薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳

第0話 最初からクライマックス!魔王杯残り1000メートル

『我々の運命をかけた魔王軍VS魔走学園のレースバトル、魔王杯も終盤に差し掛かりました。残り1000メートルです』


『まだまだ差し返せる距離です。諦めるにはまだ早いですよ』


『それでは順位を振り返りましょう。依然先頭ハナを走るのは魔王プリパラ、5メートル離れてウイニングライブ、3メートル離れてタマモ、その後方にサザナミ、右側を走りましてマーヤ。その左側をサイレントキル、ここでカルディアが並んできた。1メートル離れてルビー、彼女を追いかけるようにしてガロンが走る。追い越そうとしているのか、キリングが速度を上げて来たぞ! 2メートル程離れてクリープが足を溜めている。その外を走りましてナナミ、そして内を走りますコールドシーフ。その横ロバートが続いて行く。そしてその後方にブリーザ、そしてシャンデリアン。更に1メートル後方にアイリン。彼女の背にピッタリとくっ付く形でシャカールの順番となっています』


『先頭から殿までおよそ12メートルの縦長の隊列となっていますね。この開きはとても気になります』


『魔王軍VS魔走学園ですが、現在魔王軍、魔王軍、魔走学園、魔王軍、魔走学園、魔王軍、魔王軍、魔走学園、魔王軍、魔王軍、魔走学園、魔走学園、魔王軍、魔王軍、魔王軍、魔王軍、魔走学園、魔走学園の順位で魔王軍がリードしています』


 実況解説席から、アルティメットとサラブレットが状況を教えてくれている。


 よし、今は予定通りの隊列になっている。今の俺は、アイリンの背にピッタリとくっつけながら、スリップストリーム走行をしているお陰で、風の抵抗を受けることはない。このまま彼女に陰に隠れつつ、スタミナの消費を軽減する。


「トレーナー! シャカールトレーナー!」


 次の段階に踏み込むために冷静にレースを分析していると、俺の壁役を担当しているアイリンが走りながら声をかけてくる。


「どうした?」


「ご、ごめんなさい。わたし、もう……ムリです。これ以上は走れません。せっかくシャカールトレーナーの風避けと言う大役を請負ったと言うのに、全然使えない弟子で申し訳ありません」


 アイリンが謝罪をしながら謝ってくる。彼女はエルフだ。人間よりも走れるとは言え、亜人の中では下位に位置する。これ以上は、スタミナの限界か。


「ここまでサンキュ! 短距離、マイルが専門のお前にしては頑張った。お陰でスタミナの消費を抑えることができた。お前はリタイアして休め」


「はい。ご武運をお祈りしています」


 次第に速度を落とすアイリンの隣を横切り、速度を上げる。


『ここでアイリン走者が速度を緩める! その間にシャカールが追い越した! 現在17位』


『隊列が縦長になっているので、まだ外、内からでも追い上げることは可能です。果たして、彼がどこまで追い上げてくれるのか』


 アイリンが脱落したことで、次の段階に入る必要がある。とりあえずはこのまま加速して、クリープとナナミのところまで順位を押し上げる。


 走っていると、魔王軍側の走者の背中が見えた。長い赤い髪に背中から生えている悪魔の翼、それに柔からかそうな尻から察するに女性だ。


 速度を上げて彼女の横に並ぶ。


「おや? 追いつかれてしまったかい。あんたとこうして走るのは、無限回路賞以来だね」


 女性の魔族は顔見知りのように話してくる。だが、正直俺は彼女のことを覚えていない。


「うん? お前誰だ?」


「シャンデリアンよ! 一緒に無限回路賞を走ったじゃない! 転倒したタマモに巻き込まれて派手に転んだ挙句、最後の最後であんたに負けた!」


「あー、すまん。俺、あの時後方に居たからその瞬間を見ていなかった。それにラストスパートで、タマモを落とさないように走るように集中していたから、全く覚えていないや」


 俺が覚えていないと言うことは、所詮モブだ。こんなやつに構っていないで、先に進む!


