47.おじさん、ファーマーに懲役を課す

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 牧場レベル:3


 生産力: 6982

 総戦力:46424


 モンスターリーダー:ディクロ

 ファーマー:サイカ


 解放施設:

 自動訓練施設、優勢配合施設、生産施設


 生産対象:

 フックラ・オーク(素材)

 ソラノ・ドラゴン(素材)


 精霊:

 フレア、シード、リトーション・シャドウ


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 ジサンはサイカに牧場の従事者として指定できる”ファーマー”になってもらったのだ。


 あの時、ゲームオーバーを望んだサイカであったが、手を差し伸べたのは意外にもサラであった。



 ◇



「マスター……! そいつには死よりもずっと苦しく惨めな"とっておき"の刑罰を与えましょう」


「!?」


 サイカの表情が歪む。


「えっ!?」


(流石にそこまでは……)


「そうです……! クネネチ女と共にボロ雑巾になるまで奴隷のように働かせるのです!」


「……!」



 ◇



 アルヴァロの件があってからすぐに牧場レベル3になった。それにより指定可能となったモンスターリーダーにはディクロを指定した。


 サイカは話し相手として悪くない……とはディクロの言葉である。


 少し陰のある大人の女性同士、馬が合うのかもしれない。


 モンスターリーダーを指定することで総戦力が上昇した。

 一方、ファーマーを指定したことで生産力が上昇した。


 生産力が上昇したことで素材の生成が効率化されるようだ。総戦力については何のための値なのかは現時点では不明だ。


 更にサイカは牧場に入ってから5日ほどでクラス:”ファーマー”への変更が可能となったらしく、いつの間にか勇者からファーマーへクラスチェンジしていた。


 勇者など高位クラスは基本的に片道切符のクラスだ。故にもう勇者には戻れない。


 このクラスチェンジにはそれなりの覚悟を要したはずだ。


 ファーマーにはいくつか便利な生産スキルがあるらしく、ジサンにとっては正直言って有り難かった。


 ふとジサンはここ一週間で起きた出来事を話題に出す。


「あの件は気の毒でしたね……」


「……はい」


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 ◆2042年10月

 魔王:アルヴァロ

 ┗討伐パーティ<リリース・リバティB>

  ┝ライ【死亡】   クラス:アサシン 

  ┝アキトモ【死亡】 クラス:森人 

  ┝グル【死亡】   クラス:アーク・ヒーラー 

  ┗サイカ      クラス:勇者

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 アルヴァロを討伐したリリース・リバティのサイカ以外のメンバーはエクセレント・プレイスの牢獄に収監されていたが、不運なことに牢獄が”モンスターの襲撃”に遭い、亡くなってしまったとヒロから報告を受けていた。


 ツキハによるとヒロはとても申し訳なさそうにしていたそうだ。


 魔王討伐メンバーが亡くなると、公開リストにその情報が反映された。


 そして、そのことにサイカは少なくはないショックを受けていた。


 ジサンにとっても複雑な気持ちであった。


「どうですか? ここでの生活は?」


「まだちょっと戸惑いもあるけど、とても和やかな場所だわ」


「そうですか……」


 サラ本人は本気で死よりも苦しい刑罰と思っていたのかもしれないが、サイカにはそうではなかったようだ。


「ただ、なぜか小悪魔(インプ)に気に入られてしまって……」


(道理で先程から脚にしがみついているわけだ……)


 小悪魔族のOランクモンスター"ギダギダ"は体長40センチほどだが、悪魔族というだけあって、なかなか凶悪そうな濃い顔立ちをしている。


「ぎぃぎぃい」


(ん……?)


 ギダギダはサイカの体を木の幹のようによじ登ると首筋をペロリと舐めた。


「ひっ……!」


 サイカは身震いし、青ざめる。


「ぎぃぎぎぃ」


 ギダギダは嬉しそうにニタニタ笑う。


(まさかこいつのせいで勇者を辞めたってことはないよな……)


「でも……私を雇ってくれて本当にありがとう……」


「一応、懲役ということなので……」


 許可のない外出は禁止、ディクロによる監視付きだ。


 それでツキハらも納得してくれた。


「うん……!」


 しかし、懲役に当たりツキハらがサイカに少々、事情聴取を行ったのだが、予想していたことと一部、違うことが分かってきた。


「えっ? 殺し武器キルウェポン? そんなのないでしょ? プレイヤーのHPをゼロにしても死亡はしないって、ちゃんとルールに書いてあるじゃない?」


 サイカの言葉の中で印象的であったのはこれであった。


 ジサンはルールを再度、確認する。


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 ③プレイヤー同士のダンジョン内での攻撃解禁

 これまで禁止していたプレイヤー同士の攻撃をダンジョン内に限り解禁します。モンスターとの戦闘中はこれまで通り同士討ちは発生しません。プレイヤーの通常武器による攻撃でHPがゼロになった場合、死亡はせず、30分間の行動停止となりますのでご安心ください。気軽に決闘をお楽しみください。


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 確かにAIは先入観を抱くなと言っているが、同時にフェアであるとも言っている。


 ルールに明記されていることを覆すことはパラダイムシフトではないということなのだろうか……などと考えるが、よく見ると、”通常武器による攻撃”ともあり、何とも言えないな……とジサンは悩むのであった。


 考えを整理するためにサイカの供述をジサンはメモに取っていた。


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 ・サイカ本人はプレイヤーを強モンスターに引き当てる行為は何度かした。しかし俺を含め、いずれも失敗(未遂)に終わった。


 ・仕様変更以降、リリース・リバティにおいて襲撃行為もしばしばされていた。サイカも参加したことがある。基本的には単なる憂さ晴らしとしてされていた。(ノルマ制によりクランは殺伐としており、メンバーはどこか苛立っていた)


