遠藤沙耶

3人の死体と大地の竜の亡骸。


先程までの出来事が嘘だったかのように、その部屋は静寂に包まれていた。


赤い髪の男のが死に、ロン毛が死に、ポニーテール女が死んだ。


いつの間にか、絶の視界の右上にあった名前が二つに減っている。タロウと、サヤ。その二つ。


おそらく自分がタロウであり、そこでへたり込んでいるそばかすの女がサヤであることは、容易に察しがついた。


そして、絶の右下にある緑と青のバーのうち、緑の方は、気がつけば全て透明。つまり0になっていた。文字を見ても、0/1。確かに0だった。


絶が死体から離れていくと、さっき大地の竜が死んだ時と同じ、リザルトと書かれたポップアウトが表示された。


そこには先ほどとは違い、EXP0、GOLD260万。そしてDROP ITEMのところに、~剣、~鎧、~リング、~ポーション、~鉱石など、様々なものの名前と個数が記載されていた。


リザルト画面がしばらくして消えると、絶の視界からさっきまで見えていたバーや名前などが視界から消えた。


絶はその後、ここにいても仕方がないと思い、大きな扉まで歩き始めた。


それを見たそばかすの女が、慌てた様子で立ち上がり、絶のところへ走ってきた。


「待って…!」


そして絶の腕を掴んだ。


絶は腕を掴まれ、後ろを振り返ってそばかすの女を睨みつける。その目を見たそばかすの女は掴んだ手を咄嗟に離す。


絶は何もなかったかのように前を向くと、再び大きな扉の方へ歩き出した。


そばかすの女はそれを見て、気まずそうに絶と間隔を5メートルあけ、後ろからついて行った。



洞窟の出口を出て、絶はとりあえず森の中にある小道を、道なりに進んだ。行く当てもない。この周辺の地理も全く分からない。


ある程度歩いたところで森を抜けると、平原に出た。そこからは小道が分岐している。分岐のちょうど真ん中に、看板があり、左はBlack Star castle 右は Grim villageと書いてあった。


絶が看板を見て、左に進もうとすると、後ろからずっと絶について来ていたそばかすの女が声をかけた。


「そっちは駄目…!」


絶が振り返ると、そばかすの女は深刻そうな表情をしていた。


「俺がどっちに行こうが、あんたには関係ねぇだろ。」


「か、関係あるよ…。だって私たち、同じチームでしょ…。」


「チーム?」


絶にはそばかすの女が何を言っているのか分からなかった。


「チームだかなんだか知らないが、俺に構うな。」


絶はそう言って左に進んで行く。するとそばかすの女はそれを見て絶のところに走って行き、また腕を掴んだ。


「ま、待って!」


「なんなんだお前は…。」


絶が呆れた様子で腕を振りほどこうとすると、そばかすの女が言った。


「あ、あなた…、タロウ君じゃ、ない…よね?」


「あ?」


「あなた、自分の名字言える?」


「…。」


何も言わずに腕を振りほどく絶を見て、そばかすの女はやっぱりと言った。


「あなた一体何者なの?まさか、あなたジョーカーの人…なの?」


「ジョーカー?」


「けど…、なら私を殺さないのは…。」


そばかすの女はぶつぶつと何かを言っている。


「おい、お前。さっきからチームとかジョーカーとか何の話をしてやがる。」


「…。」


「別に教えろとは言わないが、そのまま黙ってるんだったら俺は行くぜ。」


「ま、待って!」


そばかすの女は絶の腕をまた掴んだ。絶は立ち止まり、そばかすの女を睨みつける。


「…。」


また黙っているそばかすの女。そんなそばかすの女を見て、絶は溜息をついた。


「はっきり教えてやるよ。俺はタロウじゃない。」


「…!?」


「どうやら俺の見た目はそのタロウってやつになってるみたいだが、俺はタロウじゃない。」


「や、やっぱり…。」


「俺はあんたの言う太郎じゃない、だからチームとかそんなのは俺とは無関係だ。分かったか?」


「…。」


「分かったらその手を離せ。」


「だ、だめ…!」


「あまり面倒を掛けさせるな。もしそっちが離さないってんなら、お前もさっきの連中みたいにしてやろうか?」


絶はそばかすの女を鋭くにらみつける。


「離す…、離すよ…、離すから…、だからその代わりに私の話を聞いて…。」


「はぁ…。話でも何でも聞いてやるから、とりあえず離せ。」


「ほ、本当ね?ちゃんと私の話を聞くまで勝手にどこかに行こうとしないでよ?」


「分かった。お前の話に付き合ってやるから今すぐ離せ。」


そばかすの女は絶の手を離した。


絶はそばかすの女に摑まれた腕を気にしながら、「それで?話ってなんだ?」と尋ねた。


「ま、まず、もう一度確認するけど…、あなたは牧村太郎くんじゃ、ないのよね?」


高橋太郎。おそらく絶の身体の持ち主の正体であろうその人物の名前。


「違う、そんな名前聞いた事もないね…。」


「そう、なんだ…。それじゃぁ、あなたは誰?」


「俺が誰だろうとお前には関係ないだろ。」


「か、関係あるよ…!だって私たち…。」


「チームだからか?」


「…。」


そばかすの女は俯いた。


「絶だ…。」


「え?」


「俺は神谷絶。」


「ぜ、ぜつ?」


「絶えるって書いて絶。おかしな名前だろ?」


「えっ、いや…そんな事…。」


「ところでお前は?」


「わ、私!?わ、私は、遠藤沙耶、です…。」


そばかすの女はどこかおどおどしながら名前を名乗った。


「それで、遠藤さん。あんたは俺に何の話がしたいわけ?」


「あっ…、えっと…その、ぜ、絶君は、その、どうやって太郎君になったの?」


「は?言ってる意味が分からないんだが…。」


「ええ…、えっと…なんて聞けばいいんだろう…、き、君はいつからこっちの世界にいるの?」


そばかすの女の質問の意図を大体把握した絶は、洞窟に入る前の、森にいた時からだと答えた。


「そ、それじゃあ、その前は?」


「…。」


その前。


絶は組織の人間との勝負に負け、意識を失ったあと殺されたであろう事は確かで、その後白い部屋にいた。だが絶は事故で死んだと答えた。


「ちょっとした事故で死んで、気がついたら森にいたのさ…。」


「じゃ、じゃあ神様にも会ってないの?」


「神様?」


「その感じだと、会ってないみたいだね…。てことは、絶君はゲームの説明も聞いてないよね?」


「全く…。俺からしたらお前の言ってる事の意味が分からない。」


「そ、そっか…そうだよね…。」


そして、サヤこと、遠藤沙耶は、この世界に来た時の事を話し始めた。


今から半年前、ワールドゲームが始まった日の事を。

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