第17話 カチコミ
領主の邸宅に繋がる大通りは多数の柵で塞がれ、クロスボウを構えた衛兵たちが配置されているのが見える。
彼らはギルドの出張所に踏み入るのを諦め、守りの姿勢に入ったようだ。その間に俺たちは作戦会議の時間を作ることができた。目標はとてもわかりやすい。だって自分から「ここはパンドラ本拠地です」って言ってるみたいなもんじゃん。
「はい
実力を隠さなくなったフィーナが雑に衛兵たちを無力化する。柵は俺の
俺は力を温存するために後方へ下がる。ユーステスと戦士が前衛で打ち漏らした兵と戦っている。魔術士と
「なあモニカ。今まで『勇者の鎧』って単語を特に抵抗なく受け入れてたけど『魔王』っていたの?」
「いました! いえ、いたらしいです……! 少なくとも先代勇者アーサー様の頃にはもう姿を消していたそうです。魔王不在で統制の取れなくなった魔物と戦う狩人が冒険者ギルドの礎となったとか……言われてます。魔王自身は異世界に転移したとか、色々噂があるみたいですけど……」
そんなわけあるか。いやあるのか? 魔王転移説を採用しても転移先が俺のいた世界とは限らないしなあ。
そんな話をしているとあまりに舐め腐った進軍にルドルフも打って出てきた。大通りの横道から多数の衛兵が湧き出てきたのだ。伏兵というやつか。こんなのゲーム以外で初めてかかったな。
「
フィーナが広範囲に
しかし元々「麻痺耐性」のスキルでも持っていたのか、一人の兵がモニカに槍を向けて突進してくる。毒を抑えた
「悪・即・打!」
するとモニカは手にしていた短めの杖で衛兵の頭部を殴り付ける。よく見るとその杖、先端に光る石がはめられてる以外なんか、鈍器っぽい。言い方を変えるとこん棒?
衛兵の兜は派手にへこんでいる。聖職者が撲殺はちょっと……と思っていると慌てて最低限の治療を行うモニカ。なんだろう。手加減をしてみては? 捗るぞ。
「司祭様の教えなんです。司祭様はかつてBランク上位の冒険者でしたから。悪人だと直感が訴えたらすぐぶん殴れと! その痛みで罪を実感させるのだと! 勘違いだったら全力で治療すればよいと!」
邪教? というかこの世界の宗教は何を崇めているの? 暴力の神?
そうやって伏兵をあしらうとルドルフ邸にたどり着く俺たち。
「それじゃあケント! 交代ね! あの傷のおっさんが出てくるかもしれないし、気を付けて!」
「おうフィーナ、お疲れ!」
フィーナが手のひらを出すのでパシーンと上から叩く。
「何すんですか! いった! 手間賃くださいよ!」
「いやごめん。そういう挨拶? があって……」
「ケントの嘘つきー!」
ごめんなさい。転移者がそういう文化も持ち込んでいたと思ったの。本当に。でもこの状況で手間賃とか要求する? 俺だって戦うんだよ?
「直接乗り込むとは、人はそれを蛮勇と言う」
「『パンドラ』も舐められたもんだなあ! こんなガキどもによお!」
「粋のいい子たち。嫌いじゃないわ」
「……」
謎の四人組が登場する。ルドルフの部下だろうか。ええい一度にしゃべるな。いや、一人黙ってたわ。でもなんかデジャヴ感がする。
四人の刺客を瞬く間に蹴散らすと、ルドルフの邸宅に乗り込んだ。以前も訪問した状態のままで特に怪しい点は見当たらない。
「地下室がある。こっちだ」
「今さら罠にはめたりしたらマッパじゃすまないからな。ユーステス」
「あいつらは裏切り者を許さない。命が助かるなら服だろうがなんだろうが捨ててやるさ、それで満足か?」
屈辱に歪んだ顔でユーステスが言う。罠ではないらしい。一応言っておくと別に脱がなくていいからね。
絨毯をずらすと地下に繋がるドアが出てくる。
「鍵は与えられていない。それだけ俺たちが信用されていな……」
「
すかさずフィーナの呪文によって扉が開く。それ、普段悪用とかしてないよねえ。あなた。
「
「なんだこりゃあ……!」
俺は思わず声を上げてしまう。無数の魔物の希少部位が大きな机の上に所せましと並べられていたからだ。素材の横流しの話は本当だったのか。なるほど、厄介なランドタートルに与える金があったのはこういうことか。
「出荷前の素材だよ。フフ……『緋色の夜明け団』の納品したものがほとんどだ」
すると地下室の奥からルドルフの声がした。その声はどこかくぐもっている。進んできて光に照らされるルドルフは全身をグレーの鎧で覆っていた。どこか見た目が勇者の鎧に似ているような……気のせいか?
「ここまで見られたからには諸君には必ず死んでもらう。そうでもしないと私の『パンドラ』での立場がなくなるからね」
「ハッ! テメエも俺たちと同じ廃棄処分だろうが!」
ユーステスがルドルフに食ってかかる。手駒として扱われていた以上、思うところがあるのだろうか。
「ふふ……『覇者の鎧・
「まさか里から盗まれた『覇者の鎧』は『パンドラ』の仕業!?」
フィーナが真っ先に食いつく。勇者の鎧と何か関係があるのだろうか。
「さあな? 無駄話はここまでだ。衛兵が集まってくる前に始末してしまうとしよう」
ルドルフの持つ剣に禍々しく赤い光が集まっていく。
彼が剣を地下室の屋根に向けると赤い光線が放たれた。
「
フィーナが防壁で瓦礫から皆を守る。
「解放、
「嘘だろ!? あの領主の野郎『剣豪』クラスの使い手だったのかよ!?」
戦士が叫ぶ。ユーステスも初めて見たその剣に驚いている様子。
「『健康剣豪』君のは聖剣……いや毒剣だったか? 私のは『魔剣』だが、さて相手になるかな?」
鎧、剣共に禍々しい気配を放つルドルフ相手に俺は
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