第81話 今伝えないと一生後悔する
だいたい30分間隔でレオナさんの休憩兼あーんタイムを挟み、『
色んなお菓子をあーんしてきた。
おかげで俺のあーんスキルはかなりレベルアップした。
残念なことに俺の心レベルは一向に上がる気配がない。上限レベル1かもしれない。
一周してきのこマウンテン&たけのこビレッジに戻ってきた。
まとめて4個買うと10円引きとかだったのかな。
最後のセーブポイント前で、
「あーん?」
「はい」
あーんを終える。
「真白君、ありがとー。元気でたぜー。ラスト前ってドキドキするよねー。私はいつもハッピーエンドでありますように、って思って進めるけど。でもやっぱり、『幽覧零夜巡り』は……かなって」
レオナさんはしっとりとした声で言った。
三部作全てのヒロインである少女の霊たちはもう死んでいる。
俺たちが生きている世界に存在しているようで、していない。
たとえ絆を深めても、同じ世界にはいられない。
別れが決まっている……ビターエンド。
「……そうだね」
ネタバレになってしまうので多くは語れない。
そっか、とレオナさんはゲームを再開する。
すぐにラスボス戦前のイベントが始まった。
「――私のこと。綺麗さっぱり忘れていいからね」
災厄の根源を封じている巨大な門が
「僕は、忘れないよ」
「……私より可愛い顔していじっぱり」
なんて
「あの人も貴方と似ていて。私より研究が大好きで。一度決めたらてこでも折れなかったけど」
白は零夜のご先祖である村を訪れた
そして災厄を
だけど、零に会いたい恋心と悲劇から歪んでしまい、災厄に
その時に白と黒。
正と負の魂に別れてしまう。
黒は災厄となり、白は記憶をなくしたまま
「僕も折れないよ。君たちを、助ける」
「そう言うと思ってた。私たちで儀式を終わらせよう」
零夜と白が一緒に手を合わせて、封印された門を開け放つ。
門が開いた先は、一面闇夜で覆われた世界。
黒い湖面の上で
ラスボス戦は三連戦だ。
まずは黒戦。
一発一発の威力は低いけど、広範囲攻撃が多く回避が重要な相手だ。
レオナさんもラストとあって無言でやっている。
邪魔をするわけにいかないので、俺も無言で見守る。
プレイは危なげなく、余裕がある。
無事に黒を鎮め、
「今度は私たちの番。零夜、負けたら怒るよ」
うずくまった黒を白が抱きしめる。
二つに別れた魂が一つに戻る。
闇夜の世界にわずかに光が差し込み、世界が
花嫁であり終宵の巫女――
白が抑えているおかげで攻撃の頻度は減ったけど、能力が解放され一撃のダメージが高くなっている。確定でHPを9割持っていく技まで追加され、追撃で死亡だ。
レオナさんはそれも越えてリトライなしでクリア。
最後は
闇の中に無数の爛れた手と目玉がうごめき、
これは勝ち確イベントだ。
災厄を
「古き夜に願い奉る。彷徨える者たちよ、終宵と
闇夜と共に彷徨っていた怨霊怪異たちが湖面に飲み込まれ、夕日が昇り始める。
湖面に彼岸花が一つ、また一つ咲いていく中、零夜と白はお互いに抱きしめる。
「ありがとう、零夜。これで私は
「うん」
多くは語らない。
きっと言わなくても通じ合っているからだ。
「――最期に貴方と一緒にいれて楽しかったよ」
「白。僕も――」
抱きしめていた白が光となって空に還っていく。
見送る零夜が涙を拭い、エンドロールが流れ始める。
「うぅぅ……黒華白ちゃん。来世は幸せな人生を歩めるといいなあ」
レオナさんは号泣だった。
「ティッシュ……いる?」
「いる」
ズビビビーッっと豪快に鼻をかむレオナさん。
レオナさんにティッシュを供給しながらエンドロールを見続ける。
最後はいつもどおり朝日が昇り始めた道を零夜が歩き、探偵さんに出迎えられてジ・エンド。
部屋にも照明がつけられた。
「やっぱり最後はお別れエンドだったね……。予想はしていたけど悲しいな」
「そうだね。ただ俺はこういう終わりは嫌いじゃないよ」
悲しい別れになろうとも、二人が前に進もうとする終わりは嫌いじゃない。
でもあくまで創作の話のなかだけで。
現実でそういうことが起きたら……きっと嫌いじゃない、なんて考えられないはずだ。
「そーなんだ。真白君は私よりもちょっと大人なのかも」
「どうかな。零夜はみんなが来世で幸せな人生を歩めるように祈っているし、みんなも零夜の幸せを。だから、後悔はしていないかなって」
自然と感想会の流れになった。
「うん。零夜君、高1から高3の夏休みに巻き込まれるパターンだし。大学ではいい出会いがあるといいね。
うーんでも。零夜君さ。お人好しの謎大好き人間で自分から厄介事に首を突っ込むタイプだし。
歴史学、考古学、民俗学とか? 謎のオンパレード研究家みたいになるとより専門的になってよりヤバいんじゃ?」
確かに零夜は能力的にも経験的にも成長している。
零夜のスペックについて、制作チームが頭を悩ませてもおかしくないくらいに。
「今のところ三部作だけだからどうだろうね。あるとしたら大学生編だけど。別の主人公のパターンもあるかな?」
「そっかー。そういう展開もありえるよね。しかし改めて振り返ってみると。ヒロインの
もういない人との恋愛勝負って大変だよね。思い出補正って強いから。特に男の子ってそうでしょ?」
「う。……そうかも」
心の中に残る一夏の思い出なんて男子は大切にしがちかも。
一瞬だけ輝いているからこそ尊いって思いがちだ。
「真白君、分かりやすーい。これは零夜くんの将来のお嫁さんも大変だな」
でもなあ、とレオナさんは笑みを浮かべる。
「私は大好きな人とずっと一緒にいられたらなあって思っちゃうかな」
だけど、どこか悲しそうに語る。
「きっと白ちゃんも本心では忘れてほしいなんて思ってないし。零夜君の負担になりたくないだけだから。だって大好きな人の側にはいつだっていたいじゃん? あ、もちろん怨霊にはなりたくないけどさ。守護霊的な――」
……なんでだろう。
どうして今、そんなことを思い至ってしまったんだろう。
泣き
ここで言わないと一生後悔するって。
今言わないと一生伝えられずに離れ離れになるんじゃって。
だから、今伝えないと一生後悔する。
「俺も一緒にいたいよ」
「え? 真白、君?」
レオナさんは不安そうな顔していて、また泣いちゃうんじゃないかと心配になる。
目の前の大切な人にはいつだって笑っていてほしいから。
「俺も――大好きです」
だから、あの時の返事をここで伝えよう。
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