第19話 唄貝カインの占い

 

 もぐもぐご飯を食べ終えてから、収録スタジオを準備して機材を調整。

 今日の収録もコラボで、コラボ相手は三月にデビューする新人『唄貝うたかいカイン』。

 織星とは別タイプの歌うまライバーで、特技は占い。

 中身は前髪が長くて目が見えない、三十手前の小柄男子。

 声が高くて女の子みたいなのがコンプレックスだったらしい。

 そのため、本人の希望でガワは『性別:唄貝カイン』という中性的な顔立ち。

 異世界ファンタジー風の衣裳。

 右側の髪が長いメカクレ。

 金谷はいっそのこと「可愛い女の子のガワにする?」と言ったが首を横に振っていた。

 ドラムでライブハウス通いをしており、紙袋を被ってドラマーとしてドラムのいないグループの手伝いを有償で行っているという。

 しかし、一人でカラオケに行って思う存分歌うのが好きだそうだ。

 また、顔出しせずに女占い師としてつぶやきキャスで占いの仕事をしている。

 つぶやきキャスだけで月十万ほどの収入があるというから占い師としての腕も確か。

 

「おはよう〜。今日はよろしく」

「よろしくお願いします……」

 

 そんなこんなで唄貝はすでに『りゅうせいぐん☆』公式チャンネルで占い番組をやっている。

 すでに第八回まで収録済み。

 初回は茉莉花、二回目は夜凪……と先輩ライバーの占いをして、次回からは茉莉花繋がりで大手箱からゲストを呼ぶ予定だ。

 しかし、今回は茉莉花のラジオ番組のゲスト。

 唄貝デビューは再来週頭。

 デビュー日は今週末なので、唄貝の初配信直後に茉莉花のラジオ番組に出演、という形だ。

 

「茉莉花は十二時過ぎに来るって言ってたから、少し待っててくれ」

「はい」

 

 十一時五十分。

 茉莉花はいつもこの時間に来るし、そんなに待たないだろう。

 そう思っていると、ソファーにいた唄貝はおずおずと「あの……」と声をかけてきた。

 

「はい。なんだ?」

「織星さん、甘梨さんのこと、好きってめちゃくちゃ配信で言ってますけど……」

「ああ……うん……知ってる」

 

 織星は毎配信、アマリのことを好き好きめっちゃ好き、とリスナーに言っている。

 概要欄に『鳩行為禁止! 本当にやめてください! 恋愛相談は俺とリスナーさんたちの秘密!』と書いているが、アマリも織星の歌枠を聴きに配信を見に行っているので本人にもバレバレだったり……。

 

「え、あ……いいんですか、あれ……」

「まあ、社長も別に問題ないかな、って言ってた。そういう売り方って認識なんだと思う。織星も本当にどこまで本気かわからないしなぁ」

「あー……なるほど。それは考えてなかったです」

 

 同じライバーの中にもこういう認識なんだ。

 一度ちゃんと三者面談的にアマリと織星を揃えて色々、今後の話とかした方がいいのかなぁ?

 明星が初配信の時にポツリと言っていた「恋愛話をエンターテイメントにするのかな」っていうところが、俺もアマリも引っかかっているんだろう。

 

「このままでいいとは思ってないんだけど、織星がアマリをベタ褒めしてるのを聞いているのは悪い気はしないんだよな」

 

 アマリの気持ちはまだ確認していないが、あれほどのイケメンに妹がベタ褒めされていると「だろ〜〜〜?」となる。

 多分、織星の配信を見ているアマリも悪い気はしていないんじゃないかな。

 織星の歌枠を見た翌日の朝ご飯の時のアマリは、割と機嫌がいい。

 そして昨日の織星の配信を見たっぽい話題がアマリの方から出るのだ。

 特に誰の配信、とは言ってないが「私って、結構可愛いのかな」と照れながら言うのだから。

 俺は全力で「は? お前が可愛いのなんて、にいちゃんはお前が生まれた時からそう思ってるぞ?」と肯定する。

 中学から引きこもりになっているアマリのことを、俺は身内として全力で肯定してきた。

 しかし、よその他人がアマリを肯定してくれるのはアマリの自己肯定感をほどよく向上させてくれるのだ。

 やはり外の世界からの肯定は、身内からの肯定とは別の種類なのだろう。

 

「……占ってみます? 五分くらいで終わる簡単なやつでよければ」

「え? 占い?」

「はい。簡単なやつ。誰にでも当てはまる感じですけど……方向性がほんのりわかる、みたいな」

「ええ……」

 

 少し考えて、機材の準備も終わっているので興味本位のまま「じゃあ」と唄貝の前に座る。

 唄貝が出したのはタロットカード。

 シャ、シャ、とカードを混ぜて、テーブルの上にその束を置いた。

 

「椎名さんが知りたいことを考えながら、一番上のカードを引いてください」

「え? あ、う、うん」

 

 お前がもうカード切ったのに?

 もう結果は一番上に出てるんじゃないのか?

 首を傾げながら、アマリと織星のことをこれからどうすべきか、と考えながら一番上のカードを手に取ってみた。

 そのままパラリとめくってみる。

 

「えーと、これは?」

「運命の輪のカードですね。正位置」

「うん……?」

 

 俺は占いのことはさっぱりわからない。

 カードを返すと、唄貝は「運命の輪はその名の通り運命、チャンスなどの意味があります」と話始まる。

 

「正位置、恋愛の意味なので『運命の出会い』『恋の機会』とかいい意味ですね」

「えっ」



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