古の星の魔女と青き炎の漆黒のドラゴン
RYU
第1話 緊急事態発生です!①
上空を超高速移動する摩訶不思議なバスは、何も見えない深い霧の中をただひたすら走っていた。
バスの中には、10代前半位の少女達が乗っていて脇には使い魔である動物を
時折、ヒソヒソ声が飛び交う。彼女達は、これから始まる新しい生活に不安と期待を交わせながら胸を踊らせていた。
セイラは、不安で一杯だった。
周りと自分との間に、あきらかに大きな温度差があった。
周りは身なりをぴっちりまとっている。
高級デパートやブティックで見るような上質な素材の上着を着ていた。如何にも
対してセイラは、寝癖の入ったボサボサヘアー、出る前にキチンと整えた筈だが過度の緊張からか髪が不均等に乱れていた。
制服は、堅苦しくて上着だけスーツケースにしまい、第一ボタンを開け腕捲くりをしていた。
あたりをキョロキョロしていると、左隣の子と目があった。
「あ…初めまして。私は、咲山セイラといいます。あなたは、魔女の家系なんですか?」
「…え…?」
隣の席の子は、眉をハの字に寄せセイラを新種の生物を見るかのような目つきで見ていた。緊張しているのか驚いてるのか、身体を軽く仰け反らせている。
「…あ、ごめんなさい。私、こういうの疎くて…あ、よかったらコレを。知り合いのおばあさんが、作ってくれたんです。」
セイラは、鞄からクッキーを取り出すと包を開け少女に差し出した。
「あ、ありがとう…」
少女は、恐る恐るクッキーを摘まむと軽く齧った。
「私、アオバって所のずっと山の側で生活してて…田畑が…自然豊かな所で、そこでよくトンボやクワガタ採ったりしてたの。土壌救いも良くしてて、泥んこ塗れで…あと、そこは、脇水が綺麗なんだ。あなたは、何処出身なの?」
セイラは場を和まそうと早口で喋った。
「…え?」
少女は、クッキーをつまらせむせケホケホむせた。セイラは、ハッとし口をキツく結んだ。いつもの悪い癖が出た。
「あ、ごめんなさい。場が和むかな…?って…喋り過ぎちゃったね。クッキー、まだあるから、よかったら食べてね。」
セイラは、身体を縮こませ、右側の窓の景色を眺めた。
バスは、みるみる加速していった。すると、突風に包まれバスが大きくぐらついた。車内で悲鳴で包まれ、セイラは前屈みになりクッキーを詰まらせた。
しばらくすると、霧が晴れ幾何学模様の摩訶不思議な建物が薄っすらと姿を現した。そして、徐々に霧が晴れていくと、前方にシンデレラ城のような豪勢でメルヘンチックな建物が広がっていた。
「な、何よ、ここ…」
セイラは目を丸く開け、眼前に広がる奇妙な光景をまじまじと眺めていた。
ギリシャの宮殿さながらの壮大な光景がそこにあった。
門の前には二メートルは優に越えるかのようなサイズの2体のグリフォンが、翼を拡げていた。このめをギラつかせた躍動感溢れる様は、まるで本当に生きてるかのようだ。
このような摩訶不思議な光景は、絵本やアニメで見たことはあるが実際に見ると震えが止まらなかった。稲妻に打たれたかのようなぞくぞく感が、セイラを襲った。
バスは、門のすぐ上を通り過ぎると下降しスピードを徐々に下げた。バスは、建物の前で停車し、ドアが開いた。
バスを降り、スーツケースを引いた。
ふらふらと全身が酔うような感覚に襲われた。周りは平気なのか、何事もなかったかのように普通にバスを降りていた。
「ねぇ、あなた、大丈夫なの…?」
セイラは、さっきまで隣の席にいた子に尋ねた。
「うん、大丈夫。慣れてるから。こういうの。」
少女は、キョトンとし身なりを整えていた。
「あなたの名前は、何?」
「私は、ブリギットよ。あの…クッキーありがとう。」
ブリギットは、ペコリとお辞儀をするとそそくさと人混みから去っていった。ハンカチが、ひらひら落ちた。
「ねぇ、落とし物…」
セイラがブリギットの落としたハンカチを拾おうとした、その時だった。
すると、たちまち強い風の渦が起きた。
