出会いと別れと旅立ち

松原 吾郎

第1話 運命の人との出会い

藤原優菜は幼いころから親が話す物語が大好きだった。小さな心には、鮮やかなイメージが浮かんで、そこにある人々が笑ったり、泣いたりする様子を思い描いた。それは彼女にとっての宝物だった。しかし、物語の中の涙は、彼女自身の涙とは何か異なっていた。


優菜が中学3年生のときだった。新しいクラスメイト、風間隼人との出会いは、彼女の人生に新たな章を開いた。隼人は優菜とは全く違う、過酷な生活を強いられていた。母親が早くに亡くなり、父親は深酒を繰り返していた。隼人の生活は苦しく、優菜はその涙を目の当たりにした。それは、物語の中の涙とは違っていた。リアルで、生々しい涙だった。

「隼人くんの家はたいへんだね。私はなにもできないけど応援はしているよ」

隼人は優奈の言葉に感謝した。

「ありがとう。母親が亡くなって父も寂しいのかな。たまに話だけでも聞いてくれると助かるよ。ありがとう」

優菜は隼人と一緒に過ごすうちに、彼がどれほど強い心を持っているかを理解するようになった。彼の笑顔の裏には、いつも涙が隠れていた。優菜は隼人に勇気を与えるため、自分の全てを注ぎ込んだ。

風間隼人と優菜の初めての会話は、体育の授業後のひと時だった。優菜は彼がひとりでじっと座っているのを見つけ、近づいていった。

「ねえ、風間くん、大丈夫?」優菜は心配そうに彼を見つめた。隼人はちょっと驚いたように彼女を見上げ、ほほえんだ。

「ああ、大丈夫だよ。ただちょっと疲れただけさ。」彼の声は穏やかだったが、その瞳には隠しきれない疲労と孤独がうかがえた。

「そうか…でも、無理しないでね。」優菜は温かく返した。隼人は頷き、その言葉に感謝の意を示した。その日から、優菜は隼人との会話を増やすようになった。お互いの夢や、好きなこと、苦手なことなどを話し合った。隼人は自分の家庭状況をほとんど語らなかったが、彼の言葉の間隙から察するに、彼は難しい状況に置かれていることを優菜は感じ取っていた。それでも、隼人は常に前向きな姿勢を見せ、彼の強さと優しさに優菜は深く惹かれていった。そして、その出会いは彼女の人生において大きな役割を果たすこととなる。出会いとは、そういうものだ。予測不能で、時には甘酸っぱく、時には苦い。しかし、それは常に私たちを成長させ、新しい道へと導いてくれる。優菜と隼人の出会いも、まさにそんなものだった。しかし、運命の歯車は残酷にも回り続けた。優菜の父親が会社を解雇され、一家は都会から田舎に引っ越すことを決めた。涙溢れる別れのときが訪れた。優菜は隼人に深く深く謝り、手を振って去っていった。

高校生活は自転車で3年間通学した。放課後、アルバイトをして家計を助けていた。そんな忙しい日々が過ぎ、月日は高校3年生となっていた。

時間は流れ、優菜は高校を卒業し、大学生になった。母親の勧めで心理学を専攻し、人間の感情、特に涙について深く学ぶこととなった。そしてある日、偶然の再会が訪れる。その人は、風間隼人だった。彼は笑顔で優菜を迎え、彼女の手を取った。

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