回想:問題児達の担任

 村正、奏、凪咲、健太。

 なんの因果か同じ小学校に入学した4人。

 凪咲と健太の喧嘩から2人は明確な問題児として認識されるようになり、しかし大人が制御できる領域を超えた強さを持っているせいでどうにもできなかった。


 それでも先生は担任としての責務を果たすべく彼らを止める方法を確立した。


 それは、2人を止められる実力を持った奏を動かすために村正にお願いすること。


 大人として情けない話ではあるが、そうでもしないと喧嘩を引き止めることすらできない。


 村正を除く3人はよく公園で手合わせしていて、地元においても最強の名を欲しいままにしていた。

 相手が同じ小学生であろうと、中学生であろうと高校生であろうと大人であろうと。彼らに勝る強さの者は少なかった。


 故に強さはそこまででもないがなぜか奏を制御できて彼らにビビらない村正の存在は、先生にとって有り難かった。


 もちろん彼も彼で家庭のあれこれで闇が深いのがわかってしまっているのだが。

 事情を深くは聞けなかったが、小学校2年生までは水泳の授業に出ていたのに3年生になった時は出ないと言い出した時に強く感じた。


 保護者面談の時の様子が変わったのもその間辺りだ。

 深くは聞けなかったが怪我をして保健室に連れて行った時、服を脱いでもらってわかった。


 村正の胸の真ん中には紫色の傷跡が大きく残っていたのだ。


 それがなんなのか、先生には理解できなかった。ただいつでも相談してねとありきたりな言葉をかけることしかできなかった。

 それでもその異様な傷跡は家庭が関係しているのだと察していた。家での様子を聞いた時話に出てこなくなった父親が原因だということも。だが初めてのクラス担任でどこまで家庭事情に踏み込んでいいのかもわからず、放置していた。


 基本的に自分から喧嘩とかを止めに入らず先生に言われるまで介入しない辺りに、村正の問題児たる所以が出ており、彼ら4人が学校有数の問題児になるのは時間の問題であった。


 そして彼らが4年生に進級する時。

 この小学校では3年毎にクラス替えを行っているため、先生はこれまでの3年間を振り返った上でやっと普通の子達の担任ができると安心していた。


 しかし。


「来年のクラス替えなんだけど、例の子達、またお願いしてもいいかな」

「えぇ!?」


 クラス替えの話し合いが行われている時、真っ先に名前の挙がった問題児達のクラス担任に指名されてしまった。


「け、経験不足の私にこれ以上は……」

「いやいや。君は充分よくやってくれているよ。むしろ君にこそ任せるべきだと思うね」


 どうにか逃れようとするが、他の先生方は皆同じ意見のようだ。うんうんと頷いている。

 厄介事を押しつけようとしているのか。あるいは、本当に彼女であれば問題ないと3年間で信頼を築いたのか。


 本人は絶対に面倒事を押しつけるつもりだと思っていたが。

 とはいえ実際に大きな問題は起きておらず、他の先生方に押される形で再び4人と3年間を過ごすことが決定してしまった。


 4年生になった彼らを迎えてくじ引きで宛がわれた他のクラスメイトと一緒に過ごすことになり。

 不安も多かったが一度決まってしまったことをとやかく言っても仕方がない。卒業までしっかり面倒を見よう。


 そう思った矢先のことだ。


 ――奏と凪咲が配信デビューした。


 ネットニュースで話題になり件のチャンネルを見て、彼女が白目を剥き卒倒したのは言うまでもない。


 そもそも探索者管理協会は余程の強さがなければ若者を探索者にすることがない。

 元々強いのはわかっていたが、まさか深層を単独攻略できるほどの強さとは思っていなかったのだ。


 それは彼女が探索者のダンジョン配信を観ていない方だったというのと、奏が人に対してはきちんと手加減していたためだ。


 まさか小学生の内から探索者になるとは思ってもみず。


 しかしダンジョン攻略が世のため人のためになることは理解している。命を懸けて挑む探索者のことを尊敬もしていた。

 ただそれとこれとは別の話であって。


 翌日どうしようかと思いながら教室に着けば。


「かなでちゃん昨日すごかったね!」

「たんさくしゃにもうなるなんて!」

「クソ、ぜってぇオレもなってやる!」


 教室は2人を中心に騒ぎたい放題。

 他クラスの子まで教室の外に集まっている状態だった。


 やっぱりこうなった。と思いつつHRを始めるために他クラスの子を自分のクラスに帰らせて教室に入り声をかける。


「皆、席に着いてー」


 一度だけでなく、全員が席に着くまで繰り返す。元気なことはいいことだ。だが問題児達に至っては元気どころの騒ぎではない。


「えっと、HRの前に奏ちゃんと凪咲ちゃんに確認なんだけど」


 学校側としては保護者と探索者管理協会の許可が取れていることを確認すればいいと考えており、本人達へは当然担任の彼女が聞くことになっていた。


「お父さんお母さんと、探索者管理協会の人に許可はちゃんと取ってあるの?」


 今頃裏で親御さんと協会への確認を校長自ら進めてくれているだろうかと思いながら尋ねる。


「うん! ちゃんと大人の人たおしてキョーカイの人にいいよって言ってもらったよ!」


 凪咲は満面の笑みで答える。協会から正式に認められてダンジョンに入っていたようだ。凄い子達だとは思っていたが、どうやら自分が思っていたよりもとんでもない子達なのだと認識を改める。


 学校でも一緒にダンジョン行こうみたいな話はしていたので探索者を目指していることは知っていた。

 しかしそれが小学生中の目標だとは誰も思っていなかった。

 他の子達と同じように大人になった後の夢だと思い込んでいたのだが。


 彼女達を他の子と同じ物差しで測ったのが間違いだった。


「許可貰ってるならやらないでとは言わないけど、ダンジョンは危ないところだから気をつけてね。怪我とかしないように」

「はーい」


 ただし身近な大人として注意はしておく。

 奏を味方につけている以上、2人を止めることはできない。子供のプライベートに首を突っ込みすぎるのは良くないとも先輩から言われている。


 それから彼女は毎度毎度話題になる2人のせいで散々悩まされることになるのだった。

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