6-2

「ほら、お嫁さんが困惑しているわよ」


「あ、すまんな華鈴。いきなりで驚いたよな」


「あ、い、いえ。私は大丈夫ですよ!」


「そうか。では、改めて。この人は、我の実の母親である九火氷璃きゅうかひょうり。手紙などは無く、突如来たのだ」


「言い方に棘があるわね、事実ですが」


 っ、え、旦那様? 

 なぜ、いきなり私の肩を引き寄せたのですか? は、恥ずかしいです……。


「随分と、変わりましたね。これは、七氏が頑張ったからかしら」


「華鈴が努力した結果です」


「それも、そうね」


 ??????

 な、なんの話しをしておられるのでしょうか……。何が、変わったのでしょう?



 ────お二人とも、仲がよさそうというか、楽しそうにお話をしております。

 これが、親子の会話なのでしょうか。これが、普通なのでしょうか。


 いくら考えても、私には無縁ですね。

 私に、母親はいませんでしたし……。


「華鈴さん」


「あっ、はい」


「私は七氏の実の母親です。ということは、貴方の義母にもなります」


「は、はい!」


「なので、私の事は、本物の母親と思ってください──思いなさい。ほら、お義母さんと、呼んでくださいな。さぁ、さぁ」


「え、は、え?」


 これは、え、言わないと駄目なのでしょうか。

 お義母さんと、呼ばなければならないのでしょうか。


 言いたい、言いたいです。

 ですが、私にはまだハードルが高いです。高すぎます!!


 助けを求めるように旦那様を見上げると、やれやれというように優しく頭を撫でてくださいました。ほっこりです。


「母上、華鈴が困っております。さすがに距離を縮めすぎかと」


「あら、ごめんなさい。娘が出来たのがどうしても嬉しくて、ついね」


 あ、旦那様の言葉で肩を落としてしまいました。


 うぅ、心苦しいです。私が勇気を振り絞れば、良かっただけのことなのに……。


「華鈴、ぬしはぬしのペースでよい。我らには我らのペースがあるからな、焦らずゆっくりでよいぞ」


「すいません……」


 旦那様、本当にお優しいです。

 私はその優しさに甘えて、自分で前に進もうとしておりませんでした。


 これでは駄目です、私も自ら動かなければなりません。


 私だって、お母様と呼びたいのです!!!


「ひ、ひひひひ…………」

「華鈴?」


 頑張れ私、呼ぶのだ私!!!


「…………氷璃、お、かあ、さま」


 い、言ってしまいました!!


 しかも、お、お名前付きで、言ってしまいました。恥ずかしいです!! 


 顔が熱い、下げてしまった顔を上げる事が出来ません! 



 ・・・・・・・・・・・・?



 っ、あ、あれ。なにも、返ってこない?


 ま、まさか、慣れ慣れすぎましたでしょうか?! 失礼を働いてしまったのでしょうか?!


 おそるおそる顔を上げますと、何故か氷璃さんも口を手で押さえ頭を下げております。


 隣にいる旦那様を見上げると、何故か苦笑を浮かべておりました。


 …………なんでしょうか、この時間。

 私、間違えてしまったのでしょうか。


「か…………」

「「か?」」


 か? か……? なんでしょう?


「か、かか、可愛いです華鈴さん!! その、恥じらいがあるのもたまりませんね。すぐに顔を赤くしてしまうのは初々しく、頑張っている姿は見ていて微笑ましいです。私が落ち込んでいると思い勇気を振り絞ってくださったのですね、感激しました。胸が高鳴る瞬間に立ち会う事が出来て、私は幸せです」


 氷璃さんの目がハートに見えます。

 両手で赤くなっている頬を包み、私達を見ています。


 これは、結果オーライというものでしょうか…………?



 ――――――――ゾクッ



 っ? え、なんか、急に寒くなってきました。


「あ、あの、旦那様? 急に部屋の室温が下がったような気がするのですが、気のせいでしょうか?」


「いや、気のせいではない。母上が興奮しすぎて、力の制御ができんくなっておるのだ」


「え、力の制御が……? そういえば、氷璃さんって、どのようなあやかしなのでしょうか? ────っ! え、風?!」


 氷璃さんから冷たい風が吹き荒れています。

 それだけではなく、雪まで舞っており、体が冷たくなってしまいます! 


 これって、もしかしてですが……。


「あぁ、母上は世間ではよく耳にするほど有名なあやかし、雪女だ」


「あぁ……。つまり、なにかに興奮してしまい、辺りを凍らせてしまっているという事でしょうか」


「そういう事だな」


 あ、旦那様が手のひらに狐火を作ってくださっております。

 私の身体が冷えないように温めて下さっているのですね。


 温かい。けど、寒いです。

 さすがに、寒いです。


「母上、力が暴走しています。これは父上にご報告しなければなりませんよ」


「っ!? それだけはやめて!!」


「なら、力を抑えてくださってもよろしいでしょうか?」


 あ、やっと風が収まってきました。

 まさか、父君の名前が出るだけで収まるなど。


 そんなに恐ろしい方なのでしょうか、旦那様の父君様。

 あ、挨拶する前に作法をしっかりとお勉強しなければなりませんね……。

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