第二十一話 手術と言う名の拷問

 〜所長視点〜






「さぁ、手術を始めましょう。このオペが終わった時、あなたは良い子として生まれかわります」


 愛の戦士だと名乗ったウサギのケモノ族、仮面で顔を隠しているが、どう見てもまともなケモノ族ではない。


 扉は何故か開けることができなくなっている。他にこの部屋から脱出する場所はないだろうか。


 愛の戦士が一歩ずつ歩いて近付く中、俺は立ち上がってその場から離れる。そして逃げ出すための窓がないか探した。


 だが、窓らしきものはどこにも見当たらない。つまり、俺は密室に閉じ込められた状態と言う訳だ。


「あっ!」


 足元に何かが落ちていたようで、それに躓いてしまい、転倒してしまう。


 顔面を強打する中、ゆっくりと腕に力を入れて上半身を起こした。


「逃げても無駄ですよ。まぁ、ママとしましては、そのまま暴れて体力を使い果たして逃げる気力を失った方が、助かるのですが」


 くそう。変質者なんかに捕まってまたるか。


 俺は立ちあがろうとした。だが、転倒した際に足首を痛めてしまったようで、立ち上がることができない。


「どうやら、鬼ごっこはここまでのようですねぇ。では、早速手術を開始しましょう」


 愛の戦士が俺の前に回り込むと、彼女はしゃがむ。そして俺の右手の人差し指を掴んだ。


 彼女に指を掴まれた瞬間、恐怖と言う感情が一気に爆発し、嫌な予感が脳裏をよぎった。


「えい!」


「ぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 彼女が上擦った声音で声を上げた瞬間、俺の人差し指は普段曲がることがない方向へと曲がっていた。それと同時に激痛が走り、叫び声を上げる。


「うーん、悪い子が見せる絶望と恐怖に染まった顔は、いつ見ても不細工ですね。こんな顔は、ママは見たくありません。ですが、良い子に戻るためには、必要なことなのです」


 今度は中指を掴まれた。先ほどと同様なことが起こり、俺は再び悲鳴を上げる。


 こいつ、狂っていやがる。始末したいのであれば、さっさと殺せば良いのに、まるで苦しむ姿を楽しんでいるかのように、少しずつ指を折ってきやがる。


 だが、俺が悲鳴を上げれば、さすがに声が漏れるはず。俺の悲鳴を聞いた者が駆けつければ、俺は助かるかもしれない。


「さっきから、醜い声で叫びますねぇ。あんまり叫ばないでくださいます? そ・れ・と・も・最初に喉を潰しましょうか?」


 愛の戦士の腕が俺の首に近付く。


「ひっ!」


「なーんて、嘘です。好きなだけ叫べば良いですよ。どうせ、あなたの声は外には漏れません。仲間が防音の魔法をこの部屋にしてくださっていますので、好きなだけ叫べば良いですよ」


 俺の考えた僅かな希望は呆気なく潰えてしまった。その後、足も含めて残った指を全て折られ、ほとんど思考が止まってしまった。


 永遠に続くのではないかと思う痛みに、死んだ方がマシだと思ってしまう。


「さて、残ったものは、アレだけですね」


 彼女の視線は俺の股間へと注がれた。


 まさか、俺のムスコを折る気か!


 男性器は柔らかそうなイメージだが、骨折することもある。


 男性器に硬度がある状態で過度な力を加えると、海綿体などの内部組織が断裂するのだ。放置すれば男性機能に後遺症が残る可能性もあり尿道を損傷したままでは排尿もできない。


 ポキっとなったら、急いで医者に見せなければ、日常生活に支障が起きるし、子孫を残すことも難しくなる。


 頭の中でムスコが骨折したときのことを想像する。指であれほどの激痛だ。ムスコが折れたら、どんな痛みを感じてしまうのだろうか。


 想像を膨らませていると、何故かムスコが戦闘体制に移行し始めた。


 そんなバカな! 俺はマゾではない! 想像しただけで反応する訳がない!


「股間を膨らませて、何を期待しているのですか? ママが汚らしいあなたのアレを触る訳がないじゃないですか? うーん、見た感じだと、まだ良い子ちゃんに戻る傾向がないですね。仕方がないです。それでは、第二のオペを開始しましょう。ネイチャーヒーリング」


 愛の戦士が魔法名のようなものを口走った瞬間、俺の体が光に包まれた。その光は温かく、傷ついた心を癒してくれるように錯覚した。


「うそ……だろう? 骨折が治った?」


 そんなバカな! 回復魔法は、転生者が魔王を倒したあの日から時を重ねて失われた魔法のはず!


 時を操る系の魔法か? いや、そしたら先ほど感じた温かい光の説明がつかない。時を操って俺自身が骨折する前に戻った場合、あの光の現象は起きない。


 つまり、この女は失われたはずの回復魔法が使えていると言うことになる。


 愛の戦士、彼女はいったい何者なんだ?


「それでは、もう一度やり直しましょう」


 そう言って、彼女は治ったばかりの俺の指を再び折った。


「ぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「痛い? 痛いでしょうね? でも、シャカール君やナナミちゃん、それに他の子どもたちが受けた心の痛みは、こんなものではありませんよ。あなたが他人の痛みが分かる、心の優しい方に生まれ変わる必要があります。そのためにママは心を鬼にします。辛いのはあなただけではないのですよ」


 辛いのは俺だけではない。そう言いながら、彼女は俺の指を折っては治すを繰り返した。


 死んだ方がマシと思えるほどの永遠と続く拷問に、俺の心は壊れていく。


 もう考えられない。どうして俺はこんなに辛い目に遭っているんだ? いったいいつから道を踏み外してしまったのだろうか? 俺はただ、人族と言うだけで見下される人生に嫌気がさし、この世界を変えてやろうと思っただけなのに。


「あなたが良い子になれば、この地獄から解放されるでしょう」


 意識を失いかけた中、そんな声がどこからか聞こえてくる。


 良い子になれば、この地獄から解放されると言うのであれば、いくらでも良い子になってやる。


「俺は……良い子になる……だから……助けて」


「時間がかかりましたが、無事に手術は成功ですね」

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