7-2

「ゴホンッ。いやぁ、かっこ悪い所を見せてしまって申し訳ない。普段のワシはこのような感じではないから、安心してくれ」


「もう手遅れですよ、九尾様。貴方が可愛いお方という事は、華鈴さんに知られてしまっているわ」


「なんと! そ、そんなことはないよな、ないよな??」


 うっ、眉を下げ、縋るような瞳で旦那様と似ている父君が見てきます。


 旦那様と似ている顔立ちなので、影が、旦那様の影が過ります!


 う、うぅ、も、申し訳ありません父君!! 

 私は、母君と同じ考えです。


 ――――――――つまり!!


「九尾様は、可愛いです…………」


「なん、だと…………?」


 だ、だって、可愛いものは仕方がありません。


 かっこいい見た目で、凛々しいのに、涙目で訴えてくるのですよ? 

 可愛いに決まっております。



 ――――――――くいっ



 ん? 袖を隣から引っ張られました。

 見てみると、旦那様が私の裾を掴み、顔を俯かせております。


「いかがいたしましたか? 旦那様」


「…………ぬし、…………てない、ぞ」


 こ、声が小さすぎて聞き取れません……!

 だ、旦那様のお言葉を聞き逃すのなど! 

 私の耳はなぜこんなにポンコツなのでしょうか!


「だ、旦那様。大変申し訳ございません、声が、その、聞き取る事が出来ず……。あの、申し訳ありません!!」


 わ、私の耳が悪いせいで旦那様に同じことを二回も言わせてしまいます!! 

 本当に申し訳ありません!!!


「華鈴は、我には言ったことがないだろう」

「言った事がない? あの、何をでしょうか…………」

「…………むぅ」

「え、え?」


 だ、旦那様がいじけてしまわれました。


 いじけている旦那様もお美しくて可愛いのですが、今回は理由がわからないため、気が焦ってしまいます。


 えっと、さっきまでの流れを思い返したら分るでしょうか。


 さっきまで、私は旦那様のご両親のほのぼのするような光景を見ており、父君には可愛いかを聞かれておりました。

 私は素直に可愛いとお答えしました。


 あ、そういえば、この時に旦那様が私の袖を引っ張ってきましたね。


 このタイミング…………もしかしてですが旦那様、可愛いと言われたいのでしょうか?!


「だ、旦那様!! 可愛いです!!!」


「…………遅い」


「申し訳ありません!! ですが、いつでも私は口に出さずに思っております。旦那様は私の中で世界一かっこよく綺麗で美しく可愛い愛おしい存在だと!!」


「それは、本当か?」


「本当です!!!!!!」


 顔を逸らしてしまった旦那様が、ちらっとこちらを向いてくださいます。


 もう、その仕草だけでものすごく可愛くて可愛くて。

 旦那様は、私をどこまで溺れさせればいいのでしょうか。


「あらあら、昔の私達を見ているような感覚になるわね、あなた」


「そうだな。このようになるまで、色々あった。お前には迷惑をかけたな」


「いえ、問題ありませんよ。それに過去があり、未来がある。私達には、過去のあの出来事も、必要だったのです。そのおかげで、こうして息子を授かる事が出来たのだから」


「…………それもそうだな。今の幸せを手に入れる事が出来たのだ、いいだろう」


 …………? お二人が何やら話しております。過去を振り返っているのでしょうか。


「七氏、華鈴さん」


「はい!」


 氷璃さんに、凛々しく通る声で呼ばれました。

 返事をし、姿勢を正し向き直します。


「お二人はあやかしと人間。今のまま順風満帆というわけにはいかないでしょう。必ずどこかで壁にぶち当たります。ですが、そこで諦めないでください。壁はあくまで壁、必ず奥に道は続いております。その道を切り開く鍵は、必ずどこかに落ちています。諦めなければ、必ず鍵を見つけ出す事が出来ます。なので、必ず諦めないで、二人で乗り越えなさい」


 氷璃さんの言葉、ものすごく重みを感じます。

 隣に座る九尾さんも真剣な表情で氷璃さんの肩を抱き、私達を見ています。


 これだけで、察する事が出来ます。

 お二人の道も、平坦ではなかったと。

 いくつもの壁があり、それを二人で乗り越えてきたんだと、分かりました。


 あやかし同士でも困難があると言うのに、私は人間。

 これからの生活、必ず何かが起きるでしょう。


 このまま幸せだけが続くことなどありえません。


「安心してください母上、父上。我らは何があっても、必ず二人で道を切り開き、目標を見失わぬように歩き続けます。途中、転びそうになろうと、我々はお互い見捨てる事はせず。必ず手を引き、歩き続けます。なっ、華鈴よ」


「っ、はい。私は必ず、旦那様について行き、旦那様のために私の人生を捧げます。何があろうと、この手は放しません。旦那様を見失う事はありません。約束します」


 私と旦那様はお互い指を絡め、ご両親に宣言します。


「ふっ、そうか」


「それなら安心ね」


 ご両親は安心したように笑うと、私達と同じく指を絡め手を繋ぎ、私達に見せてきます。

 その手には、私達にはない銀色の指輪。


 あの指輪は、代々九尾家が引き継いできた家宝と聞いております。


 九尾さんが、旦那様に九尾家を完全に任せられるようになった時、指輪と共に旦那様に託すと。そう、言っておりました。


 私達はお互い目を合わせ頷き、ご両親と目を合わせます。


「「最後まで必ず、共に歩むことを誓います」」


 声が揃うと、九尾さんと氷璃さんは優しく微笑み、頷いてくださいました。


 私の親は最悪でしたが、旦那様のご両親は素晴らしく、温かく、お優しい方。


 私は初めて、家族の温かみに触れて、思わず涙をこぼしてしまいました。


 この幸せが永遠に続かないことはわかっております。

 ですが、少しでも長く続くように、願っております。


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