第8話 クラスメート

「ねーねー、常盤くんの護衛って本当なの?」


 先生の話も終わってあとは帰るだけとなってから早速話しかけてきた子がいた。

 こげ茶の髪をツインテールにしている元気そうな女の子。

 たしかこの子も外部生で、名前は確か……。


「うん、そうだよ。丹羽にわさん」


 さっきの自己紹介でクラスメートの名前はとりあえず覚えておいたんだ。

 杏くんのクラスメートでもあるから、護衛としては周囲の人も把握はあくしておかないとね!


「わ! 名前覚えててくれたの?」

「うん、さっき自己紹介してたし。クラスの人の名前は覚えたよ」


 護衛なんだから普通のことだよね、と笑顔で言うと「すごーい」とキラキラした目で称賛しょうさんされた。

 普通のことだよって思うけれど、こんな風にほめられるとやっぱり嬉しいよね。


「そうかな? えへへ」


 ついついふにゃっと笑っちゃう。


「しかも可愛いし! 望乃ちゃんって呼んでいい? 私のことも香澄かすみって呼んでくれていいから」

「うん。よろしくね、香澄ちゃん」


 早速友達が出来ちゃった。

 この学園には一か月しかいないし、ほとんど護衛のために杏くんか柊さんについてることになるからあまり一緒にはいられないけれど。

 それでもやっぱり友達が出来て安心した。

 香澄ちゃんには感謝だよ。


「あ、でも――」


 でも私は一か月しかいないから、その後の香澄ちゃんが友達がいないってことになったら可哀想だよね。

 そう思って一か月後私はこの学園にいないってことを話そうとしたんだけど……。


「何? 君、クラスメートの名前もう覚えちゃったの? 俺の名前も分かる?」


 私たちの話を聞いていたらしい男子が話しかけて来ちゃった。

 ちょっと色素が薄めなのか、ミルクティー色の髪と茶色の目をしてる男子。

 一見優しそうな感じに見えるけど、なんだかちょっと軽そう。


「もちろん覚えたよ。かじ隼人はやとくん」


 この子も外部生だ。

 やっぱり外部生同士の方が話しかけやすいのかな?


「わ、ホントに覚えてるんだ? えっと……」

「……弧月望乃だよ」


 梶くんは私の名前を覚えていないみたいだったから改めて教える。


「望乃……のの……うん。これからよろしくな、のんちゃん」

「のん、ちゃん?」


 いきなりのあだ名に戸惑っているうちに、梶くんは香澄ちゃんにも「そっちもよろしく。えーっと、カスミン!」なんてあだ名をつけていた。


 あだ名つけるの好きなのかな?

 何にしても、親しくなれそうなクラスメートが出来て良かった。

 一か月だけでほとんどが護衛だけれど、教室でボッチなのは寂しいしね。


 そんなやり取りをしている間も私の意識はちゃんと杏くんに向けられている。

 だから、私に声を掛けることなく教室を出ようとしている彼にもすぐに気づいた。


「あ! 二人ともごめんね。私杏くんの護衛しなくちゃ」


 カバンを持って立ち上がると、二人の声が『え?』とそろう。


「じゃあまた!」


 状況把握が出来ていない二人に別れのあいさつをすると。


「あ、うん。さようなら」

「お、おう。またな」


 二人は戸惑いながらもあいさつを返してくれた。

 そんな彼らにニッコリ笑顔を向けて、今度こそ私は杏くんを追いかける。

 教室を出る前に「生意気」って女の子の声が聞こえたけれど……私に対してじゃないよね?


 多分……きっと……。

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