閃光があたりを包み込んだ雷が落ち、謎のグレーの大きな鳥がくるくる回りながら落ちてきたのだ。
「危ない!」
セイラは、箒にまたぐと慌ててその奇妙な鳥の方へ向かった。
強風に煽られ、箒もくるくる回転する。
「ああっ…もう…」
強風で、箒がうまく回らないー。
「ちょっと、セイラ…!?」
遠くの方から、ブリギットの驚く声が聞こえた。
奇妙な鳥は、ぐるぐる大きく旋回しながら落下する。
セイラは、めいいっぱい力を振り絞り箒を鳥に向けた。
箒は、垂直に一気に上昇し加速した。
そして、セイラは鳥を捕まえた。
「やった。捕まえた。」
セイラは、安堵し胸を撫で下ろすと地面に向かって降下した。
箒は、ぐるぐるドリルのように旋回すると地面に向かって急降下した。
すぐ下には、新入生の子がスーツケースを引いて歩いているのが見えた。
「危ない、危ない、危ない、ごめん、どいて、どいて、どいて!」
セイラは、声を昂らせながらくるくるドリルのように旋回した。
「あ、ごめんなさい…」
セイラは、その少女のすぐ前の地面に落し頭を下げた。
「ちょっと、気をつけてよね!」
少女は、眉を釣り上げると服をパンパン大袈裟に払った。彼女から、何処となく高貴な雰囲気が漂っている。ポニーテールから、バニラのような香水の甘い匂いが漏れ出した。
良家のお嬢様なのだろうか?
「ごめんなさい…」
セイラは、申し訳なく身体を縮こませた。
「ルーナ、ちょっと、大丈夫…?」
左隣の友人が、瞳孔を大きく開きその様を見ている。
「ねえ、野暮ったい姿で近付いて来ないでくれる?目障りだから。覚えときなさい、後でパパに言いつけるからね。」
ルーナは、刺々しい口調でセイラに捲し立てた。
「ねえ、ルーナ、この子…」
取り巻きの友達が、セイラに石を当てると指差した。
「ちょ、やめて、眩しい。」
セイラは、顔を覆った。あまりの眩しさに顔が熱く感じ、手のひらで強く顔を覆った。
「あなた、人の血が入ってるの…!?」
もう一人いた取り巻きが、驚き半歩下った。
「こ汚らわしい人間の血…」
ルーナは、ドブネズミを見るかのような目でセイラを見ている。
「…や、やめて、眩しい。」
石が益々ジリジリと輝き、セイラはあまりの眩しさに顔を覆った。
「これは、魔王石よ。」
ルーナが、得意げになり石を押し付けてくる
「や、…やめて…よ」
額に、焼け付くような熱さを感じた。
「ここで、何してるのですか?」
正門の前で、50過ぎ位の厳格な女が、こちらをギロリと睨みつけている。
「サリバン先生、ここに人間の血が入った子がいます。純血の良家の魔女がくる所ですよね。」
セイラは、ルーナのその言葉が何処となく鼻についた。
「そこのあなた、案内状を見せなさい。」
「あ、はい…」
セイラは、鞄の中から案内状を取り出すと先生に見せた。
「これは、本物の案内状です。」
「先生、だって…」
ルーナの顔は、動揺しているかのようだった。そこには、怒りと悲しみが入り交じっていた。
「お黙りなさい。正門前では騒がぬように。」
「先生、いいの?パパがいつでもクビに出来るんだからね。」
「それは、貴女の決める事ではありません。」
サリバン先生は、目を三角に尖らせルーナを睨みつけた。
「咲山セイラさん、ここは、伝統ある格式高い聖マリアナ女学園です。マナーを守って礼をわきまえ、行動するように。」
「で、でも…鳥が…」
セイラは、縮こまり項垂れた。
「言い訳は、許しません。私は、ここに赴任してから20年間、色んな生徒を見てきました。兎のようにビクついて何も出来ずにいた生徒、あなたのように破天荒で尽く常軌を逸した生徒‥私は、彼女らを立派な魔女に矯正しました。今日から、あなたはここ、アリアンロッド魔法学園の生徒なのです。私が、これからビシビシシゴイていきますから。」
サリバン先生は、仏頂面でハスキーボイスでまくし立てた。
これから、波乱と学園生活が始まろうとしていた。
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