第67話 天才作家、誕生

楽しい大阪での生活も最終日となった。

副会長と会える日は、また遠くなるだろう。

しかし、彼に力をもらった、和也は生徒会長として、一生徒として、学校を運営していこうという気持ちが絶頂にあった。


日頃の疲れをリフレッシュしている時は、気持ち的には有頂天にあり、いつもの自分とは違う何かが見えてきた気がする。


「これ、美味いですね」


「だろ?」


「はい、めっちゃ美味いです」


すっかり、俺の好物となってしまった『たこ焼き』。

最終日はいろんな店を歩き回り、食べ歩くことになっている。

初めの店では店一番人気のシンプルなたこ焼きを注文。

外はカリッと、中はふわっとしていて、人生で経験したことがないような食感で新鮮だった。


2店舗目ではネギタコを注文。

ネギとたこ焼きの相性が抜群で、無限に食べれる味だった。


もちろん、広島と対抗しているお好み焼きも食べ、一日中粉物。

正直、最後は味がわからなくなっていた。


食い倒れの旅をした気がする。


久しぶりの楽しいひと時を過ごし、名残惜しいが、時間は20時になっていた。

日はすっかり沈んでおり、居酒屋に入っていくサラリーマンが増えてきた。

もちろん、たこ焼き店も満席が基本。


「今日はありがとうございました」


「全然いいよ〜!また、大阪来な」


「もちろん」


「じゃあ、またいつか会える日まで」


新幹線の改札前で、副会長と別れを告げた。

今日一日の思い出がフラッシュバックするように、遡られる。


ーーー頑張ろ、生徒会。


俺はどこかしらから、自信が湧いてきた。



★☆★☆★☆★☆★




「有闇さん、迎えありがとうございます」


「いや〜小説書かなきゃでしょ?今日から書かないと間に合わないし、家に着く時間は書いてね」


「え?」


「いや、書いてね?」


「疲れたんですけど」


「ストーリーも自分で考えてね?」


天国かと思えば、地獄に落とされた気分。

疲れた頭を必死に振り絞って、全力で書き進める。

言っても、プロットぐらいしか書けなかった。


正直、自分で読んでも面白味のない作品になっていると思ったし、こんな作品が売れるかどうかが心配だった。

出版社の人にただただ、迷惑をかけるだけになりそで、不安しかない。


ラノベはそこそこ読んできたつもりだけど、読んでいる側と書く側では全く違う世界なんだな。

作家を本気で尊敬した。


10万文字を一ヶ月で仕上げることと、生徒会の仕事もあわさり、新幹線の中での気持ちはすっかり薄れてしまった。


部屋で一人、目を擦りながら執筆を進め、夏休みが潰れる覚悟で執筆を進めた。


夏休みの宿題は必然的に後回しになっていた。

7月の後半だったこともあり、宿題に関してはあまり気にはしていなかったが、例年通りにいけば、前日の夜に徹夜をして終わらせることになる。


自分の学力を考慮しながら、計画を立てて、宿題を進めようとしたが、それも無理そうだった。


「カップラーメンはダメ!」


「え〜」


すっかり、新妻のようになった美鶴は俺が深夜にカップラーメンを食べようと、お湯を沸かしている最中にリビングに来た。

地獄耳だ、、、。


「今日はお漬物でも食べて」


「は〜い」


手作りのお漬物を渡され、部屋に戻る。


「頑張りすぎないでね。頑張るの、癖なってるから」


「え?なんか言った?」


「何も」


美鶴の和也に向けて放った言葉は、二人だけのリビングに消えていった。

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