123.勇者さん、白熱する

「うぉりゃっ!」


「っ……」


 ユウタがゲンゾウに斬りかかる。ゲンゾウはそれを盾で受け、時折、カウンター気味に攻撃を返していくが、今度はユウタがそれを盾で防ぐ。


 両者の実力は拮抗しているのか互いに譲らず、未だ、両者共にHPゲージは減少していない。


 だが、ユウタの方が能動的に攻撃を仕掛けていた。


 使った使っていない以前に、月丸隊のメンバーは最強千を持っていない。

 今、この場に最強千がないのは事実であった。


 しかし、月丸隊は可能な限り、早くこの事態を収拾させたかった。


「どうする!? 逃げるって手段もなくはないけどっ!」


 後方のチユが戦闘中のユウタに言う。


「……っ」


 チユの言う通り、逃げるという選択肢も用意されてはいる。


「ま、まさか月丸隊の方々が挑戦に対し、逃げ出すってことはないですよね?」


 Starry☆Knights、唯一の女性、マジック・ナイトのリマが若干、焦るような表情で聞いてくる。


「ちっ、挑戦っていうにはお前らは格上過ぎるだろ……」


 ユウタは苦い顔をリマに向ける。


「……今はまだその時じゃない」


 ユウタはチユに告げる。

 ユウタは性格的に逃亡それを望まなかった。恐らく、ツキハもそうである。


「……わかったわ。それにしてもツキハちゃん、ちゃんと連絡してるのかしら……」


 チユが憂うように言う。


「……あの戦闘狂がこんな愉快な状況で、そんなことに頭回ってるわけないだろ……」


「そ、そうよね……」



 ◇



「どりゃぁああ!!」


「うぉっ!」


 ツキハは力で強引にセンをノックバックさせ、今度は追撃を掛ける。


 それを見て、スライムも黙ってはいない。主人を助けようと後ろからツキハに狙いを定める。


「魔法:リパルション!」


「きゅっ!?」


 ツキハが魔法名を宣言すると、ヒトデ・スライムはツキハから離れる向きへ進行方向を変える。ヒトデ・スライムは得意の空中移動を試みるが魔法の効果による斥力せきりょくに阻まれて、うまくいかない。


 スキル……ブレイヴ・ソード。ツキハは心の中で呟く。

 と、剣が蒼白い輝きを放ち出す。


「えっ? ちょっ、それは個人相手にはあんまり……対人モードだと敵味方関係ないんだぞ……!」


 センが焦り気味にそんなことを呟く。センの言う通り、対人戦状態の時は敵味方の判定がなくなるため、モンスターと戦っている時のような味方への攻撃無効が適用されない。


 が、ツキハは返事もすることなく淡々と剣を振りかざす。


「ちょちょちょ……!」


 通称、勇者レーザー。


 ブレイドの先端から射出される蒼白い極太のレーザー状の斬撃が空高く突き抜ける。

 それをツキハは思いっ切り、センに叩きつける。


「だぁああああああ! なんつー無茶苦茶な……!」


 轟音と共にセンは光に包まれる。

 ブレイヴ・ソードと地面の接触面には、破壊エフェクトが発生し、一時的にセンの姿は見えにくくなるが、次第にその煙幕も晴れる。


「…………」


「へへ……やるじゃねえの」


「……あんたもね」


 センのHPの減少はせいぜい3割ほどである。

 どうやら緩衝系のスキルでブレイヴ・ソードのダメージを軽減したようだ。


 ツキハもこれで終わるとは思っておらず、冷静に相手を見据える。


「さて、そっちがその気なら今度はこっちの番じゃねえの」


 センがニヤリと口角を上げる。


 とその時であった。


「あ、えーと、これどういう状況でしょう……」

「これまたなかなかに愉快な状況で」


「「!?」」


 戦いもいよいよ本格化するかという最中、部外者の少女および中年男性が戦場に侵入してしまうトラブルが発生する。


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