第十九話 パンデミックの終わり
ローレルの策略により、この場にタマモを連れ込まれてしまった。なんとか脱出方法を模索できてはいるが、現状では逃げ道は一ヶ所しかない。
しかし、辺りを見渡しても、他に脱走できそうな場所は存在しなさそうだ。
こうなってくると、脱出できるのは、ローレルが塞いでいるあの出入り口だけだな。
「さぁ、シャカール。あたしとひとつになりましょう」
全裸のタマモがゆっくりと近付いてくる。
こうなったら仕方がない。アレを使うしかないな。
「お前が正気でない状態でそんなことができるかよ! リストレイン!」
拘束魔法を発動し、ロープが出現する。すると、それは蛇のように動き、タマモとローレルの腕と足を縛り上げた。
よし、上手く彼女たちの動きを封じることができた。
この魔法には、当たりと外れがある。当たりの場合は、今のようにロープで腕などを縛り上げ、行動に制限をかけることができる。しかし外れの場合、結び方が亀甲縛りとなってしまうのだ。
特に裸体のタマモに対して亀甲縛りのパターンを引いてしまえば、完全にアウトだっただろう。
「よし、今だ」
「逃がしません……きゃぁ!」
俺を止めようとローレルが前に出ようとした。だが、足も拘束されていることでバランスを崩し、その場で転倒してしまう。
その隙を突いて倒れているメイドを横切り、物置小屋から脱出する。
だが、外に出た瞬間、俺の足が止まってしまった。
「シャカールトレーナー見つけました」
「シャカール君。どうしてママから逃げるのですか? 悪い子にはお仕置きが必要ですね」
「シャカールちゃん。年上のお姉さんとして、マーヤが優しくしてあげるよ」
『下ネタ番号よ。番号が下ネタなのだから良いではないか』
カレンニサキホコルのセリフに対してツッコミたいところだが、流石にそんな余裕がない。
彼女たちはいくつものレースを優勝している実力者だ。そんな彼女たちが一斉に襲ってきたら、逃げ切れる自信はあまりない。
「楽しいパーティーを始めましょうよ。シャカールトレーナー! ウインドカッター!」
「ママのお仕置きは痛いかもしれませんが、シャカール君が良い子になるためには必要ですよね。ロック!」
「マーヤの愛を受け取って! アクアジェット!」
『競走馬の世界では、みんなに見られながらの交配は当たり前だぞ! サンダースネーク!』
風の刃、巨大な岩、勢い良く飛び出す水圧。そして蛇の形を模した雷が一斉に襲いかかってきた。
こいつら、俺を殺す気か! こんなものが直撃したら、シャレにならないぞ。
俺が逃げ続けることで、彼女たちが性欲の吐口を見出すことができずに鬱憤が溜まっているのだろうか? もし、そうなら、自分自身で慰めれば良いだろうが。
全ての攻撃は、俺の立っている場所へと放たれている。誰も俺が避けることが前提で攻撃を放ってはいない。
横に跳躍すれば、回避できる。そう判断し、直ぐに横に飛ぶ。
すると、先ほどまで立っていた場所に、風の刃と巨大な岩、そして勢いのある水圧が地面に当たった。
だが、雷の蛇だけは進路を変更して俺へと飛んでくる。
『お主が避けることは計算済みじゃ。この魔法は追尾能力もある。命中するまで襲いかかってくるぞ』
チッ、そんな魔法まで隠し持っていたのか。
逃げても追いかけてくる。そうなると、あの魔法に立ち向かっていくしかない。
「ウォーターシールド」
水の防御魔法を発動し、空中の水分子を集めて水の塊を作る。その水は盾のような形を模ると、雷の蛇と接触し、エネルギーを吸収した。
雷のエネルギーを吸い取った水の盾からは、パチパチと音が鳴る。
「防がれてしまいましたよ!」
「ここはマーヤにお任せ! シャカールちゃんの水を操ってあげる!」
マーヤが言葉を放った瞬間、水の盾は俺に向かって飛んできた。咄嗟のことで直ぐに動くことができずに、電気を帯びた水と肉体が接触してしまう。
「ぎゃああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ……なんちゃって」
電気を帯びた水が肉体に接触した瞬間、俺は演技で苦しむ振りをした後、直ぐに嘘だと告げる。
「そんな! 電気を帯びた水が肉体に接触したのにピンピンしているなんて」
「水が電気を良く通すと言うのは、水に不純物が混ざっていた場合だ。だけど、俺が魔法で生み出したのは、純度100パーセントの純水だ。純水のような水分子だけしかない状態だと、ほんの少ししか電気を通さない。電気を通すといった現象は、電荷をもっている物質が移動することになる。なので、電荷を通す物体がない場合は電気を通すことはない」
クリープたちに気付かれないように強がって言葉を放つ。
確かに純水の場合、電気を通し難いのは事実だが、絶縁ではない。なので、静電気を受けた時のような痛みは感じてしまう。
このままタイムリミットまで時間を稼げば、俺の勝ちだ。そう思った瞬間、俺の脇から、ニュッと腕が現れた。その直度、背中に柔らかい物が当たる。
「捕まえたわよ。シャカール♡」
背後を取られて姿を確認することはできないが、この声はタマモだ。
「タマモ、どうしてだ。お前は俺の魔法で身動きが取れないんじゃ」
「そんなもの、わたしの炎で燃やしたわよ。まだまだ詰めが甘いわね」
「さすがタマちゃんだわ。これでシャカール君の動きを封じ込めたし、優しいお仕置きを始めましょうか」
クリープたちが近付く。彼女たちは俺のズボンを下ろし、パンツに手をかけた。
万事休すか。
そう思ったその時、暗闇から薄らと照らす灯りが現れる。
「太陽が登り始めている」
「アレ? どうしてわたしはこんなところに居るのでしょうか……ってわたし、下着姿ではないですか! しかも目の前にシャカールトレーナーもいますし! シャカールトレーナーの変態!」
「あらあら? どうしてママはシャカール君のパンツの縁を握っているのでしょうか? もしかして、お着替えを手伝っていましたか?」
「なぜかお互い半裸の状態! これは神様がマーヤに与えてくれたチャンス! 今こそシャカールちゃんをマーヤの魅力でメロメロに!」
『下ネタ番号よ。これはどう言うことじゃ? ことの次第では、お主を去勢することになるが』
「どうしてあたし、全裸でシャカールに抱きついているのよ!」
「ぎゃあ!」
タマモに蹴飛ばされ、俺は地面の上を転がる。
おそらく俺は、これから半殺しにされるだろう。だけど、恐怖よりも、彼女たちが薬の効果が切れて戻ったことに対しての安堵の方が強かった。
その後、正気を取り戻したルーナが来て説明をしたことで、俺はシェアハウスのメンバーたちから半殺しにされるのを免れ、クリープは反省した。
しかし意図しての行いではなかったので、厳重注意と言う処分に終わったのだ。
「そう言えば、どうしてシャカールトレーナーは媚薬入りのお菓子を食べたのに、平気だったのですか?」
「あ、それか。それは俺が薬なんかに屈しない強い精神力を持っていたからだ」
「なるほど、だから童貞を守ったと言う訳ですか。さすが童貞王……きゃ!」
アイリンの頭にチョップをお見舞いする。
まったく、納得してくれそうな言い訳を言うと調子に乗りやがって。
おそらく薬の効果が出なかったのは、俺が薬漬け走者だったからだろう。研究所では、媚薬の成分の入った薬を体内に入れられたこともある。だから、体に耐性がついて、薬の効果が出なかったのだろうな。
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