お台場に到着

『次は~お台場~お台場~♪ 国際展示場になりまーす』


「ふう、水路に入ってしまえばもう大丈夫だ」


『モンスターもココまでは来ないっスからねー』

「ああ、連中もここを襲ってはダメだと理解してるんだろう」


『みんなでズドン! されちゃうからね~』

「対空砲の調子はどうだ?」

「た、対空砲?!」


『古い油が固まって、そろそろバラシが必要って技師長が言ってますよん』

「ふむ……用意をしないと、か」

『っすねー』


 対空砲のある都市なんて、初めて聞いたかもしれない。

 どんだけだよ。


『このまま客船ターミナルに進んで、そこで荷下ろしするんで、お二人はさっさと中に入っちゃってください』


「あぁ、ありがとう」

『で、ラレース先輩、わかってますよね!!』

「……総長、バーバラの英雄的活躍によって我々は窮地を脱しました」

『あざっす!!!』


 俺たちを乗せたバージは古びた桟橋に到着する。

 ようやく地面を踏めるようになって、少しホッとした。


 先に降りた彼女に俺の手を取ってもらう。


 バージに乗っていたのはそんな長い時間ではなかったが、俺はなんだか、久しぶりに地面に降り立ったような気がした。


「なんとなく察してましたけど、バーバラさんって――」

「余計なことをやらかすタイプだ」

「ですよね」


「また調子が戻ってしまったな」

「……? あぁ、話し方。」


「そうだ。皆の手前もあるしな。」

「バーバラなんかは……あの子はホント、すぐに調子に乗っちゃうんで」


「あんまり気にすると胃が痛くなってきますよ」

「フフ、まったく同じ事を言われました」


「危ない、忘れるところでした! 帰還の報告をする前に、ツルハシ男が見つかって騒ぎになると面倒です。姿を変えましょう」

「あっ、たしかにそうですね」


 俺は「空蝉」を手に取り、ラレースに向ける。

 すると、俺のシケた装備が彼女と同じ騎士の鎧になった。


「これならツルハシ男ってバレませんよね」

「ええ、どこからどう見ても私達の仲間です。」


「着いてきてください。できるだけ人の少ない場所を通りましょう」

「はい」


 俺はラレースに連れられて国際展示場の中へと向かう。

 彼女は人の少ない場所を通ると言っていたが……そこもバザールの一角だった。


 ぶっちゃけ俺のホームタウンの銀座より人が多い。

 すれ違うたびに肩がふれあいそうだ。これで人が少ない方なの?


「これで少ない方なんですか?」

「えぇ。東はもっとすごいですよ」


「そこの騎士さん! 武器はどうだ? 中々見つからない最高級品だぞ!!」

「自分で使いたいところだが、こっちも生活があってな!」


「気に入らないやつを天国に送りたいやつは、うちの武器を使いな!!」


「騎士さん、うちのポーションはどうだ? 買える時に買ったほうが良いぞ!」


 うーん、商人の呼び込みもすごい。

 ちょっと見たくなるけど、今の俺は文無しだからな……。


 クッ、大国主オオクニヌシめ!

 お釣りくらい残せってんだ!!


「今いる西は、この国際展示場に住む人が出店できる『都市市場』になってます」

「定期市ってことですか?」

「えぇ。生活用品や一般的な品物はここで買えます」


「珍品が欲しい場合は、東の『自由市場』に行くべきですね。外部から来た人は、そこでお店を出すんです」

「へー」


 止まったエスカレーターを階段にして、俺たちは2階に向かう。

 騎士団の事務所と騎士の居住区がそこにあるらしい。


「俺も入って大丈夫なんですか?」

「そう言えばツルハシさんと私たちは表示枠も違いますし、身分証がないと流石にバレますね……私の部屋で待っててもらえますか?」

「あっはい」


 ラレースの影に隠れるようにして、俺は彼女に続く。


 彼女に連れられて入った騎士の居住区は、床も壁も天井も白一色。

 天井の蛍光灯が白い床に反射して、ちょっとまぶしすぎる。


「ここです。51番です。一応覚えておいてください」

「はい」


 俺は彼女の部屋の中に通される。

 騎士たちは皆出払ってるのか、誰一人すれ違わなかったのが幸いだった。


 彼女の部屋の中は……うん、狭い!


 ダンジョンに作った仮拠点のほうが3倍以上広い。

 特に細いのが厳しい。左右の壁が迫ってきそうだ。


 俺が狭く感じるんだから、彼女としてはもっと狭く感じているだろうな。


「では、行ってきますね」

「はい」


 ガチャリとドアを締めて、彼女は報告に出掛けていった。

 ……なんか、女の子の部屋に残されるって、かしこまっちゃうな。


◆◆◆


 私は総長の執務室へ向かった。


 本来であれば、文書を介した事務的な報告ですませる。

 だが、今回は浜離宮ダンジョンの異変を伝えるという名目がある。

 きっとうまくいく。大丈夫だ。


『入れ』

「失礼します。」


 執務室に入ると、総長はいつものように執務机にいた。

 ちらつき、うごめく無数の表示枠が、彼の激務を物語っている。


『ラレース、拡声術式はどうした』


 しまった。汚染地帯を抜けたら着け直そうと思っていたのに。

 うっかり忘れていた。


「私のあやまちです。何も申し開きはいたしません」

『教典が示す道には従順であれ』

「はい、お許しを」


 私はその場で兜を脱ぎ、術式を付け直した。

 面倒だが、彼は一度こうなると、それを正すまで口を聞いてくれない。


『自由外出を終え、浜離宮ダンジョンより帰還いたしました』

『ご苦労。シスター・ラレース、現地の異変について聞きおよんでいるか』


『ハッ、まさにそのことでご報告に上がろうと――』

『ならば話は早い』




『ツルハシ男、――彼を逮捕しろ』

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