『ここでシャカール走者、更に速度を上げてシャンデリアンを追い抜く! 現在16位』


『順調に順位を上げています。いい調子ですね』


 順位を上げて行くと、今度は死人みたいに青白い魔族の男と、タキシードを着た魔族の姿が視界に入る。


「くそう! もう追い付きやがったか!」


「これ以上は進ませない! ここでお前を叩き潰す!」


 2人の魔族の体から、練り上げた魔力を魔力回路全体に行き渡らせるのを体感で感じとる。


 こいつら、俺に魔法を放つつもりか。そうはさせるかよ!


「うるさい! 雑魚モブ雑魚モブらしく! 俺の炎に焼かれろ! ファイヤーボール!」


「ぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁ!」


「モブにもちゃんと名前があるのだからなぁ!」


『シャカール走者が放った火球がブリーザとロバートに直撃! 火だるまとなって芝の上を転げ回る! その間にシャカール走者が追い抜き、現在14位だ!』


『ブリーザ、ロバート共にG I優勝経験がありますが、モブ顔なのは事実ですからね。彼の言葉に頷く人は多いでしょう』


 これでまた順位を上げた。だけどまだ魔王との差はさほど縮まってはいない。


 走っていると、次に金髪の長い髪に赤い服を着た目立つ走者が視界に入る。


 俺の前を走っているのはコールドシーフか。


 徐々に近付き、彼女の横に並ぶ。


「あいつらでは時間稼ぎにしかならないと思っていたが、まさかこんなに早く追い付いて来るとは思わなかったな。ここで君を倒して、レコンドル杯の借りを返させてもらうから」


 コールドシーフが話しかけてくるが、今は無視だ。


「この私が話しかけているのに無視するとか、流石に傷つくんだけど? あ、そうだ。せっかくだから、君にプレゼントがあるんだ。はい、これ。コールドシーフちゃんのヌードチェキ。前回とは違って、完全全裸! しかも無修正版コールドシーフちゃんの大事な部分も丸見えだぞ」


 視界の端に、コールドシーフが何かを手渡すのが見える。


 なるほど、前回と同じ手で俺を妨害するつもりか。なら、俺の方もしかけさせてもらう。


「あー、なるほど。だから勝負服から乳首が浮き出ているのか。どおりで、男共がお前の胸に視線を送る訳だ」


「え! うそ! チェキを撮った後、ブラをし忘れていたの!」


 横目でチラッと見ると、コールドシーフは服を引っ張って自身の胸をみる。すると彼女の顔は一気に赤くなった。


「って、普通にブラをつけているじゃないの! 騙したわね! バカ! バカ! バカ! 変態!」


 俺の嘘に引っ掛かったことに気付くと、彼女は俺に暴言を吐いてきた。


 これでよし、コールドシーフはメンタルが弱い。一度心を乱せば、本来の走りを取り戻すのに時間がかかってしまう。


『ここでコールドシーフの走りに異変が起きた! 彼女が何か怪しげな作戦を実行していたようだが、失敗に終わったのか?』


『彼女は他の走者を惑わして順位を上げるのが得意ですが、失敗すれば一気に乱れることがあります。この光景はレコンドル杯でも見たような気がしますね』


『さぁ、ここで更にシャカール走者が順位を上げ、13位になりました。ですが、先頭ハナを進む魔王プリパラは、ここで最後のギミックであるモンスターゾーンに突入だ!』


『モンスターゾーンでは、魔王プリパラと魔族以外の種族をモンスターが攻撃してくる仕組みとなっております。このギミックは、魔王軍以外は大きな痛手となるギミックです。果たして他の種族たちは、このピンチをどうやって切り抜けて行くのか見守りましょう』


 魔王プリパラが最後のギミックに到達したか。もう少し距離を縮めておきたかった。


 ゴールに向けて走っていると、今度は黒いショートヘアーの女の子と、頭にウサギ耳が着いた白髪のロングヘアーの女の子の姿が見えた。


 黒い髪のショートヘアーの女の子は、俺が研究所で実験動物モルモットとなって薬漬けの日々を送っていた時に同じ研究所にいた子だ。血は繋がっていないが、俺を兄と呼んで慕ってくれている。


