旅行くおウマにヒッチハイク

スィグ・トーネ

第1話 追放された冒険者

「お前はクビだ!」


 何の話だと思いながら、声のする方に視線を向けると冒険者パーティーがいた。

 位置関係からリーダーと思しき男は、バカにしたように立場の弱そうな戦士を罵っており、パーティーメンバーの女たちも、面白がったりはやし立てたりしながら、気の弱そうな戦士を罵っている。


「待ってくれ。僕はタンク役としてみんなを魔物から守っているんだ!」

「なーにがタンクだよ。今月お前は何体の敵を倒したぁ?」



 小生は、この無能リーダーの言葉に小さくため息をついた。

 タンクとは言わばチームの盾だ。敵の侵入を身体ひとつで止め、安全に他の戦士たちが戦えるように配慮するポジション。それに攻撃力まで求めるのは、あまりに贅沢すぎるだろう。


 それにはやし立てるだけで、無能リーダーを止めない女たち。

 誰もが冒険者だというのに身体に傷らしい傷がない。ここまで見事に守ってもらっているのに、感謝の意を表すどころか、恩を仇で返すようなマネをするとは……


「無能ヤロー、慰謝料を払え……武器もアイテムも全部おいていけ!」

 そう言いながら冒険者パーティー一団は、武器を構えてタンク役の戦士を脅していた。

「……わかったよ」


 タンク役の青年が、全ての武器を置くと……無能リーダーは不適に笑いながら言った。

「よし、これはせんべつだ!」

「う、うわ……や、やめろぉ!」

 そう言いながら無能リーダーは、タンク役の青年を切り伏せると、ゲラゲラと大笑いしながら去っていった。



「…………」

 冒険者パーティーの気配がなくなったので近づいてみると、元タンク役の青年はうつ伏せに倒れたまま血を流していた。

「…………」


 さらによく近づいてみると、小生は驚きのあまり声を上げそうになった。


 あれほど間近で斬りつけられていたのに、致命傷を受けていないのである。

 追放側は間違いなく、何のためらいもなくヒトを殺傷できる精神構造の持ち主だろう。その攻撃を受けて生き延びるということは、タンク役として十分すぎるほどの技術がある。


 小生は額にあるユニコーンホーンを出現させると、彼の傷口の消毒と傷そのものの治療、それから繊維に働きかけてシャツも新品同然に修復した。


「痛みが……引いていく……?」

「ひどい目に遭ったね」


 元タンク役の青年が振り返ると、小生の姿を見て驚いていた。

「き、きみは……うわさのユニコーン!?」

「うわさかどうかはわからないけど、旅をしているウマだよ」


 そう答えると、青年は嬉しそうに笑った。

「一度でいいから会ってみたいと思っていたんだ……」



 彼はためらってはいるが、興味がありそうに小生を眺めてきた。

「助けてくれてありがとう、そ、その……」


「……どうしたんだい?」

「どうして、旅を……続けているのか気になったんだ。君ほどのユニコーンなら、ウマの群れにいた方が……安心だし、子供もできると思うんだ」


「小生が旅をはじめた理由か……」

 小生は、昔を懐かしみながら空を見上げた。

「…………」

「…………」


 なんとなく笑うと、再び彼を見た。

「君が真の戦士となったとき、また会えそうな気がする……その時に答えようかな」


 そう答えると、青年もしっかりと小生を見て笑った。

「わかった。今日の治療費は……その時に出世払いする、ということでいいか?」

 小生は、確かに……と思いながら頷いた。


「ちなみに小生は、このまま西の海岸まで旅をするよ。君はどこに行くんだい?」

 青年は「奇遇だね!」と言いながら答えた。

「僕の実家は、その近くの漁村にあるんだ……ご一緒してもいいかい?」


 小生は、なるほどと思った。

 久しぶりに良い話が聞けるかもしれない。



 小生はハミや鞍といった、人が乗ることに必要なアイテムを魔法の力で出すと、青年はとても驚いていた。

「こ……こんなことが!」


「せっかくだし……なにかおもしろい話を聞きたいな。背中に乗りながら気ままに話をして欲しい」

「そ、そんなことで良ければ……」


 こうして、追放された元タンク役の青年と、少し旅をしてみることにした。


「ところで君……変わったズボンを履いてるね」

「これは、ジャージという、父の形見の衣服なんだ……」

「なるほど……つまり転生者2世なんだね」

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