――宝探し編――

第六十一話:新たなる魔法・Ⅰ



「あいつ、絶対に許さない……」


「恐ろしき魔導士ディー」


「どんな頭をしていたらあんな魔法を生み出すんだ。くそ、まだ後ろの穴が――」




「マスターの悪口言った? お尻なんて最初から縦に割れてるんだし、横にも割った方が便利じゃないかな? ――やる??」


「「「「「すみません、ファーヴニルゥさん! なんでもありません!」」」」」


「次はないよ? マスターが殺さないように言われているから死なない程度に――遊んであげる」


「「「「「ひぇっ!」」」」」




 予想外の襲撃から二週間ほどが経過した。

 侵入者である革命黎明軍の彼らを住民として何故か取り込むことになり、いつの間にやらベルリ領の人口は一気に増えた。


 それでも五十人は割っているが、それでも二桁に入ってなかったことを考えれば随分の増加具合であった。


 それでまず問題になったのが食料の問題。

 農地の食料は大目に生産していたので問題はなかったが、肉や魚などは現地調達が基本だ。

 前までのベルリ領では昼頃にふらりとファーヴニルゥが飛んでいき、適当に食えるモンスター仕留めてくればそれで事足りたが、増えたのが三十人近く……それも成人した大人ばかりとなるとそういうわけにもいかない。


 まあ、それでもファーヴニルゥにとっては大して手間ではないので回数を増やせばいいだけではあったが、ディアルドから変なことを考えさせないように彼女の力を見せつけるのもいいだろうとファーヴニルゥには部下として五人ほど預けられた。


 預けられたのは魔導士ではなく、剣士であった若めの体力自慢の男ばかり。


 だが、食料調達にモンスター被害を防ぐための牽制を兼ねての間引き、そして一帯の探索と当たり前のようにこなすファーヴニルゥに、その美貌と幼さから侮っていた雰囲気はいつの間に初日で消えてなくなった。


 なにせ彼らでは難儀するであろう討伐難度100を超えるモンスターをファーヴニルゥは片手間で殺すのだ、彼らはいつの間にかファーヴニルゥのパシr――舎弟のようになったのもある意味では当然だったのかもしれない。



「さっ、次に行くとしよう。やはり人が増えると負担が減るね。このまま、僕がモンスターを狩って残りを彼らで解体させれば――効率的ではあるけど、それだけじゃ……うん、やっぱり彼らも鍛えた方がマスターも……」


「また考え込んでる」


「どんなモンスターも一刀で切り伏せる癖に考えていることがあの男に「どうすれば褒められるか」って可愛すぎか?」


「確かに」


「隊長はイケメンなんだが?」


「お前、この間、助けられてからそればっかだな……。まあ、間一髪のところをあんな風に助けられてさ――わかるけど」


「美しくて、強くて、小さくて、カッコよくて、小さくて……無敵か?」


「なんで小さいを二回言った?」




「とりあえず、今日の分は狩ったし残りはキミたちの修練にあてるとしようか。僕の力がなくても討伐難度――だっけ? 130くらいは狩れるように。さ、向こうの方にいい感じのを見つけたから早速いこうか?」


「「「「「えっ、いやちょっと待っ――」」」」」




                   ■




 一方、そのころ。

 他の元革命黎明軍の彼らは多くの労役に従事していた。


「おい、それはそこにおいておけ」


「はい、ハワード支部長!」


「馬鹿野郎、現場監督と言え! 俺たちの住む場所になるんだから気合を入れてだな――」


 多くの人が増えたことで問題になってくるのはやはり住む場所だろう。

 野営用のテントなどは彼らも持ち込んでいたが、それでいつまでも過ごすというのは無理がある。


 そこでハワードたちの住む場所、家を作ることになった。

 アリアンの時とは違い、大所帯だし、それに面倒なので所謂長屋と言った感じの簡素なものでいいから作ろうとしたのが、これが中々に難しかった。


 一人暮らし程度の木きさの家ならともかく、大きな長屋ともなると――ディアルドにしてもエリザベスも勝手がわからない。


 そんな時に声を上げたのがハワードだった。

 どうにも彼は元はそっち方面の職についていたことがあるらしい。


 専門的な知識がある人間がいるなら、それに任せるに越したことはない。

 建築資材を用意したり、建築物の立て方を学びながら、ディアルドはサポートにも回ることにした。


「やはり、領地の発展には人材の獲得が一番か……」


「順調そうだね」


「ワーベライトか。ふーはっはァ! まあ、見ての通りだ。簡素ではあるのものしっかりとした長屋の完成だ。……これが終わったら公衆浴場の用意でもするか、風呂は命の洗濯。それに上下水道網も少し手を加える必要が――」


「君ってわりと完璧主義だよね。真面目というか……。ああ、それからこっちの方も順調だよ」


 エリザベスがやっているのは魔法の授業だ。

 革命黎明軍の彼らの中で魔法を使えていた者、才能が有りそうな者、それらを選別して魔法を教え込んでいる。

 ロゼリアとアリアンも一緒だ。


「頼んで悪かったな。義理はないというのに」


「構わないさ、私としてもいい経験ではあるしね」


 ロゼリアはともくかく、アリアンを含む魔導士の卵がそれなりに使えるようになれば――それはベルリ領にとっては益になる。


「単純に私としても雑務をやってくれるものが増えるのいいことだよ。研究に集中が出来るし」


「使い走りにしてるな……? まあ、別に構わないが」


「君も相当にやるんだから手伝ってくれてもいいんだけど?」


「確かに俺様は天才であるが知識という意味ではワーベライトほどではないからな」


「……そうとも思えないけど?」


 エリザベスの言葉にディアルドは無言で肩をすくめた。

 彼女からしてみるとはぐらかされたように感じる反応かもしれないが、魔法という学問に対する理解の深さにおいては圧倒的にエリザベスの方が上だと、彼としても認めていた。


 ディアルドは『翻訳』の異能のせいか簡単に理解できてしまう、というのはある種の欠点でもあった。


「まあ、俺様も忙しいからな」


「それが理由としか思えないんだけどなー」


 まあ、単純に教えるという行為が面倒だったのも事実だが。

 ジトっとしたエリザベスの視線から逃れるように横を向きつつ、ディアルドは尋ねた。


「それで研究の方はどうなんだ?」


「ああ、極めて順調だよ。アリアンくんとアリアンくんにつられて協力してくれたロゼリアくんのお陰で、飛行魔法の実験が出来てね。二人とも筋が良かったから完璧と言わないまでも発動出来て――まあ、すぐに落ちちゃったんだけどさ」


「だから、あんなに怪我を……」


「まあ、あれぐらいの怪我ならすぐに治せるし。それに被験者のやる気が素晴らしい。アリアンくんは妙に張り切ってるし、それにつられてロゼリアくんも……彼女やはり才覚で言えば色位カラー級はあるね。彼女の≪戦式偽獣・狼ウォークライ・バルメディア≫の術式も上手く組み込めないかと試行錯誤しているんだけど、よかったら知恵を貸して貰ってもいいかな?」


「ふーはっはァ! それに関しては別にいいが――そうではなくてだな……」




「わかってるよ、黒の十六番のことだろう? 大体の解析は終わってるよ。実に有意義な時間だった」



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