第九話 薬草と山盛りお菓子
〜シャカール視点〜
タマモと和解することができ、ホッと一安心した日から数日が経ったそんなある日、クリープの様子が少し変なことに気付いた。
彼女は何やら数多くの草を外から持ち込み、台所に立つとそれを使って何かを作っている姿が度々目撃するのだ。
彼女はいったい何を作っているんだ? 気になった俺は、クリープに近付き、声をかけることにする。
「クリープ、最近草を持ち込んで、いったい何を作っているんだ?」
「あら、シャカール君。ママはお薬を作っているのですよ。これらは薬の材料です」
台の上に置かれている草を手に持ち、薬の材料であることを告げられた。
薬を作っている。つまり、ここにあるのは薬草となる野草なのか。良く見ると、道端で普段見かけるものもある。俺にはどこからどう見ても雑草のようにしか見えないが、薬草になる草花だったのか。
「ハックチュン、ハックチュン」
持ち込まれた薬草に関心していると、クリープが可愛らしいくしゃみをした。
「風邪か?」
「ええ、最近ちょっと微熱が続いていまして。今作っているのは別のお薬なのですが、そろそろ新しい風邪薬を調合しないといけませんね」
「そうか。無理をしないでくれよ。夜は早く休んで体力の回復に努めてくれ」
「ありがとうございます。ですが、今作っているのは、ケモノ族には必須のお薬なので、この薬の調合だけはおろそかにする訳にはいかないのです」
ケモノ族には必要な薬と言われ、好奇心を刺激される。しかし、これ以上クリープの邪魔をしては、彼女の体調に悪影響を齎すかもしれない。
今度機会があった時にでも、聞くことにするか。
「これ以上邪魔をする訳にはいかないから、俺はこの辺で退散するよ。それじゃ」
クリープから離れ、俺は自分の部屋に戻る。
翌日、クリープの風邪は治ったらしく、元気になった。みんなに心配をさせたのが申し訳なかったようで、彼女はお菓子を作り、みんなに振る舞う。
「クリープ先輩の作るお菓子、美味しいですね。これを食べると、元気がでそうですよ。爆進しそうです!」
「本当にクリープちゃんは料理が上手だね。シャカールちゃん。マーヤがあーんしてあげるよ」
アイリンが考え無しにお菓子を貪る中、マーヤが一枚のクッキーを摘み、口に挟む。そして俺に顔を近付けてきた。
「いや、自分で食べるから良い」
マーヤの申し出を断り、一枚のクッキーを摘むと口に運ぶ。
うん、美味しい。ハーブでも入っているのだろうか? 香りの良い味が口の中に広がっていく。
「クリープさんの作る料理って美味しいですね。わわわ、カレンニサキホコルさん!」
『せっかくだし、妾も味わってみたい。どれ、それでは食べてみるかとするかのう。うーん、美味じゃ。ナナミの肉体であるからか、このクッキーとか言う食べ物も美味しく感じられる。おっと』
「もう! 勝手に表に出ないでよ! びっくりするじゃない! って、わわ!」
『せっかく妾が美味しいものを食べているのに邪魔をするではない。どれ、今度はこのビスケットとやらの食べ物をいただくとするかのう』
さっきから、ナナミとカレンニサキホコルが交互に表に現れ、クリープの作ったお菓子の争奪戦を始めた。
1人で2役をしている役者のように、次々と表情を変えていくので、見ていて面白かった。
「カレンニサキホコルさんは、しばらくの間表に出るのは禁止! もう直ぐ校舎に向かう時間なんだから。あ、そうだ。クリープさん、これ、友達に分けても良いですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。張り切って、たくさん作りすぎてしまったので、お裾分けして貰った方が助かります」
そう言うと、クリープは台所へと向かって行く。そして戻って来ると、彼女の手には大皿があり、その上には文字通りの山のようになっているお菓子が載せられていた。
「これはほんの一部です。まだまだあります。多分、学園の女子生徒全員にあげるくらいの量はあるかと」
クリープの言葉に、苦笑いを浮かべる。
学園の女子全員って、どれだけ張り切って作ったんだよ。それに、女子全員ってことは、男子生徒には上げない前提になっていないか? まぁ、マーヤやアイリンが男子生徒に渡す姿を想像できない。
ワンチャン、ナナミは優しいからあげるかもしれないが、大切な義妹が俺以外の男子にお菓子を渡す光景は想像したくない。
『下ネタ番号、安心しろ。もし、ナナミが男子生徒にお菓子を配ろうとしたら、妾が表に出て阻止してやる』
カレンニサキホコル! お前、どうして俺の考えていることがわかる! もしかして、心を読むことのできる能力でも持っているのか!
『勘違いをしていると思うので言っておこう。妾は別に心を読むことはできない。下ネタ番号は顔に出ていたからそう思っただけだ』
どうやら思考していたことが顔に出ていたようだ。今後は気をつけたほうが良さそうだな。
「そう言えば、タマモさんは朝から見ていませんね。まだ寝ているのでしょうか?」
アイリンの言葉が耳に入り、そう言えば俺も見ていないなと思った。
寝坊するとは珍しいな。
「ちょっと、タマちゃんの様子を見てきますね」
クリープが椅子から立ち上がり、廊下に出ると階段を登って2階に上がっていく。
そして1、2分程して戻ってきた。
「クリープ、タマモは起きていたか?」
「はい。ですが、彼女は部屋から出す訳にはいきません。あの部屋は今から立ち入り禁止とし、封鎖します」
「え?」
予想できなかった言葉に、俺は衝撃を受けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます