第8話

一週間後、深見から三件目の依頼主と連絡が取れたので葵陽はツジリと車で埼玉の川口へ向かい、川口駅の東口のところで待っているとツジリが誰かを見つけたようで車から降りその人の元に駆け寄って挨拶をすると、こちらに来てその人も車で来ているので後を追ってついて来てくれと言ってきた。


「今の男の人が宮原さん。あの青い軽自動車のがそうだから、ついて来てくれだって」


車を走らせること十五分。住宅街に入ったところで前の車が停車したので、葵陽も車を停めてエンジンを切り車から降りると、宮原という二十代の男性が差した家を見て二人は少々 躊躇ためらう思いになった。


「古いところですみません。中に家族がいるので上がってください」


その男性から聞いたが自宅は祖父母の代からあるところで築年数で六十年以上は経つという。

木造でできている民家の屋根には瓦が積んでいて所々に蜘蛛の巣もかかっていて、中庭の手入れもほとんどしていないくらい雑草が無造作に生え切っているという場所だった。お邪魔しますと声をかけて玄関から居間へ入っていくと男性の家族が二人を待ち構えていた。


「川口の方が暑いでしょう?ここ、あまり冷房が効いていないから少しだけ我慢してください」

「ここには皆さんがお住まいなんですか?」

「母と僕と妹です」

「お手紙にはお父様もいらっしゃるとお話してありますが、どちらにいらっしゃるんですか?」

狭山さやまです。父の両親がそちらにいるものですでに父もそっちに引っ越したんです」

「早速なんですが、ここの家を解体撤去してから皆さんも離散されるということで。同じ家に住まれないのは何故ですか?」

「主人とはもう離婚届を出してあります。向こうのご両親と、私の実家である京都で独り暮らしをする母がいまして、お互い認知症にかかっているんです。誰も面倒を見れる人がいないし施設にも預けるにも費用も掛かりますし」

「お子さん二人は社会人ですか?」

「はい。都内でそれぞれ働いています。ただ祖父ちゃんや祖母ちゃんたちの面倒を見るにしても仕事が有給がないのでなかなか時間が取れないんです」

「それで、皆さんの時間が合わないから離散する、ということなんですか?」

「はい。はじめはそこまでしなくてもいいと父が反対したのですが、父の両親の症状が進行していって傍についていないと何が起こるか状況が見えないんです」

「私の母も親戚が見ることにしていたのですがやはり手がかかってしまうから私が来て見てあげた方が本人が安心すると話しておりまして……」

「事情はわかりました。確かに今の状況では皆さんもそれぞれの生活もありますし、離散という事を決めたことにはこちらも口出しは致しません。どうされます?お父様はこちらに来ることは出来そうですか?」

「何度か連絡はしているんですが、デイサービスセンターの募集人数が埋まっていて祖父母の手が離せないらしいんです」

「僕からの案としましては、ここにいる皆さんをまず先に撮影しまして、その後狭山まで行ってお父様個人の写真を撮ります。それから画像編集で合成してご家族様が全員写っている状態のものを使って記事に載せる。今のところその方法の方がよろしいかと思われます」

「そうですか。やっぱり僕らの時間を合わせるのって難しいですよね。お二人もお仕事がありますし」

「そこはどうかご理解していただきたいです」


男性から狭山にいる父親の連絡先を聞いた後一度会社に戻り、ツジリと次の日程を決め後日宮原の家族の元に行くことにした。

十日後、葵陽が一人で狭山へ行き父親の住む一軒家に着いて訪ねると父親は快く出迎えてくれ、川口にいる家族と面会をして事情を聞いたと話すと、彼も時間がないので当日中に写真を撮ってくれと言ってきた。早速葵陽はカメラを手に取り何枚か撮影し、父親に使いたい画像を選んでもらってその後機材を片付けている間に父親が葵陽に話しかけてきた。


「あなたはご家族はお元気で?」

「ええ。同じ都内に住んでいます。ただ僕も似たように仕事の都合もあってあまり帰ったりしないんです」

「差し出がましいですが、帰れる時は帰ってあげた方がいい。いつ会えなくなってしまうかというのを考えると、あなたが辛い思いをしますから」

「そうですよね。僕も今回の依頼主の方々に会ってきて、家族のことを思い出すこともあります。時間ができたら顔を出そうかなって思います」

「私のようにならないように、どうか早いうちに会いに行ってあげてください」

「お気遣いありがとうございます。じゃあ、記事が仕上がりましたらまたご連絡しますので」

「こちらこそお忙しいところこちらまで来ていただいてありがとうございます」

「親御さんにもよろしくお伝えください」


葵陽はシイナ出版社に電話をかけツジリに写真が撮れたことを告げると、彼女もひと安心していた。

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