第14話

「……そうか」


 言葉少ななジャルガの相打ち。

 それに私は気づけば感情的に口を開いていた。


「私を利用しようとするくらいなら、私には許せた」


 そういいながら、私は思う。

 その程度であるなら、私は何も気にしなかっただろう。

 このまま子爵家にいることはできない、そうは思ったかもしれないがそれだけ。

 私はただ素直に家をでるだけですませただろう。

 それが最後の義理立てになると考えて。


「でも、ソルタスはお義母様を踏みにじった」


 ……だが、もう私はそれでことを終わらせるつもりはなかった。


 お義母様の遺書。

 それは私にとって最後の一線だった。

 確かに、ソルタスは変わってしまった。

 それでも決して、別人になってしまった訳ではない。

 そう思ったから、私は最後まで義理立てして去ろうとしていた。

 けれど、もうその理由はなかった。


「もう一度言うわ。ジャルガ、私と一緒に子爵家をつぶしましょう」


 だから、私がそう告げた言葉にもうためらいはなかった。

 にやにやと性格悪く笑うジャルガを睨みつけながら私は告げる。


「私が商会に欲しいんでしょう? なら、私に協力しなさい」


「ほん、それはおもしろくなるか?」


「ええ、保証してあげる。──今まで私と一緒にやってきたことで、おもしろくないことはあった?」


 その言葉に、ジャルガは満面の笑みを浮かべる。

 心から楽しそうな、そんな笑みを。


「ええわ。口車に乗ったる。どうせ、ここで子爵家潰しとかんと、こっちは大損やしな」


 その言葉に、私は表情だけ変えず内心安堵の息をもらした。

 なんとか今回も、この男を味方にすることができたと。

 しかし、その安堵も一瞬だった。


「まあ、ちゃんと対価は貰うけどな」


「……それは、商会に入るって」


「まぬけ。それは前回の対価だろが。前回の分、都合よくただ働きにできると思うなよ」


 その言葉に、私は内心舌打ちをつく。

 本当に、抜け目のないやつだと。

 味方の時は心強いが、交渉相手となると面倒臭いことこの上ない。

 一体何を要求されるか、内心うんざりしながら私はジャルガの提示する条件を待つ。


「まあ、今はええわ」


「……え?」


 だが、ジャルガの口から出てきたのは想像もしない言葉だった。

 ジャルガはこういう時、前もって条件を提示する。

 後で、それは無理だと言い出せないように。

 故に私は、困惑を隠せない。


「なんや、こっちが仏心を出しただけやのに……」


「仏心? そんなのジャルガにある訳ないじゃない」


「お? なんや強制労働でも条件にしてらろうか?」


 こっちが断れない状況であることを知りながら、笑顔で圧をかけてくるジャルガに、私は無言で顔を逸らす。

 こんなこと初めてのことで、内心心臓がばくばくとなっている。

 しかし、私はそれから意識をそらし、本題へと思考を戻す。

 怖くはあるが、少なくともこれは後の問題だと。


「まあ、とにかく状況をもっと正確に共有するわ」


 そして私はジャルガへとさらに口を開いた。



 ◇◇◇



 明日から、火曜、土曜の週二回更新にさせて頂きます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る