 そしてウサギ耳のケモノ族は、学園の先輩だ。俺を甘えん坊にさせて良い子にさせる計画を練っていたが、俺に敗れて以降、良き先輩として接してくれている。


「ナナミ! クリープ!」


「お兄ちゃん!」


「良かった。作戦通りにここまで順位を上げることができましたね」


「ああ、だけどプリパラの足が俺の予想よりも早い。俺たちも一気に駆け抜けるぞ」


「うん、分かった」


「ええ、行きましょう。彼女の好きにはさせません。悪い子は後で、ママがお仕置きです」


 クリープがお仕置きをすると言った瞬間、背筋に寒気を感じる。


 この勝負に勝たなければならないが、勝った後に魔王の身に起きる罰を想像すると、可哀想に思ってしまう。


「くれぐれもお手柔らかに頼むよ」


「シャカール君がそう言うのでしたら、誰でも良い子に戻れるハッピーコースはやめておきますね」


 クリープの言葉に苦笑いを浮かべながら、俺たち3人は速度を上げ、加速して行く。


『ここでクリープ、ナナミ、シャカールが加速した! 魔王プリパラはモンスターゾーンを抜けたが、ここで追い上げてきた!』


『3人とも良い走りです。このまま行けば、僅かながら希望が見えてきます』


 芝の上を駆け抜け、俺たちは最後のギミック、モンスターゾーンへと突入した。その瞬間、芝の上に召喚されたモンスターが次々と襲ってくる。


「悪いモンスターさんたちは、ママがお仕置きしますよ。えい!」


 クリープが目の前に現れたオオカミ型のモンスター、ハクギンロウに蹴りを入れる。するとモンスターは吹き飛ばされ、前方を走っていた魔族に直撃した。


「シャカール君、ここはママたちに任せて、先に進んでください」


「ズルをする魔王軍には、ナナミたちがモンスターの弾丸をプレゼントするから」


「分かった。でも、ムリだけはするな。命の危険を感じたら棄権するんだ」


 仲間に棄権することを視野に入れるように伝えると、俺は更に先頭を目指して突き進む。


『クリープ走者が蹴り飛ばしたモンスターが、ガロンとキリングに直撃した! 魔族の恩恵を得ることなく、モンスターに押し潰されて行く!』


『良い連携です。このまま行けば、シャカール走者が更に順位を上げて行くことができるでしょう』


 クリープとナナミが道を作ってくれたお陰で、先に進むことが可能となった。今の内に順位を上げる。


「グハッ!」


「ぎゃああああああぁぁぁぁぁ!」


「すみません。魔王様、どうやら俺たちはここまでのようです」


 まだモンスターゾーンを抜け切っていない中、ひたすらゴールに向けて走る。すると敵の魔族が風の魔法に吹き飛ばされ、伸びているのが見えた。


「やっと来ましたか。自分よりも下の順位の魔族の足止めなんて、ウマ娘である私のすることではないのですが?」


「ヤッホー! シャカールちゃん! 言われた通りにこいつらは倒しておいたよ。早くタマモちゃんを追いかけて上げて。シャカールちゃんをサポートするのは、彼女であるマーヤの仕事だもん!」


「自称彼女、その発言は良いかげんにやめてください。聞いていてイラッとします」


 モンスターゾーンを走っていると、先ほど魔法で吹き飛ばしたと思われる2人組の女性が視界に入る。


 1人は自称俺の恋人を騙るマーヤだ。水色の髪をハーフアップにしており、髪の間から見える魚のエラのような耳は、彼女が亜人のセイレーンである証だ。クリッとしたあどけないまん丸な目で俺のことを見つめてくる。


 そしてもう一人は、赤茶色の髪をサイドテールにしている女の子だ。とんがっている耳と左右に振られている美しい毛並みの尻尾は、ケモノ族最強走者の証であるウマ娘のルビーで間違いない。


