3-6

「まだふくれておるのか?」


「いえ、ふくれておりません。お饅頭がおいしかっただけです」


「その割には少々不機嫌なような気がするが…………」


「そんなことありませんもん」


 旦那様、結局私の前でお饅頭を食べてくれませんでした。

 私の分と、お持ち帰り用に数個買って、今はお店を後にしたところです。


「ま、まさかだが、無理しておるのか? 美味くなかったか?」


「っ、い、いえ! お饅頭はものすごくおいしかったです。頬が零れ落ちそうになりました!」


 私は栗饅頭と葛饅頭を食べました。

 口に入れた瞬間、栗の風味が口いっぱいに広がりおいしく、葛饅頭は餡が滑らかでした。


 このような素敵なお饅頭、美味しくないわけがありません!


「ほ、本当か? やはり、団子屋の方が良かったか…………?」


 あーー!! 私のわがままで旦那様がものすごく落ち込んでしまいました。


 違うのです、私は旦那様とでしたらどこでもいいのです。

 隣に旦那様さえいれば私はどこでもいいのですよ!


「…………だ、旦那様」


「っ、なんだ? やはり、他の所が良かったか?」


「いえ、私はただ、私だけがお食事を楽しんだことで、旦那様が我慢していないか不安になったのと……」


「……のと?」


 うぅ。わがままなのです、私のわがままなのですよ。ですが、これを言わなければ、旦那様は落ち込んだままです。


 嫌われないように言葉を選んで、伝えるのですよ華鈴!!!


「…………だ、旦那様の、お食事姿を見ることができると、勝手に、考えてしまった、の、です」


 徐々に声が小さくなってしまいました。

 今のような声量ではこの人込みです、旦那様に聞こえなかった可能性があります。


 ですが、また言うのはあまりに恥ずかしい。

 顔が赤くなっているのが自分でもわかるくらい、今の私の顔は真っ赤になっているでしょう。


 穴に入りたいです!!


 自身の着物を両手でぎゅっと握っていると、旦那様がお饅頭の袋を左手に持ち変え、私の着物を掴んでいる右手を優しく握ってくださいました。


 顔を上げると、旦那様の黒い布から覗き見える口元の口角が上がっているのが目に入ります。


「あの、旦那様?」


「くくくっ、そうか。我の食事姿を目に収めたかったのか、それは予想外だったなぁ」


「す、すいません……」


「いや、嬉しいぞ。そこまで我の事を好いてくれているのだな」


「あ、当たり前です!! 私にとって旦那様は世界一なのです!」


 当たり前なことを言うなんて、旦那様、私を疑っておりますのでしょうか。


 私は何を差し置いてでも旦那様についていきますよ。

 それが例え、地獄の底だとしても。


 必ず、最後までお供しますので!


「そうか、我は幸せ者だな」


 ん? なぜか旦那様が笑っております。

 なぜ笑っているのでしょうか、私は当たり前なことしか口にしていないというのに。


「では、次の店に行くぞ」


「? はい!」


 よくわからないのですが、旦那様が幸せなのでしたら、私も幸せなので深く考えないようにします。


 私は旦那様が隣にいて、笑ってくださるのが何よりの幸せなので。

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