第12話 バレちゃった
柊さんの部屋は紺色でまとめられたシンプルな部屋だった。
でも部屋自体かなり広いし、奥の方に見えるベッドは子供用とは思えないほど大きい。
座るようにうながされた一人用ソファーもふかふかで高級そう。
流石はおぼっちゃまって思っちゃった。
「さて、まずは杏たちにも例の出来事を話さないとね」
私の向かい側にある三人掛けの大きいソファーに座った柊さんが話し始める。
あああ……やっぱりそれ話しちゃうんだ?
黙っていて欲しかったけれど、この状況で話さないなんてことはないだろうなって思っていたから私はだまって柊さんの話が終わるのを待つ。
「へ? 血をなめた?」
予想もしていなかった話だったんだろうな。
杏くんは聞き返しながらすごく変な顔をしていた。
その隣では紫苑くんが何故かキラキラした目をしている。
「いたいの、なおしたの? ののねーちゃん、まほうつかい?」
柊さんの話をどこまで理解出来ていたか分からないけれど、何だか良いようにに取ってくれたみたい。
とりあえず、紫苑くんに怖がられなくて良かった。
「魔法使いではないかな?」
紫苑くんにほほ笑み返しながら答える。
こんな素直な子を前に、ウソを吐くなんてしたくないなって思った。
「私ね、実はヴァンパイアなんだ」
『っ⁉』
「ばんぱ、あ?」
息をのむ兄二人と、ヴァンパイアと言えていない紫苑くん。
言い方が可愛くて思わず「ふふっ」と笑ってからもう一度話した。
「ヴァンパイア。吸血鬼っても言うんだよ?」
そのままヴァンパイアは人の血を吸うこと、人よりも身体能力が高いことを紫苑くんにも分かるようかみくだいて話す。
「ち? のむの? おいしいの?」
吸血することはさすがに怖がるかと思ったんだけれど、純粋に不思議そうに聞かれた。
私が悪い人かもなんて、考えてもいないんだろうな。
それくらい真っ直ぐ純粋に慕ってくれている紫苑くんに胸が温かくなった。
「大人になったら飲まないと死んじゃうみたい。味は……美味しいかな?」
柊さんの血は美味しかったからね。
「しんじゃうの⁉」
でも紫苑くんは血の味よりも死んじゃうって方が気になったみたい。
ビックリした顔で杏くんの手を離して私の所に来る。
「あ、おい紫苑!」
杏くんの止める声も聞こえないのか、紫苑くんは泣き出しそうな顔で私のメイド服のスカートにしがみついた。
「ののねーちゃん、しんじゃやだ!」
そのままくしゃっと顔がゆがんだから、私は慌てて紫苑くんをひざに乗せてギュッとする。
「死なないよ。大丈夫、そうならないようにハンター協会っていうのがあるんだから」
ハンター協会は違反したヴァンパイアを取り締まったりするけれど、代わりに真っ当に生きようとするヴァンパイアを守るための活動もしている。
血液パックだってその一つだ。
ヴァンパイアが違反吸血をしないよう、人間のハンターさんたちが献血してくれているんだ。
だから血液パックを申請し忘れたりしない限り死ぬようなことにはならない。
大体血を飲まなくて死んじゃうのは、ようは栄養失調になるからだし。
体に不調が出てから申請したとしても充分間に合う。
だから死んじゃうようなことになんてならないよ。
「ほんとうに? ほんとうにだいじょーぶ?」
安心させるように背中をポンポン叩きながらなだめると、眠そうな声で確認してくる紫苑くん。
あったかい紫苑くんを抱きしめながら、私は「本当だよ」と笑顔で返事をした。
「よかった。ののねーちゃん、だいす……き……」
「私も大好きだよ、紫苑くん」
目を閉じて完全に眠ってしまった紫苑くんに、私は最後にそう声を掛けた。
紫苑くんの背中を叩くのを止めて顔を上げると、複雑そうな表情の杏くんと探るような表情をした柊さんの顔が見えた。
真剣な目を私に向けている柊さんがゆっくり口を開く。
「今ので多少は分かったけれど、もう少しくわしく聞かせてくれる?」
「……はい」
私がヴァンパイアだっていうことはもう話しちゃったし、ここまで来たらちゃんと話して内緒にしてもらった方がいいかもしれないと思った。
まあ、いつになく真剣な顔をした柊さんの追及からは逃げられそうにないなって思ったのもあるけれど。
その後は聞かれるままにヴァンパイアのこと、ハンター協会のこと。私がハンターを目指しているヴァンパイアで、今回は正式にハンター協会からの依頼で護衛に来たこととかを話した。
「……そう。母さんたちも君がヴァンパイアだって知ってて依頼したってことだよね?」
「はい。でも柊さんたちにはバレないようにって言われてるんです。お願いですから、知ったことはだまっていてもらえませんか?」
ちゃんと依頼を達成したいんです! と頭を下げてお願いした。
そのまま少しの間沈黙があってから、「……分かった」と柊さんの声が返ってくる。
「信用するかどうかはまだ決めきれない。でも、母さんたちも知っているなら、とりあえずはだまっておいてあげるよ」
「ありがとうございます」
全部を信じてもらえているかは分からないけれど、とりあえずだまっていてくれるということにホッとした。
すると、今までだまって話を聞いていた杏くんがポツリとつぶやく。
「……ってことは、兄さんの婚約者候補とかってわけじゃないんだな?」
「は? 婚約者候補? なんのこと?」
わけが分からない私は首をひねった。
でも柊さんは苦笑しながら「そうだね」と杏くんの言葉に同意する。
よくよく話を聞くと、どうやら二人には私が美奈都さんたちがあてがった婚約者候補だと思われていたらしい。
護衛と聞いていたけれど、それは側にいるための口実だと思っていたんだって。
実際来たのが強そうには見えない普通の女の子だったからやっぱりって思ったんだとか。
「その……悪かったな。兄さんにすり寄る女子と同じだと思ってたから……」
「はぁ……そうだったんだ」
てっきり護衛として信用されていないからだと思っていたけれど、それ以前に勘違いされていたらしい。
怒るよりもあきれて複雑な気分。
とりあえずあやまってはくれたし、これからはちゃんと護衛として見てもらえるってことなら別にいいかな?
「僕もそんな感じだと思ってた。あやまるよ……ごめんね?」
「いえ、分かってもらえたのならいいです」
ほとんど無表情だった柊さんが申し訳なさそうに眉を下げる様子を見て、本当にどうでも良くなった。
こんなふうに感情を出してくれるようになったなら、これからは護衛任務ももう少しやりやすくなりそうだし。
「じゃあ、これからも護衛頑張るのでよろしくお願いしますね」
私は笑顔を見せて、あらためてあいさつをした。
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