第五話 復活の条件
〜シャカール視点〜
ブッヒーの狙い、それが魔王の魂を他の肉体に移植させることだと知った俺は、やつがこの世界に魔王を復活させようとしているのだと悟った。
「歴史では勇者と言われるようになった異世界転生者は、魔王プリパラにとどめを刺すことができずに、肉体と魂を切り離し、魂の方を封印したと言われている」
俺の持っている資料を覗き込みながら、今まで黙っていたルーナが口を開き、歴史を語り出した。
「封印か。でも、この資料を見る限り、魔王を復活させようとしているブッヒーには、既に魔王の魂を手に入れていると思っていた方が良さそうだな」
「そうね、時間は限られていると思っていた方が良さそうだわ」
魔王の復活を止めるにしても、情報が少ない。情報を集めるには人手が必要だ。
この世界に魔王が復活する。その話を広めたとしても、多くの人たちは信じようとはしないだろう。
頭のおかしいやつだと思われ、異端者扱いされる可能性だってあり得る。
やっぱりブッヒーのやつが住んでいる場所に乗り込み、やつを止める方が一番の近道となるだろうな。
「ルーナ、ブッヒーの居場所はどこなのか知っているか?」
「残念ながら、ワタシは知らない。噂では、走者委員会の奴らは住居をいくつも持っており、その時の気分で移り住んでいるらしい。もし、住居を特定したとしても、もぬけの殻となっている可能性もあるだろうな」
住居を複数所持しているのか。一ヶ所を特定するのも難しそうなのに、それが数多くあるとは。虱潰しをしている時間はない以上、一回でブッヒーの居場所を突き止める必要がある。
「所長、ブッヒーとコンタクトを取ってくれ。魔王の魂を移植する実験の過程で面白いものを発見したと言えば、食いついてくるはず」
相手の居場所が分からなければ、相手の方から来させれば良いだけのこと。そう思って、所長に指示を出した。
「悪いがそれはできない。ブッヒーからは一方的に連絡が来るのだが、こちらからは連絡を取ろうとすることができない。以前、リピートバードにメッセージを授けたが、相手の居場所を突き止めることができずに帰ってきた」
こちら側から連絡が取れない事実に、歯を食い縛る。
「魔王の魂の研究はどこまで進んでいた。もし、まだ未完成なら、痺れを切らして向こうからやってくるはず」
最後の望みに縋る気持ちで所長に訊ねる。だが、彼は首を横に振った。
「残念だが、魔王の魂の実験は既に完成している。そしてその方法はやつに送っていたのだ。KINNGU賞の前日にな」
所長の言葉に衝撃を受け、額から脂汗が噴き出る。
「どうしてそれを最初に言わない!」
「聞かれなかったからな。お前たちが命令したのは、研究データーの資料だ。ふふふ、お前たちへの俺からのプチざまぁだ……ぎゃ!」
所長の言葉に腹が立ち、俺は咄嗟にクリープの匂いがする香水を彼にかけた。
その瞬間、所長は短い悲鳴を上げ、急いでトイレへと向かっていく。
事件の真相を知った時には既に遅い。物語などでは起きることだが、現実に体験する日が来るとは思ってもいなかったな。
「いや、まだ魔王は復活できない」
「復活できないって、何を根拠に?」
いつの間にか、俺の手から資料を引ったくっていたルーナが資料を見つつ、呟く。
「ここには、魔王の魂の移植に必要な肉体が重要と書かれてある。どうやら魂と肉体の相性が良くないと、完全に復活とは言えないようだ。ナナミとカレンニサキホコルのようにひとつの肉体に二つの魂が存在してしまい、両方の魂が消滅して肉塊となってしまうらしい。それに、他にも月の満ち欠けも重要とのことだ」
「と言うことは、どちらかが欠けていれば、直ぐに魔王を復活することはできないか」
タイミングが合わねば、魔王が復活することはない。
安心しきることはできないが、今は魔王の魂を移植できる人物が発見されないことを祈るしかないな。
〜ブッヒー視点〜
「ブッヒー、例の件は順調か?」
「ええ、あなた様の希望通り、事が進んでおります。魔王様の魂の移植実験は完成しており、時を待つだけだと」
俺はニヤリと笑みを浮かべ、対面している魔族に
「そうか。魔王様復活の時は近い」
「ええ、そうですね。魔王様が復活すれば、この世界は暗黒時代の再臨となるでしょう」
魔族の男に言葉を返し、俺はソファーに寝かされている少女に視線を向ける。
魔王様の魂と相性の良いと思われる少女を見つけ出し、拉致することができた。今は睡眠魔法で深い眠りに付いている。
全ての駒は揃った。後は儀式を行うだけ。満月の夜に少女の肉体に魔王様の魂を入れ、魔王様を復活させる。
そうすれば、この世界の魔物たちは凶暴化し、異世界転生者が活躍していたあの時代と同じことになる。人々は魔物に恐怖を抱き、苦しみ、嘆く。
土地は荒れ、食物が育たなくなり、生物は生き残るために同族を殺し合う混沌の世界になるだろう。
「満月の夜が楽しみだな」
「ええ、そうですね」
魔族の男に言葉を返し、俺は祈った。
どうか、あの女が魔王様の器としての適性がありますように。
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