15.おじさん、誘惑に負ける

[ぱんぱかぱーん]


(…………)


 宝箱を開けたファンファーレ?のような効果音(自前)が閉じたトレジャーボックスの中から聞こえる。


「…………ナイーヴ・ドラゴン、降りていいぞ」


「ガゥ!」


 ジサンはそのまま去ろうとする。


「ちょちょちょちょ、ちょっと待ってぇえええ!」


(…………)


 トレジャーボックスの中から眠っていた妖精風の少女が飛び出してくる。


 改めて見ると、身長は150センチくらい、翠髪のショートヘアで耳が少し尖っている。

 白地に緑の装飾があるふわっとしたワンピースを着て、背中からは半透明の羽が四枚生えていた。


「何で閉めた!? おかしいでしょ! あの演出で普通、閉める!?」


 妖精風の少女はジサンをまくし立てる。


「いや、名称が表示されてないからモンスターじゃないだろ?」


「えっ……そ、その通りだけど、どういうこと?」


「い、いや……」


(……説明するのが面倒だな)


「アタイはエルフとシルフ風の妖精のハーフ。高貴なるシェルフのルィ」


(シェルフ……? そういう設定か? 棚(shelf)みたいだな……)


「マスター……どうやら新しく追加実装されたNPCのようです」


(なるほど……)


「それでテイムできるのか?」


「マスター……残念ながらできません」


「じゃあ、いいです」


「ガゥ」


 引き留められていたナイーヴ・ドラゴンがジサンの声を聞き、高度を落とそうとする。


「ちょっ! 待っ!!」


(…………)


 ジサンはそのまま高度を落とす。


「ちょ! 本当に! アタイ、何でもするから! いや、何でも知ってるから!」


(…………)


「えっっ! まじ!? これでも効果ないの?」


 ルィは本気で困惑している。


「うっうっう……せっかくの初仕事なのに……うっうっ……」


 今度は泣き出す。


「うっうっう……せっかく100%テイム武器のありかも知ってるのに……」


 ぴくっ 。


 ジサンの肩がわずかに揺れる。


「ん……?」


 ルィはそれを見逃さなかった。


「知ってるよ~~、100パー、テイム武器のありか……知ってるよ~~」


(…………)


「……話を聞こう」



 ◇



「なるほど、お前と決闘して勝てば情報を教えてくれるというわけだな?」


「そうだよ! ちなみに決闘は1対1、負けても死亡はなし!」


「なるほど……じゃあ……」


「マスター! 私にやらせてください!」


「えっ?」


 サラが決闘への参加を申し出る。


「だ、だが……」


「こんなことでマスターを煩わせる必要はありません。それに、私、やりたいのです」


 サラは久しく強敵と呼べる相手と戦っておらず、多少なりともフラストレーションが溜まっていた。


(…………まぁ、いいか。死亡はなしと言っているし……)


「それでいいのか?」


 ジサンはルィに確認する。


「アタイは誰でも構わないぜ?」


「それでは……」



 ◇



 直径100メートル程度の森林ダンジョンの最上階、中央付近でサラとルィの二人は向き合う。


「準備はいいかい?」


「……あぁ。構わんよ」


「……!」


 サラの雰囲気が変わり、ルィは少したじろぐ。


「死亡なしのルールでよかったな……小童……」


「っ!! お前も小さいだろ!」


 そう叫びながら、ルィが竜巻のような暴風をサラに向けて解き放つ。

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