 ・殺し武器について、そんな物は存在しない。あったとしても少なくともサイカの知る限り、リリース・リバティは所持していない。


 ・ウエノでの殺人事件にも関与していない。そもそもプレイヤーを直接、殺す手段はない。

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 サイカが100%、本当のことを言っているかは分からないが少なくともジサンの目には真実を語っているように見えた。


 そうなると、いくつかの噂は単なるデマであったのだろうか……と皆、首を傾げた。



 ◇



「さぁ……行くぞ。サラ……」


「はい! マスター……どこまででもお供します!」


(……)


 ジサンはぼんやりと考えていた。


 アルヴァロ事件の際、学生時代のあの時、サイカを引き止めていれば……

 そんな後悔が想起したこともあった。


 けれど、きっとそうしていたら、この山羊娘とは出会っていなかった気がする。


「……」


「どうしたのですか? マスター?」


「あ、いや……行くぞ」


「はい!」


 ジサンとサラは牧場を後にし、再びモンスターを求め、ダンジョンへと向かう。



 ◇◇◇



 少し時間を遡る。


 トウキョウ某所、牢獄にて。


「リリース・リバティがキルウェポンを持っているらしい……っと……」


 リリース・リバティBチーム。ライ、アキトモ、グルの元に現れた緑の装備をした男が端末をいじりながらそんなことを呟く。


「おいっ! おっさん、何のつもりだ!?」


「……」


 男は返事をしない。


 返事をしないが監獄の扉を開ける。

 よく見ると、ネコ耳の少女も連れている。


「え……?」


 そして、三人の拘束具を外す。


「どういう……まさか助けて……」


「いや……違う……正義の執行だ」


「え……!?」


 男は剣を抜き、そして三人に向けて構える。


「ちょっ……」


 慌てて、三人も戦闘姿勢に入る。


「な、何をするつもりだ!?」


「何って処刑だよ」


「なっ!? 俺達のやったことは未遂だろうが! 何でいきなり処刑されなくちゃいけねえんだよ!?」


「そんなことは些細な事さ……生きていることそのものが罪なのだから……」


「はっ!?」


 三人は抗議するが、相手の完全なサイコパスな回答に唖然とする。


 だが……


「馬鹿だな! 三対二……こちらが勝てばいい! それにおっさん、殺すったってどうやってやるんだ?」


「君達、殺し武器って……」


「そんなものがないだろ!?」


「…………お、流石に知っていたか……」


「……舐めやがって……!」


「確かに、そんなものはないよね。少なくとも今のところは。ちなみに、その噂を流したのは他ならぬ僕達だ」


「なっ!?」


「君達はいい感じにスケープゴートになってくれてなかなか面白かったよ。リリース・リバティが”呪殺譜”を手に入れたことで愚民の不信感は更に増すだろうね……月丸隊が取るという展開もなかなか魅力的ではあったのだけど……」


 三人は男の言っていることをすぐには呑み込めない。


「あ、どうやって殺すかだっけ? 君達さー、モンスターの中に、プレイアブルな個体がいることって知ってる?」


「えっ?」


「その顔は知らないみたいだね……ちなみにここにいる彼女がその一例なんだけど……」


「にゃっ! ネコマルにゃ! よろしくにゃ!」


「っ……! ね、ネコマル!? 大魔王の!?」


「そうそう! よく知ってるね! まぁ、この時点で問題なく、殺せるよね?」


「っっっ」


「それに加えて、モンスターにプレイアブルがいるのなら、その逆……つまり、プレイヤーがモンスター化する権利があってもおかしくないよね?」


「なっ……」


 その言葉と同時に緑のおじさんには名称が表示される。

 プレイヤーならば表示はされないものだ。

 名称が表示されるのはモンスターに見られる特徴だ。


 その名は”ヒロ”。


 と同時にヒロが一歩前に出る。


「ひっ……」


 三人は底知れぬ恐怖に震えが止まらない。


「な、なんでこんなことしやがる!?」


「何でって、モンスターはプレイヤーを狩るのが本分であり、仕事ノルマなの!」


「っっっ……!?」


「それに君達、魔王を討伐するほど強いじゃないか」


「……!?」


「モンスターってのはプレイヤーの攻略を阻害するものでしょう? 君達のような強~いプレイヤーは始末できる時に始末しないとね」


「ウエノで”リヒト”を殺したのもお前らか……?」


「そうそう! 彼もなかなか強いソロプレイヤーだったからね! どこかの強いパーティに参画していたらかなり厄介な存在だったね。でも君達はその噂話を威圧に利用してたじゃない? お互い様ってことで!」


「くっ……」


「それじゃあ、バトルを始めましょうか。でも、諦めるのはまだ早いですよ! 運が良ければ史上初の大魔王討伐パーティという名誉を得られるかもしれないですよ!」


「にゃっ! 趣味は拷問だにゃ!」


「ひっ……」


 三人は本能的にわかる。ここが死に場所であると。


 素晴らしい場所モンスターの世界を守るためにエクセレント・プレイスは今日も正義を執行する。



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 564 名無しさん  ID: pssjitaa

 リリース・リバティがキルウェポンを持っているらしい


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【あとがき】

 恐れ入りますが、作者の別作品の宣伝です。


『闇堕ち勇者の背信配信 ~追放され、隠しボス部屋に放り込まれた結果、ボスと探索者狩り配信を始める。しかし追放した奴らの様子がおかしい~』

 https://kakuyomu.jp/works/16817330659748108558


 作者としては特に気に入っている作品の一つなので、お読みいただけると嬉しいです!

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