 どうやら、またルビーがマーヤに突っかかっているみたいだな


「ルビー、マーヤ! サンキュ! これでこのギミックを抜けられる!」


「早く行ってください。私たちは無限に湧き出るモンスターの討伐と、後続の魔族を相手にしますので」


「分かった。お前たちも無理のない範囲でやってくれ。危険だと思ったら、直ぐにこのギミックエリアから出るんだ」


 せめてのお礼にと、俺は彼女たちの頭を撫でる。


「えへへ、シャカールちゃんエネルギーチャージ完了!」


「ウマ娘の頭を撫でる余裕があるのでしたら、早くここを抜け出してください。私たちはこの世界を救うために、魔王に勝たなければならないのですから」


 口では素直ではないが、ルビーの尻尾は左右に動く。


 喜んでいるじゃないか。本当に俺に似て素直じゃないな。


「ルビー、マーヤ、後は頼んだ!」


 彼女たちの横を抜け、俺はようやくモンスターエリアを抜ける。


 仲間たちの活躍のお陰で、かなり距離を縮めることができた。


 視界の先に小さくだが、魔王プルパラの姿が見えた。


 パープル色のロングヘアーの頭には少女には似つかわしくない禍々しい2本の角が生えており、背中には小さいが、悪魔の羽と尻尾が生えている。姿が少女なだけあって、アンバランスな感じがしてしまう。


 だが、見た目に反してその脚力は異次元と言っても過言ではない。クラウン路線の3冠を取った3冠王の俺が、未だに追いつけてないのだから。


 距離にして20メートルといったところか。


 しばらく走っていると、俺の最後の仲間の背中が見えた。距離にして約1メートル先を走っているのは、俺のクラスの学級委員長であるタマモだ。彼女は名門スカーレット家のご令嬢である。


 キツネ耳に茶髪の髪をツインテールに纏め、ミニスカ着物の勝負服で俺の前を走っている。


「タマモ、ようやく追い付いたな」


「遅いわよ! あたしを待たせないで。でもまぁ、予定通りに追い付いたから許しはするけれど」


 彼女の横を並走し、現在2位の魔族の女の子を見る。


 着ている勝負服は白いドレスのような作りをしており、スカートにはヒラヒラが付いている。異世界のアイドル衣装と呼ばれるものらしい。


 ツーサイドアップにしている茶髪の髪が、足の振動で上下に動いている。


 すると俺たちの気配に気付いたのか、彼女は振り返り、一瞬驚いた表情をする。


「うそ! タマモちゃんにシャカール君! もう追い付いてしまったの!」


 現在の二番手の走者、ウイニングライブが振り返ると、彼女は背中の翼を動かす。


「こうなったら、私が最後のギミックになってやるんだから! 私の翼から発生する風で速度を落とすが良いわ」


『おっと! ここで二番手を走っていた走者界のアイドル、逃げ切りシスターズのウイニングライブが、翼から風を起こしてシャカールたちの走行を邪魔する!』


「あーもう! 走りづらい! ウイニングライブ! どうして魔王側についたのよ!」


 タマモがウイニングライブに問う。


 やっぱり、知人が敵側に回ってしまうのは、彼女なりに心に来るものがあるのだろう。


「うーん、それはわたしが魔族だからって答えだね。魔王様には逆らえないもの。確かに学園生活では、あなたたちと仲良くしていたけれど、こんなことになった以上、なるようになれとしか言えないよね。どんな世界になったとしても、わたしはアイドルを続けられればそれで良いから」


「そう。なら良いわよ! あんたはあたしがこの手でぶっ倒して上げる! ストロングウインド!」


 タマモが魔法を発動すると、ウイニングライブに向けて強風が発生した。その風は、魔族の女の子の翼から生み出される風よりも強く、強風を受けたウイニングライブを吹き飛ばす。


