん」
ぼそりと、ノエルが呟いた決意の一言は、玄関から聞こえてきた3人が盛り上がる声にかき消された。
よし、と気合いを入れたノエルはソファから立ち上がり、玄関まで歩く。
「やぁ、メルにフィア…………メル、その大荷物は頼んでいたものか?」
「うんー。8割くらいは」
「……残り2割は?」
「書きかけの設計書ー」
「さては今回のお泊まり会の趣旨を忘れたな?」
そうだっけー? とふにゃりと笑うメルに、ノエルはただため息を吐くしか無かった。
本当にこの2日できちんと休めるのか? ノエルはただただそこが不安で仕方なかった。
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