箱庭幻想譚―異世界に転生した私の幸せになりたいと願った物語―

物部 妖狐

第一章 死んだらそこは異世界でした

第一章1話 転生

――小さい頃から自由何てなかったから自由が欲しかった。――幼い頃から常に食べる物に飢えていたからお腹が一杯になるまでご飯を食べてみたいと思った。

――物心付いたころから独りぼっちだったから大きくなったら友達が欲しいと願った。

――大人になってから周りに奪われてばかりで何も残らなかったから来世では幸せになりたいと思った。


 唐突だけど私はきっとこのままだと死ぬのだろう。

大人になりやっと自由が手に入ったと思ったら理不尽な思いをする事が増え、何かある度に周りに騙されて私ばかりが嫌な思いを押し付けられて自由も時間も奪われて気付いたら心もすり減って行く生活の中で深夜まで会社で働いては家に帰っては二時間程寝て朝になったら働きに出たり会社に泊まり込む事が多い毎日を送って来て、どうして生きているのだろうか分からなくなって来ていたけど最後に誰かの為に死ぬ事が出来たのは良かったと思う。


「……体の感覚が無くなって来たねぇ、ふふほんと何でこんな事しちゃったんだろう私」


 でももしかしたら生きていたら良い事があって幸せになれた未来もあったのかもなぁって思うとやっぱり誰かの為に死ぬなんて嫌だなぁって思ってしまう。

出来れば自分の為に生きて自分の為に死にたかったなぁ……


「ほーんと、路地裏に若い女の子が男に連れ込まれるのを偶々見つけちゃって咄嗟に助けようと思って止めに入ったら興奮した男にナイフでみぞおちを刺されて放置だもんねぇ……女の子は咄嗟に逃げて男の方はナイフを手に持って何処かに行っちゃうし付いてないわ」


 そんな事を言っている間にもどんどん体が冷えて行って意識が朦朧として来ている。

多分、この独り言も私の中では喋ってると思い込んでいるだけでまともに声を出せていないのだろう。

……あぁ、大人になったら自由になれて白馬の王子様が迎えに来てくれて幸せになれるって子供の時は思っていたけどそんな者は来なかったし幸せにもなれなかったなぁ。

ふふ、ダメだもう目蓋も動かす事が出来ないし何かどんどん気持ち良くなってきた。

そういえば昔テレビで聞いた事あった気がする……人って死ぬ前に頭から脳内麻薬が出て凄い気持ち良くなるって、あぁ最後に救いはあったのかもしれ……な……。


『……目覚めなさい、彷徨える魂よ」

『そのような言い方で眼を覚ます者がいると思っているのか?起きろ小娘っ!』


 うるさいな……私がやっと生まれて初めての幸福感に満たされているのに邪魔をしないで欲しい。


『起きろ小娘っ!魂だけの状態で我が儘を言う出ないっ!』

『あなたこそ起こし方が乱暴じゃありませんか?』


 ほんっとうにうるさいっ!


「何なのっ!私を起こさないでよっ!って……なにこれっ!?」


 咄嗟に眼を開けて声を荒げると目の前には天使の羽を生やした黄金に輝く髪持つ精巧に作られた人形のような顔を持つ女性と、悪魔の羽を生やした銀の髪を短く切り揃えた何処か儚い印象を感じる少年の姿があった。

それ位ならむしろ死んだという自覚があるから死後の世界なんだなぁって思うけど問題は私の姿の方だった。

髪は黒かった筈なのに、目の前の天使のように黄金に輝く金の髪になっていて身体の右側には純白の天使の羽が生えていて、左側には漆黒の悪魔の羽が生えていて違和感がある。

何だか……無理矢理一つに繋ぎ合わせたような気持ち悪さがあって落ち着かない。


『ほぅ分かるのか……流石我らが選んだ魂だ』

「選んだって……あなた達はなんなのですか?」

『そこは私が説明致します……。ある時私とそちらの方の世界が神々によって作られた箱庭に繋がってしまったのです、……その世界では最初に栄花と言う国が別の世界から切り取られ転移させられました。その後北、東、西、南東、南西、と五つの国が再び別の世界から切り取られて無理矢理接がれて出来た歪な世界でして、その時に出来た二つの時空の歪みが異世界を繋ぐゲートになってしまったのです。……ここまでは宜しいですか?』


