第6話 初めて『悪いヤツ』書いたけど、下っぱにしか見えないのよねぇ……。


 そんな中、誰もいなかったハズの店内に滑舌の良い大きな声が響き渡った。


 「オイッ、おせーぞマネージャー!!」


 ズカズカ店内に入って来て、


 「いつまでこんなコンビニで時間かけてんだよっ! 車、待たせてんだろうがぁ! 俺はこの後予定があるん……んっ?」


 俺を見つけた途端に、ニヤケ顔で、

 

 「誰かと思ったらバネ太先ぱ……『バネ太店員』じゃねーかっ! ギャハハハハっ♪」


 バカにした笑いの後に、


 「ヤバっ! 店員役ばっかりやってて、遂に本当の店員になったのかよ! ウケるっ」


 西ヶ原翔也にしがはらしょうや


 今、事務所が訳あって仕方なくゴリ押ししている新人だ。


 「翔也っ! アンタ先輩に向かってなんて口の聞き方なのっ?」


 沙樹が翔也の頭を叩こうと手を振り上げたが、翔也が軽くかわしてその手を掴み、


 「あぁん? 『あの声』の出なくなった『店員』なんて、もう俺の先輩でも何でもねーよ! これからは俺、『西ヶ原翔也』の時代が来るからよー!」


 逆に沙樹の頭をクシャクシャと乱暴に撫で回した。


 「やめっっ、やめなさいっ! アンタ、入所したての頃、どれだけバネ太の世話になったと思ってるのよっ?」


 「……はぁっ? そんな昔の事、覚えてねーよ!」


 そして俺を睨みつけ、


 「……それよりアンタさぁ、今のままじゃ居るだけで邪魔なんだよ! 若手のチャンスをいつまでも奪ってんじゃねーっての! もうとっととヤメて、このまま店員やってろよ! そっちの方がお似合いだぜっ! ギャハハハハっっ!!」


 意地の悪い笑い声が響く中、そんな翔也に向かって、


 パチーン!!


 真っ赤な顔をした麻里が思いっきり翔也の頬を叩き、そしてその音が店内に響き渡り、翔也の笑い声を掻き消した。


 「いってぇなぁ〜っ! ……誰だテメェ、犯すぞコラァ?」


 凄みを効かせる翔也に、恐れる事なく麻理は人差し指をピンと立てて、


 「ばぁーかぁ! アンタなんか、親の七光りじゃない? 演技ヘタなクセにゴリ押しされて、天狗になってんじゃないわよっ!」


 翔也の父親は、ここ一年で急成長したゲーム会社『ウエストフィールド』の社長で、数々のアニメのスポンサーになっている。


 そんな父親の息子が声優をやってるという事で、急激に主要な役がまわって来る様になったんだ。


 「っっんだとぉっ? オラっ!」


 顔を真っ赤にして、翔也が麻里に手を上げたその時、



 『やめろっ、翔也っ! 麻里に手を出すなっ! ……女の子に手を出すなんて、男として最低だぞっ!』



 俺は翔也の手を掴んで羽交締めにした。

 口は達者だが、実は小心者の翔也は


 「いてててて……わかった、わかったよぅぅっっ」



 「……ソレ」


 ん?


 「何、……今の声? 初めて、……聞いた声っ♡ ん〜っ、しゅっ、しゅきぃ〜っ♡」


 「バネ太っ、『その声』……イケるんじゃないのっ?」


 麻里と沙樹は、顔を見合わせ目を輝かせた。


 「翔也っ、アンタもう先帰っていいからっ! バネ太っ! 今から『その声』でサンプル録るわよっ!」


 「私っ、今すぐセリフ書きますっ!」


 二人はイートインスペースに走って行き、準備を始めた。



 「ちっくしょーっ、オマエら、覚えてろよーっ、親父に言いつけてやるからなぁーっ!」


 俺の手を振り払って、翔也は捨てゼリフを吐いて逃げる様に店から出て行った。



 ※※※



 「ちょっとぉ〜っ! ナニしれっと自分の名前で台本作ってるのよ〜?」


 「えー、いいじゃないですかっ、書いた人の特権ですぅっ!」



 麻里の書いたセリフで二人が揉めてる中、俺は不思議な手応えを感じていた。


 (俺、あんな声……出せたんだ)


 さっきの翔也を止めた時に咄嗟に出た声。


 力強く、……それでいて包み込む様な優しい声。

 これなら出せなくなった『あの声』に変わって俺のメインでやれるかもしれない!



 「麻里ちゃん! じゃんけんっ、じゃんけんで決めましょう、名前っ!」


 「私達、……さっき『協定』結んだじゃない? ねっ、ねっ!」

 

 「もー、仕方ないですねぇ! 言っときますけど、私、じゃんけん強いですよー!」


 そう言って麻里は両手を組んでひねりながら手の中を覗き出した。


 

 「「さいしょは『グー』っ!」」

 「「じゃんけんっ、ぴっ!」」



 ※※※



 「……それじゃバネ太、さっきの声で」

 「よーい!」



 『……すまない、麻里』

 『もう、……遅いんだよ』


 『俺、あの時オマエと別れた後、しばらくしてから……』


 

 『沙樹と、……付き合ってるんだ』


 『だから麻里とは付き合えない!』



 ーー※ーー



 『俺は今、沙樹の事を愛している』

 『沙樹を、……沙樹を裏切る訳にはいかないんだ!』


 『それに、……沙樹のお腹の中には、……俺の子が……』



 「はぁ〜い、カットぉ♪ んーっ、いいわぁ、『その声』♡」


 沙樹は、とろける様な笑顔で俺の肩を揉んで来た。


 「お疲れ様っ、バネ太っ♡ コレっ、イケるわよねっ、ねっ、麻里ちゃん!」



 「はーい、おつかれさまぁ そーですねぇイケると思いまーす」


 沙樹とは対照的に死んだ目をして編集をしている麻里。


 セリフはクソみたいだが、俺は確かな手応えを感じていた。


 『この声』で、……もう一度『この声』で主役を手にしてみせるっ!


 その後三人で、ささやかな決起集会が開かれた。……って、ウチのビールは飲み放題じゃないぞっ!



 だが、その一週間後、……業界内に激震が走る衝撃的なニュースが流れた。



 『ウエストフィールド社が声優業界最大手大塚事務所を買収』



 第7話につ、づ、く。



 ※※



 はい、色々あって何処をツッコんでいいかわからないでしょ? ププッ


 「バネ太の新しい声聞きたーい!」

 「桜蘭舞、悪者書くのヘタ過ぎじゃね?」


 さぁ、もう『しゅきしゅき』言うだけの物語じゃないのよっ!←フラグ


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 お待ちしております♪


 ♪読んで頂きありがとうございました♪

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