冷切新星花外三篇
小松加籟
冷切
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夢
父の声は杜切れて、ペダウはあるきはじめました。
どんどんとあるいて行きますと、ペダウはふたりの女の子と逢いました。
ひとりは茶髪の気の強そうな女性で、いまひとりは黒髪の根の暗そうな女の子でした。
ペダウは、ふたりと一しょに、二階の壁の淡水魚の泳ぐ喫茶に入店しました。
すぐに見えた若い男性の従業員はもっとも入口に近い席を勧めてきましたが、ペダウはいちばん奥の席がいいと主張しました。
その後、ふたりと別れ、父を探していたのを思い出したペダウは、色の無い――景色の死んだような海岸に来ますと、作業衣の男にこう訊かれました。
「おい、何をしてる?」
「お父さんを探してるの」
「このあたりを探してるのか」
「うん」
「そうか。任せる」
と言い置いて、作業衣の男は去りました。
作業衣の男がなぜそのように言ったのか、ペダウにはちっとも分かりませんでしたが、なんとなく元気と勇気とを得て、またあるきはじめました。
ペダウは霧の布きる広場に来ました。
そこではまばらに樹木が生えていて、子供たちの影が、楽しそうに遊んでおりました。
気がつくとペダウは和室にいました。
目の前のゆりかごの中で、かわいい赤子は無邪気に笑っていました。赤子の子守らしい中年の女性が、ペダウに話し掛けました。
「何をしているの?」
「お父さんを探してるの」
「そう……。ここには居ませんよ」
赤子はペダウのくちびるにふれました……、するとペダウの意識はもうろうとしてきて、
「ああ、この夢は覚めないかもしれない」
そう思うと心配した女性の声がしました。
教会の所有するホテルの一室に、ペダウは目を覚ましました。
「眠れませんか」
と、ホットミルクを淹れたユレンはそっと優しげに声をかけました。
「お父さんを探す夢見た」
「ペダウさんはお父さんのことが、本当は好きなのですね」
「……きらい。お父さんペダウのこと全然構ってくれないもん。なのにお父さんのこときらいって思うと、悪いのはお父さんなのに、ペダウはもう傷ついてるのに、そのきらいでまた、ペダウのこころがいたくなるの……」
ペダウはホットミルクを口にしました。
ユレンも飲んで、
「ペダウさんのお父さん、ウェルギリウスさんはシメール人全体の社会的立場の向上に努めています。それで少しペダウさんのことを構ってあげられないだけ、だと思います」
「そんなの知らないもん」
「そうですね。それが理解出来ていたら、私に協力してくれていませんよね」
ユレンは優しくほほえみました。ペダウを見守っています。それから、おだやかに言葉を続けました。
「作品とは舞台の上の霊の事でしょうか。そうすると人は肉体の上の霊の事かも知れません。肉体に収まった霊の事を、心と呼ぶのかも知れません。あるいは心臓と……」
ペダウは首をかしげました。
「私たちは、一つになるその時まで、ただ遊んでいるだけなのかも知れませんね……」
とユレンは言いました。
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