第二場

 寝言の男 その一


 寝言の男 その一

 


 外国人傭兵部隊の間に、噂が立つ。その噂とは、神と交信する術を体得した者が居る、というものだった。

 「神との交信記録に、二万ドル払う」


 寝台の上に、黒色の球体の小型録音機が、無作為に、ばら撒かれる。

 「録音しなきゃね」男は言った。

 そのあと録音機を幾つか解体し機械の残骸が卓上にのこる。

 おれは、悪夢を見た。


 小川に沿う遊歩道、その小路に、小鳥を、つちに埋めた。可愛らしい嘴と肉片があった。

墓標に、小礫を用いて、墓石換わりにした。

 後ろの奈辺から、

 「何してるの?」と、少女の声が尋ねた。

 「小鳥を埋めたんだよ」

 と、女は言った。

 「お別れしたの。また、会える?」

 「また会えるよ」

 女は振返った。少女の涙がきらりと光った。

 

 辺鄙な隘路を、自転車を、転がしていた。すると、一匹の鼠が、そこに、死体を虚しく晒していた。

 自転車を停めて、鼠の死体を拾う。すぐ傍の民家から、スコップを借りて、水路のある土手に、埋めた。

 マウンテンバイクが、女の肉体の近くに、停められた。

 「何してるんすか」

 と、若い男が尋ねた。

 「鼠の死体を埋めたの」

 と、女は屈託もなく答えた。

 おれは、沈黙した儘、ただ立淀んでいた。

 ただ、寡黙な亡霊のように、立っていた。


 徐かな場所に、狸の死体を見た。女は狸を抱え、自分の家まで歩いていく。

 通行人は、女を精神障碍者のように見た。

 おれは、女の相貌を間近に見た。すると、驚くことに、おれの亡くした恋人の生き写しだった。

 おれは声を掛けた。

 「そのタヌキ、ほんとに、死んでるのか」

 女は、返事をしなかった。

 そうだ、おれは亡くした恋人の面影を、己れと重ねていた。

 悪夢は紙切れの如くいとも容易く醒めた。


 訓練所の近所で諍いがあったらしかった。

 「おまえら、一寸行って来い。これは、上官命令だ」

 と、女性上官が言った。


 「こういうのって、息抜きだよな」

 「お前はそう思うのか」

 助手席の同僚は、楽観していた。

 街へ、向う。

 人混みの裡、白い防護服の男が数人居る。

 「何してる。何があった?」

 「お前か。半異相者が出た。警戒してる。ここから先は行かない方がいいぞ」

 唐突に、疾く強力な存在の感覚を発散する少女が、中空を跳びながら近場に来た。

 「どうせ此処で死ぬのなら、暴れ廻って、道連れにしてやる」

 その金剛力には、瞠目する。

 変形した右腕で、戦車を真っ二つにした。

 「こいつを逃がせ。たくさん死ぬぞ」

 おれは叫んだ。

 しなやかな肢体、難攻不落の鉄壁な腰布、そこから生えた生白い美脚からは、想像を、絶するような異形の右腕。跳躍力を生かし、中空を跳び廻り、威嚇行為を度々繰り返す。

 見物人は冷ややかな笑みを零していて……、携帯デバイスで記念撮影をするほど油断していた。

 「何をやってる! 早く逃がせ!」

自嘲した。恐怖を感ぜられる場面に遭うと、笑いを堪えるのが億劫になる型の人間だった。この場に居合わせる人間の鈍感さにも笑いが沸々と込上げた。其に反し民衆を助けようという気になった。

 「逃がしたか」

 「国費の無駄だな」

 仕留めそこなったという後悔が収斂した。けれども、慙愧に耐えぬ女優が、

 「たった一人で一個小隊を相手に取る圧倒的な戦力、酷く頼もしいですね」

 おれは、上官に報告するのをためらった。

 「顔は見たか」

 女性上官は徐かに、それだけくちにした。

 「いいえ」

 これほどの屈辱を、おれは、かつて、感じたことがない。

 アラームが、鳴っている。

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