向日葵をマイクに持ち替えて/コミュ障主婦のカラオケ修行

月杜円香

第1話  イライラ止め

「あの……私、先生に死にたくなる時に飲む薬を出して貰ったはずなんですけど?」


「でも、櫻井さん。先生の処方は、この薬で合ってますよ。確認は取りますけど」


 薬剤師さんは、変な人相手に困惑してるんだろうな。

 私だって困ってる。


(自殺の衝動を止める薬を出します)って先生に言われて手元に来た薬は、


「イライラ止めぇっ!?」


 私は、素っ頓狂な声を上げてしまった。

 周りの人にジロリと見られてしまった。


 精神が不安定になって、心療内科に通うようになって、かれこれ二ヶ月。

 だんだん増えていく、薬の量。

 生きていくことに、何の意味も感じられずに、消えたいと願っていた。


 私、櫻井愛実(まなみ)28歳、結婚、三年目の主婦。

 私の、都合で子供が持てなくて、主人の七歳年上の亮ちゃんと二人暮らし。

 結婚前にお花を習っていた花屋さんで、アルバイトを始めたんだけど、そこでの人間関係に疲れてしまった。


「櫻井さんの作るアレンジってセンス無いのにね」

「あれで作りたがる神経を疑うわ」


 聞こえてますよ~~

 耳は良いんだから。

 消えたいと思ったのは、その時が初めてだった。

 死にたいのではない。

 だって私は、怖がりだし……。

 痛いのも、高い所も怖いんだもの嫌なんだもの!!


 消えたいだけ……。


 アレンジを習ってた時は、褒められてたのよ。

 だから良い気になって、アルバイト募集に応募してしまったのが馬鹿だった。


 他に、パ-トのおばちゃんが二人いたけど、この二人が異常に仲が良かったの。

 私は、主にオーナーの西さんの指示を聞いて動いていた。


 でも、パートのおばさんが意地悪してきた。

 ワザと聞こえるように、私の間違えたお会計のことや、

 知らないうちに花の位置を変えてしまったり……。


 だんだん、無口になっていく私……。


 この頃から、誰の前からも消えたいと思うようになった。

 だから、心療内科の先生に相談したの。


 そうしたら、先生は楽になる薬を出すからと言ってくれた。


 それが、「イライラ止め」ですって!?


 なんか吹き出してしまった。




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