第15話 ゴールデンベリーはぽこっと
簡単な朝食を取ると、まだ外が暗い中、私達は出発した。南の森は街を出て歩いて一時間程で近い。
門番さんに挨拶をして、二人で街の外に出て、草原を歩き、森に着いた頃には日が昇り始めて辺りは明るくなっていた。
私のような下位冒険者でもクエストを受けれる南の森だけれど、森は広く深い。森の奥の方は初心者では行く事は難しいし、中級以上の冒険者ではないと難しいと思うので、私が南の森で探索するのは、本当に浅い、明るく、すぐに戻れる場所だけだ。今回も森の深い所は行かず、安全な場所だけで探す。
「ミアさん、ゴールデンベリーを探すの?」
「はい。でも、まずは霜降り草を。十本は納品しないといけませんから。根までしっかりと採るようにと言われてますので、掘り起こすのが大変ですね」
「手伝うよ」
霜降り草は二人で探すとすぐに見つけることが出来た。私がスコップで掘り起こそうとしていると、グレイさんが魔道具を取り出して、あっという間に掘り起こしてくれた。
「これ、建設現場と採掘場に頼まれたものの見本。自分の力を大きくして道具に伝えるようにしてあるけど、コストが結構かかってね。もう少し改良出来ないか考え中なんだよね。これは小さいけど、頼まれたのは両手で使う用なんだよね」
グレイさんのリュックから出て来た魔道具はどれも便利な物ばかりで、私が霜降り草を綺麗に束ねている間は光る珠を出して傍に置いてくれた。
「魔物よけのお香を入れてるんだ。本来の目的とは違うけど、俺達は討伐目的じゃないし、魔物が近寄らない方がいいからね」
私が霜降り草をリュックに入れるとグレイさんは私のリュックにも小さな光る珠をぶら下げた。
「ゴールデンベリーはどの辺りにあるの?」
「明るい所らしいです。日当たりの良い場所にあると聞きました」
「ふうん。でも、沢山の冒険者が探して、見つける事が出来ないんだよね。森の奥にあるのかな?」
「それが、霜が降りて、寒い日が続く天気が良い日に採れるらしいです。だから、そろそろ採れるんじゃないかって。一気に土の下から生えてきて、あっという間に実がなるんですって。土の下で大きくなっているんでしょうかね?だから出てくるまでは何処に出て来るか分からないんですって。ただ、生えてくるのは日当たりの良い所ってことでした」
「そっか、じゃあ、ミアさんが欲しい他の素材を集めつつ、探していこう」
「はい。ブッシュナッツは、さっき見つけたんですよ。ただ、大きな木だったので、登るのが大変なんですよね。クッキーやサラダに入れても美味しいですし。スープや肉に合わせてもいいですね」
私がグレイさんに後ろの大きな木を指さすと、グレイさんが木を見て頷いた。
「ミアさん、登る気だったの?ちょっとまってね。あれが使えるな」
グレイさんはガサゴソとリュックの中から、靴のような物が着いている道具とロープを取り出した。
「これは、木を登るのにも使えそうなんだ。こうやってロープを身体に通して、これをブーツに引っかけると、レバーを引いて簡単に登り下りが出来る。騎士団に注文されて作ったんだけど、警備隊や木こりからも注文が入ったんだ。色々使えるんだよね。じゃあ、俺が登って、下に落とすからミアさん集めてよ」
グレイさんは魔道具を足に着けるとあっと言う間に木に登ってナッツを下に落とし、私がナッツを拾った。その後もグレイさんは私が見付けた他の素材を便利な道具で簡単に採って行き、私がバッグに入れるという作業を繰り返した。
「グレイさん、私が冒険者なんですよ?」
「そうだよ?俺はタダの付き添いだよ?」
「そうですよね?」
むう、っと私が考えて下を向くと、グレイさんの足の間からニョキっと黄色の実が飛び出した。
「グレイさん!動かないで!踏んじゃいます!じっとですよ!」
「え?ミアさん、何?」
グレイさんが動かないように足に抱き着いて、ゆっくりと黄色の輝く実に手を伸ばした。
ゴールデンベリーは小さいと聞いていたが私が思っていたよりも少し大きく、私の親指の爪くらいの大きさがある。
「うわあ。採れました!採れましたよ!グレイさん!ゴールデンベリーですよ!綺麗です」
「・・・」
「あ!またこっちにも!グレイさん!動いちゃダメですよ!」
グレイさんの足の間にもう一つポコっと実が出て来た。
その実も採ると、私達の周りに勢いよくポコポコと実がどんどん出て来た。
「やった!沢山出て来ましたね!」
私はグレイさんから離れると急いで実を採っていった。
「ミアさんが急に抱き着いてきたから。ちょっと喜ん、いや、驚いちゃった・・・」
「え?グレイさんは向こう側、採って下さい。私はこっちを採りますね!」
「うん。ミアさんが喜ぶ為なら」
グレイさんと私はゆっくりとしゃがみポコポコと勢いよく湧き出るように生えるゴールデンベリーを収穫し始めた。
「タルトにジャム、肉料理にケーキ。ギルドに少し卸してもこんなにあれば、色々作れますね!」
「うん、美味しそうだ」
「本当に土の中から急にポコって出て来ましたね!これを見つけるのは運ですね!」
「うん、驚いたね」
「ふふふ。コレ、そのまま食べても美味しいんですって」
私はゴールデンベリーを軽くハンカチで拭くと一つ口に入れた。うーん。これは美味しい。
「あま!すっごく甘いですよ!んふふ!グレイさんもどうぞ、はい、あーん」
「え、あーん?」
もう一つ汚れを拭くとグレイさんが開けた口に入れた。
「・・・」
「んふふ。美味しいですね、グレイさん」
「だから、ミアさん。ミアさんの不意打ちは強いよ」
それからもポコポコ生えてくるゴールデンベリーをせっせと私は摘んでいき、グレイさんは「はー」と白い息を吐きながら手伝ってくれた。
冷たい空気が気持ちよく、空も青い。魔物は今の所見かけたのは小さな一角ネズミだけで、私達と目が合うと逃げて行った。
お昼を過ぎまでで沢山採れたので、作ってきたサンドイッチとスープでお昼休憩をした。
「ミアさん、美味しいよ」
「よかった。今日のサンドイッチは具沢山にしたんですよ。余りものサンドですけど。スープは野菜のポタージュです。温まりますね」
「うん、美味しい。外で食べるご飯は特別だね」
「はい、なんだかとっても幸せです」
グレイさんが置いてくれた魔道具のおかげで、私達の周りは少しだけポカポカしているし、お天気なので、冬とはいえ、昼間は暖かい。
「グレイさん。ゴールデンベリーはこのくらいにして、あとはホワイトシナモンを採ったらギルドに寄って帰りましょう」
ニコニコしながらグレイさんの方を向くと、グレイさんは黙って私の方をじっと見ていた。
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