 しかし、芝に打ち付けられる直前に翼で風を生み出し、直撃を防いだ。


「シャカール! この女はあたしが抑えておくわ。だからあんたは魔王プリパラをお願い」


「分かった。このレースが終われば、お互いに仲直りができるといいな」


 このレースが終われば彼女たちは元の関係に戻れることを信じて、俺は魔王を追いかける。


『やったぞ! 仲間たちとの連携を巧みにこなし、今、シャカールが2位に上がった! しかし魔王との差は15メートル! ここで魔王プリパラは、第4のコーナーを曲がって最後の直線200メートルに差し掛かる! ここから先は魔法禁止エリア、己の足との勝負です!』


 プリパラが魔法禁止エリアに入ったか。この距離の開きなら、まだ間に合う。


 魔法禁止エリアに入る直前、俺は魔力を練り上げ、魔力回路全体に行き渡らせる。そして頭の中で強いイメージを作り上げる。


「スピードスター!」


 俊足魔法であるスピードスターを発動し、素早く芝の上を駆け抜ける。遠くを走っていた魔王プリパラの姿が、近くまで捉えることができた。


『シャカール走者! 凄まじい末脚だ! あっと言う間に魔法禁止エリアに到達だ! さぁ、伝家の宝刀である彼のあの足が発動してくれるのか!』


『ここまで来たら、後は彼の勝利を祈るしかないでしょう』


 魔法禁止エリア内に入った。ここから先は、いくら魔法が発動しても無力化される。それは今まで己に有利なギミックを用意した魔王でも、どうすることできない。


 ここで俺は、魔王を追い抜く。


 ユニークスキル発動! メディカルピックル!


 心の中で叫び、スキルを発動する。この能力は、これまで俺が投与された薬物の効果を、薬なしで効果を引き出すことができる能力だ。


 今、俺の足は筋肉収縮剤を打たれた時と同じで、足の筋肉の収縮速度をより早くすることができる。


 今の俺は、俊足魔法を使ったときと同様の速度で走ることができる。


『ここでシャカール走者が魔王プリパラに並んだ!』


「差せ! シャカール! 差すんだシャカール!」


「魔王様、逃げ切ってください!」


 ゴールが近付いたことで、観客の声援が耳に入ってくる。


「まさか、我に追い付くことができるとはな。正直侮っておった。じゃが、遊びはおしまいじゃ! このまま一気に勝負をつける!」


 俺が追い付いたことで、プリパラを追い詰めたようだ。彼女は速度を上げ、約1メートルほど引き離される。


 さすが魔王だ。この世界を滅ぼして、理想の世界を作り上げようとしただけはある。だけど、負けてやる訳にはいかないんだ。


 ここまで俺を助けてくれた仲間たちのためにも、ここでお前を差し切らせてもらう。


「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 俺は声を荒げ、全身全霊の走りをする。


 これ以上スキルを継続すれば、俺の肉体はどうなるのかわからない。だけど、このままで終わらせる訳にはいかない。


 俺の肉体がどうなろうと、俺はこの魔王を倒す!


『シャカール走者が強烈な追い上げだ! 1メートル離された距離が、みるみる縮まって行く! 魔王プリパラ、苦しいけれど粘っている! な、並んだ! ついにシャカールが魔王プリパラと並んだ! このまま差し切ることができるか!』


 実況担当のアルティメットが何かを言っているようだが、俺にはもう何も聞こえない。


 限界を超えた走りをしているからか、視界が次第にぼやけ出す。


『シャカール走者! 僅かだが前に出た! 現在およそハナの差、頭、首! 現在シャカール走者が首の分だけリードしている……いや、完全に追い抜いた! そしてそのまま1メートルまで距離をリード! このままいけるか! このまま差し切れ! ダークヒーロー!』


 ゴールが近づくにつれ、雑音が大きくなった。もう、俺は何も考えられない。本能のままに走る獣のようなものだ。


 ひたすら走り、気が付くとゴールが目の前にあることに気付く。


『シャカール走者! ゴールイン! やったぞ! 魔王プリパラと1メートル差をつけて、魔王杯を勝ち取った! 魔王が敗走したことで、この世界は救われた! ダークヒーロー! シャカール! 今全ての力を使い果たして芝の上に倒れた!』


 この言葉を最後に、俺は目覚めてしまった。夢ではなく、現実の世界に意識が引き戻されたのだ。

 

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