ツルハシ一本でダンジョン配信。クソたわけダンジョンをツルハシ一本で開拓したら、バズって伝説になりました。

ねくろん@カクヨム

第一章・ダンジョン編

伝説の始まり

<ガチン! ガチン!>


 俺は手に持ったツルハシを目の前の壁に振り下ろしている。


 採掘スキルはツルハシを一回振り下ろすたびに0.0001ポイント手に入る。

 資源が入ると、その価値に応じたスキル経験値が手に入るが、資源が手に入らなければ、経験値は0.0001ポイントのままだ。


 さて、ツルハシを一回振り下ろすのが仮に5秒だとすると……


 60秒1分で 12回


 60分1時間で 720回


 1日、12時間やるとして 8640回


 30日で 25万9200回


 俺がコレを始めてから、そろそろ4ヶ月になる。

 だから、もうすぐ100万回になるはずだ。


<ガチン! ガチン!>


 人というのは、ルールに縛られる生き物だ。


 水の流れ、星の動き。自然に法則を見出し、それに囚われる。


 例えばそうだな?

 誰しも目の前に白線があれば踏みたくなる。

 子供の頃、横断歩道の白い部分だけを歩く遊びをしたことがあるだろう。


 レジの前で誰かが列を作っていたら、そこへ並ぼうとする。

 前の人に習って。


 ルールとは規範、無いと困るものだ。

 だが最初にルールを決めたやつは、本当にちゃんと考えて決めたと思うか?


 ……ただ、なんとなく並んだだけかも知れないだろ?


<ガチン! ガチン!>


 俺はある時、ふと疑問に思った。

 何故ダンジョンに人間のルールを当てはめるのか。

 

 人が作ったものでもない存在に、なんで人の常識を当てはめようとするのか?

 バカげていると思わないか。


<ガチン! ガチン!>


 今こうしてツルハシを振っているが、俺の採掘スキルはとっくの昔にカンスト。

 『伝説の達人グランドマスター』の称号が付き、もう上がることはない。


 だが採掘スキルの経験値にはサブカテゴリがある。

 採掘には、資源ごとにも経験値が設定されているのだ。


 鉄なら鉄の採掘経験値。銅なら銅。ミスリルならミスリルと言った具合だ。

 それらの資源固有の採掘経験が100のMAX、つまり限界を迎えると――


<ガチン! ガチン!>


 資源の採掘が「必ず成功」するようになる。


 俺の「粘土」の固有経験値はもうすぐMAXの100になる。

 ダンジョンの壁はレンガ。つまり焼いた粘土だ。


 粘土の鉱床なんてダンジョンには存在しない。

 そもそも、地上にありふれた粘土なんか取ったところで、金にならない。


 だから何も手に入らないダンジョンの壁を叩き続ける以外、この「粘土」の固有経験値を上げる方法はない。マジで1円にもならない作業だ。


 ダンジョンに入って大金を稼いでいく連中を尻目に、俺はずっとバイトして、残った時間をこのダンジョンの壁にツルハシを振り下ろすことに費やしてきた。


 頭のおかしいやつと言われ、ネットの掲示板に面白おかしく書かれ、笑われた。

 迷惑配信者のネタにされることも珍しくない。


 おかしなもんだな。

 ルールを守ってるのはどっちで、ルールを破ってるのはどっちなんだろうな。


<ガチン! ガキン…ガラ、ガララ……!!>


 俺は目の前に空いた穴を見る。

 頬が上がり、口の端も勝手に釣り上がる。


 ルールとは規範、無いと困るものだ。

 だが最初にルールを決めたやつは、本当にちゃんと考えて決めたと思うか?


 「ダンジョンの壁は掘れない」そんなこと……誰が決めた?


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