第10話
普段賑やかなロザリアムの大通りも退避命令が出ていた所為だろう。すっかり
代わりに、通りに面した窓からは住人たちの不安げな顔が見え隠れしている。
竜馬が先導する二台の馬車を不用意に蹴り飛ばさぬよう足元に気を取られていなければ、余計な重圧を感じていたかもしれない。
北門を潜り、街道を北に進路を取る。
輜重隊士がいうには、目的地まではまだ暫く歩まねばならないとのこと。
道中、障害は見当たらないどころか、不自然な静けさを感じる。これが嵐の前の静けさというヤツなのかもしれない。
そうこうしている内に、先発隊である魔導師たちのウィスタの一団に合流する。
小高い丘に陣を張った彼らは、メザン渓谷の入り口であろう場所を撃ち下せるようウィスタを既に配置していた。
そんな中、竜馬はミスカのレーベインを見つける。
「ミスカ!」
その呼び掛けに気付いた彼女は、ファーニバルに乗り込む竜馬に驚く。
「どうしてリョーマがここに? って、そのウィスタ!」
「アリウスさんが借してくれたんだ。何か手伝えるかと思って。で、あの谷間から出てくるのか?
「ええ、そうよ。もうそろそろの筈って聞いてるけど」
「ミスカたちの作戦はもう決まってるのか?」
「ヤツが谷から顔を出した瞬間から、その横っ面にありったけの魔法を撃ち込む。それで倒せるのが最上の結果だけど、残念ながら無理。後はこちらが息切れするまで撃ち続け、ヤツが魔法を嫌って進路を変えてくれるのを期待するしかない持久戦、ってとこね」
「そっか」
作戦を訊いた竜馬は自分に出来ることは何かと模索する。
魔法が使えなければ、その列に参加しても置物にしかならない。
かといって、
初っ端は無闇に出しゃばらず、彼らに任せた方が良さそうだと結論付けた、――時だった。
ファーニバルの足裏に、一定のリズムを刻む小さな揺れを感じた。
はて、と疑問符を浮かべていると、斥候らしき兵の声が丘に響く。
「来たぞーっ!」
次第に大きくなる揺れの中、まずは姿を拝むべく渓谷へと視線を向け、そして言葉を失った。
硬い甲羅のような皮膚に覆われた丸っこい姿はアルマジロを彷彿させる。
だが、その大きさは比べるべくもなく、ウィスタすら遥かに凌駕していた。
前もってデカいとは訊いていたが、限度というものがあるだろう。鼻っ面から尾の根元までの目算で、全長三百メートルはあるのではないかという、生物としてあるまじき巨躯を誇る。街を踏み潰すという謳い文句も比喩ではなかったのだ。
「撃てーっ!」
誰かの号令の下、十二機のウィスタが一斉に火を噴く。
「やったのか?」
と、竜馬は成り行きを見守る。
だが息を飲む間の静寂の後、両脚に「ズン」と揺れが伝う。それは
魔法は全て直撃していた。しかし、目標に目立った傷はない。
なるほど、討伐困難という判断も頷けるほど頑強な相手に相違ない。
「怯むなーっ! 一撃で仕留められない相手など初めから分かってた筈だっ! 遠慮はいらん。次から次へと叩き込めーっ!」
その後も間断なく炎弾が放たれ、目標の捕らえ続けるが、いつまで経ってもその歩みを止められない。一撃、一撃は
一歩、また一歩と、着実にロザリアムへと迫る
まさかの作戦失敗が竜馬の頭に過り始める頃、それが俄かに現実味を帯び始めた。
気付けば投射される炎弾の数が減っている。
何事かとウィスタに目を向ければ、三機が完全に沈黙していた。
「どうした? 大事な時だろっ!」
「……限界が来たのよ」
と、竜馬の疑問に答えたのは、今も変わらず炎弾を放ち続けるミスカだ。
「……限界?」
「己の
強気な発言とは裏腹に、言葉の節々に焦りのようなものが滲んでいる。
本心では気付いているのだ。只でさえ目に見える効果が得られてないのに、攻撃手の数が減れば自ずと結果が見えてしまう。ヤツの進行を食い止められそうにないのは、誰の目にも明かあった。
竜馬はこのまま眺めて終わるつもりはない。何か出来ることはないかと急ぎ周囲を見渡し、手頃な大木を発見。ファーニバルで力任せに引き抜く。
「リョーマ、何する気っ?」
「俺が何とかするっ!」
驚くミスカを尻目に、大木を抱えたファーニバルは
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