125.勇者さん、強請る

(……前からいたかな……いたような気もしてくる……)


いなかった。


「あ、紹介がまだでしたね」


佇んでいた謎の人物に気付いたジサンにツキハが気付く。


「あ、こちらはですね。ジサンさん、驚いてください!」


「えっ?」


ツキハが眩しさを覚えるほどの目の輝きでジサンに語りかける。





この時より前の出来事。


時は三か月ほど前まで遡る。


ツキハは何かに影響されたのかテイムに関心を持ち始め、興味本位で一体のモンスターをテイムする。


それがこの隠魔王クラスのランクRモンスター”ライゲキ”である。いわゆるビギナーズラックなのか勇者さまの豪運なのか、はたまた誰かの恣意的な意図があったのかは不明だが、ツキハは大してランクの高くないテイム武器でいきなりRランクモンスターをテイムしてしまったのである。


そして、それから一月後、現在から二か月ほど前、ジサンがシゲサトとリバドを巡る旅をしている頃。


牧場にて――


「ねぇ、ダガネルくん、”使役”したいんだけど」


ツキハは牧場で捕まえたオーバーオールのそばかす混じりの少年に単刀直入に伝える。


「使役……と申しますと?」


「とぼけないで欲しいなー。モンスターの使役のことだよ」


「へぇ、そうなんですか。テイマーにクラスチェンジすれば魔物使役のスキルを……」


「勇者に戻れないわよね?」


「え? そ、そうですね。ゲームの仕様上、それは致し方ないですね」


上位職は片道切符である。同ランクのクラスにはクラスチェンジできず、上か下のランクにしかいけない。しかも一度、上下の階層にクラスチェンジすると二度と元のクラスには戻ることができない。要するに勇者から別のクラスにチェンジすれば、普通は二度と勇者には戻れないわけだ。


「だからそこを何とかする手段を聞いてるんじゃない」


「は、はぁ……僕はそういうのはちょっと……」


「本当にぃ?」


ツキハは半眼でダガネルをじっと見る。


「…………」


ダガネルは目を逸らすように沈黙する。


「私の見立てによると、貴方、相当な権限を付与されてるNPCでしょ?」


「うっ……」


「名前が表示されてない上に、牧場で相当、勝手気ままにやってるじゃない……」


「そ、そんなことは……」


ダガネルは否定しようとするが、ツキハはそれを許さずに続ける。


「特にテイムや使役、モンスター育成に関連する情報は掌握していると睨んでるんだけど……」


「そ、それは……そうかもしれませんが……」


「だったら、教えなさいよ。いいじゃない、ちょっとくらい……! 減るもんじゃないでしょ!」


「ツキハさんだけに贔屓ひいきするわけには……」


ダガネルはグイグイくるツキハからやはり目を逸らすようにする。


「ねぇ、ダガネル~~、私達が牧場、購入した時、”期間限定”5億カネって言ったわよね?」


ダガネルは”ぎくっ”……という効果音でも聞こえてきそうな気まずそうな顔をする。


「い、言いましたっけ……」


「言ったわ。確実に言った。で、いつなら5億カネじゃなかったわけ? ねぇ……」


「そ、それはですね~~……」


「これって不当表示に当るんじゃない? “フェア”って言えるのかな~?」

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