3-4

 戻ってきたのっぺらぼうさんは、一枚だけを手に残し、他の物はお手伝いさんの女性が持っているお盆に乗せ、私の方に顔を向けてきました。


「では、合わせますね。失礼します」


「あ、はい」


 のっぺらぼうさんが私の後ろに回り、反物を両肩にかけてくれました。


 肩に置かれている反物、さっき私が見ていた反物と似ている柄。

 でも、桜の縁には金彩きんだみが入っております。さっきのにはなかったはずです。


 あっ、肌触りがさらさらで、ずっと触っていたい。


「ふふっ、お似合いですよ、奥方様」


「おぉ。別嬪にさらに磨きがかかったなぁ」


 のっぺらぼうさんと旦那様が私をほめてくださいました。

 ものすごく嬉しいです、思わず照れてしまい顔を逸らしてしまいました。


 だって、旦那様に見つめられているんですもん、仕方がありません。


「では、お次は旦那様ですね」


「我は特にいらん」


「いえ、奥方様の反物があちらで決まりなのでしたら、旦那様は今日仕入れましたこちらにお決まりなのです。さぁ、羽織ってみてください!」


「ちょっ! …………うむ、仕方がないなぁ」


 あ、旦那様に無理やり広げた反物を羽織らせております。


 距離が近いのは気になりますが、そうでもしなければ旦那様は自分の着物を買わないと思いますので、これに関してはのっぺらぼうさんに拍手です!


「どうですか!? やはり、美男美女、これは絵になりますよ!!」


 鼻息荒いのっぺらぼうさん、落ち着いてください。

 確かに、旦那様は格好良くて逞しくて美しい方ですが、落ち着いてください。


「ど、どうだろうか、華鈴」


 頬をポリポリと掻きながら聞いて来る旦那様、少し照れているのか声が上ずっております。


「目が奪われてしまうくらい素敵です」


「そ、そうか。それならよかった」


 旦那様が羽織った反物の柄は、私が羽織ったものと似ております。


 夜桜をモチーフにしたような柄に、白い龍が自由に飛び回っているような。

 まるで、旦那様のために作られたかのような反物で、本当にお似合いです!


 私はいまだ落ち着きがないように、自身が羽織っている反物を見ている旦那様から目を離すことができません。


 もし、あれを購入する事が出来たならば、旦那様はいつも着てくださるのでしょうか。

 私と、おそろいの着物を。


 想像しただけで、幸せ過ぎます。


「あ、あの、旦那様の反物はおいくらでしょうか?」


 もし私のお小遣いで買えるものなのなら、旦那様に贈り物としてお渡ししたいです。


「旦那様の方は六十万ですね」


 ……………………六十万???


「ワ、ワカリマシタ…………」


「な、なぜそんなに落ち込むんだ?」


「なんでもありましぇん…………」


 私のお小遣いでは、ギリギリ足りない金額でした。悲しいです。


「奥方様のも同じ値段なのですが、いかがいたしますか?」


「一着は買うぞ、華鈴のをな」


「了解いたしました」


 落ち込んでいる私の肩を、旦那様が引き寄せました。

 上を見上げると、旦那様の顔を隠している黒い布が間近くにっ──!!


 し、心臓が飛び跳ねてしまいました……はぁ。


「――――ぬしは、我のこれは似合うと思うか?」


 ジィ~と見られたかと思えば、そのような事を聞いてきました。

 な、何を言っているのでしょうか。そ、その質問、答えはもう決まっていますよ!


「は、はい!! 先ほどもお伝えさせていただきましたように、目が奪われるほどお似合いです」


「そうか……。ふむ。我とおそろいのような格好になってしまうが、構わんか?」


「そ、それは願ったり叶ったりです!!」


「くくっ、そうか」


 あ、また旦那様がのっぺらぼうさんの所へと戻ってしまわれました。

 一体、何を思っての言葉だったのでしょうか。


「二着、どちらも仕立ててくれ」


「ありがとうございます」


 え、本当に二着も買うのですか!?


「今回は二着ですのでお時間を頂きます。また後日でもよろしいでようか?」


「構わん、また来る」


「お待ちしております」


 私の持っている反物ものっぺらぼうさんに渡しますと、ホクホクしながら奥へと行ってしまいました。


 残されたお手伝いさんがお値段を伝え、旦那様がお支払い。

 お会計が終わり、お店を後にします。


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