 難しくて良く分からないけど、元居た世界とは違う場所に死んでから連れて来られたのは理解出来た。


「はい……何となくは理解出来ました」

『よろしい、その後私の世界とあちらの方の世界はそれぞれのゲートを通り箱庭の調査をしたのですが……行った者達は一年程経っても帰って来ず』

『後は我が伝えよう……我の方から送った奴等も帰還しないありさまでな、何があったのかと思ったら箱庭の中で戦争を起こしていやがる、しかもな?我とそやつの世界の民と箱庭の住民どちらかを皆殺しにすれば繋がった世界を元の形に戻してやると神々に言われたらしくてな、三つ巴の大戦だ。気に入らねぇ……あの箱庭の神々は戦争ごっこを楽しんでいやがるのさ』


 つまり……私に何をどうしろと?


『我々の世界が何故奴等のおもちゃにされなければならぬっ!何故犠牲にならなればならないのだっ!……すまない熱くなった。そのくだらぬ遊戯を止めさせる為に我とこやつの遺伝子を受け入れる事が出来る異世界の魂を探していたのだ……その過程で見つけたのが貴様という訳だな』

『えぇ……ですが私達には争いを止める事を強制する事は出来ません、私達の子として箱庭に転生させて頂きますが。あなたがその世界で何を見てどう感じるのかはあなた次第です……もしその過程で私達を助けて貰えるのでしたら宜しくお願い致します。』

「あの……仮に私が戦争を止めた場合一つだけ願いを叶えて貰う事って出来ますか?」


 つまり私に争いを止めさせたいらしいけど、タダ働きしてそのまま終わったら用済みだろうか。

そんなのは嫌だ、生まれ変わる事が出来るなら今度こそ幸せになりたい。


『私達に出来る事なら……』

「私は前世で苦しい思いをする事が多かったので、その世界を救う事が出来たなら今度こそ幸せになりたいです」

『その幸せがどのような物かは分からぬが理解した』

「ありがとうございます」


 これで今度こそ幸せになれると思うと束の間の不自由は苦にならないと思う。


『では……これからあなたには新しい名前を授けます。今日からあなたは【シャルネ・ヘイルーン】です』

『そして、箱庭での我の種族は魔族、こやつは天族と呼ばれておる。貴様は我らの子で合いの子故に同種の種族はおらぬがそうだな……例えるなら【天魔】だ、もし聞かれる事があるのなら天と魔の合いの子天魔と名乗るが良い』


 【天魔】の【シャルネ・ヘイルーン】、これが私の新しい名前、これが新しい私の人生、希望に溢れる新しい生命だ。

あぁ、早く転生したい……けどその前に二人の名前をまだ聞いていない。


「ところで……お二人の名前を聞いても良いですか?」

『名乗りたいところだが、我とこやつには名前が無いのだ……だから敢えてこう名乗るとしよう魔族の世界の創造神である魔神だ』

『私は天族の世界の創造神である天神です……その下に命、意志、破壊、死、氷、無を司る六人の天司と呼ばれる私の力の一部を分け与えた方達がいて、箱庭にて天族の監視をしているのでもし困った事がありましたら彼等を頼ってください』

『我の下にはグロウフェレス、ケイスニルと言う名の僕がいるから何かあったら頼ればいいだろう』


 つまりその8人は私に協力してくれる人達なんだと思う。

何かあったら頼らせて貰おうかな……。


「ありがとうございます……、後はもう大丈夫です」

『わかりました……ではこれからあなたの魂を私達が作り上げ用意した肉体へと転生させますので宜しくお願い致します』


……天神と名乗った女性がそういうと私の意識が遠のいて行く中で何かに引っ張られて行く感覚に襲われる。

これから先に何があるのか、どういう事が起きるのか不安しかないけれど、その全てが終わった時に私は本当の意味で幸せになれるのかと思うと楽しみでしょうがない。

そんな思いを胸に抱きながら私は意識を手放した。

どうか幸せになれますように。

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