第30話 スキだらけ!
それにしてもゴールがえりちゃんのスキルをくらっても耐えていたのが何よりも驚きだった。
おそらくはダンジョンで得た素材から作られているのだろうが、技術の無駄遣いな気がしないでもない。
でも、ちょっと気になるな。何でできてるんだろう。
「いやぁ楽しかったね」
「楽し、かった? まあ、初めての体験ではあったかな」
「しょうちゃんの初体験」
「変な言い方しないで」
まったく、動いてテンションが上がっているのか。
まあ、先生もそうだが、えりちゃんとしても今まで一緒に授業を受ける相手がいなかったのだし、テンションが上がってしまう理由はわかる。
例えるなら、離島の生徒のようなものだろう。三年も一人だったとなれば、仕方がない。
「はあ、授業が終わったから制服に戻るのか。スカートよりはラクだったな」
「ダメだよ。制服に戻らないとわたしが許さないよ」
「えぇ……」
だが、抵抗すると変なタイミングで服を着替えさせられそうな気もする。えりちゃんは一度に一つならなんでもできるのだ。
それに、授業前でもないのに体操服で教室に戻るのも抵抗がある。
もう、当然のように俺の更衣室にいるえりちゃんに突っ込む気も起きず、俺はおとなしくえりちゃんから目を逸らして着替えた。
「スカート……」
動いた後だからか余計に意識してしまう。
気にしていない間は気にならないというのに、気になるとどうしても気になってしまうこの現象はどうにもできないのだろうか。
どうにか別のことを考えよう。
うーん、動いた後でちょっと暑いし、なんだかお腹が減った気がする。
ダメだ。いい方向に考えがいかない。
「しょうちゃん、ちょっと来て」
「へ……?」
「いいから!」
「え、な、なに!? なに急に!」
おとなしく席に戻っていたというのに、俺はいきなりえりちゃんに手を引かれた。
圧倒されていたからって、ちょっと対応がよくなかっただろうか。
えりちゃんに手を引かれるまま、俺は廊下を歩いている。
少し振り返る時間になり、俺はこれまでのことを反省していた。
えりちゃんにされるがまま、これまでの接し方から急変して、なれなれしかったかもしれない。ぼっちもどきの俺が、天上人のえりちゃんに対して敬意が足りなかった気がする。ちょっと探索者になったからって調子に乗りすぎていたかもな。
色々な思考が頭をよぎる。どれをとっても、すごいという言葉を間に受けていないフリをしながら、俺は流されていた。結局、ただの流されやすいだけの人間だったみたいだ。
「ここならいっか」
誰もいない多目的室。
一対一の状況でしか言えないことなのだろう。
ああ、とても気まずい。目も合わせられない。俺はなんと言って謝れば許されるんだ。
いや、許してもらおうなんて気でいちゃダメだ。いいようにしてくれた感謝と誠意をもって謝罪。うん、今の俺にできるのはその程度。
怖い……今まで仲良くするということがなかっただけなのに、嫌われたかもと思うだけで胸が苦しい。
「え、えりちゃ」
声が震える。でも……
「しょうちゃん!」
「はい!」
「スキありすぎ」
「……はい?」
スキ? ありすぎってどういうことだ?
え、ちょっと待って。俺の持ってる語彙の中にない。
「ど、どういうこと?」
「ビクビクしてるってことはわかってると思うけど、わたし以外の子に見られすぎ」
「見られすぎ?」
「そう!」
見られすぎって、なんだ?
そりゃ、事情を知ってる相手からは物珍しそうに顔や胸や髪を見られてるし、そうじゃなくても見られてるけど、見られすぎ?
「普通にしてただけだけど」
「今は女の子でしょ? はい、足閉じる!」
「は、はい!」
少しだけ足を狭める。
内股とかそういうのはちょっと……今まで肌がこすれるのってそうなかったから、変な感じがして……。
いや、そもそも今までは指摘されなかったんだが……?
「わかった? しょうちゃんはみんなから見られてるんだから」
「でも」
「わかった?」
「はい。気をつけます」
「素直でよろしい」
反論ができる雰囲気じゃなかった。
まあ、男として生活してきたのだし、仕方ないと受け止めよう。
どちらにしても、今のえりちゃんはちょっと厳しい。
嫌われたわけじゃないみたいで安心だけど、ちょっとショック。
「あ、その。ジロジロ見られるのはしょうちゃんも嫌でしょ?」
「うん」
「だから、無闇に見られないようにと思って。ごめんね。しょんぼりさせちゃうつもりはなかったんだ。慣れないもんね。仕方ないよね」
「うん」
ぎゅっと抱き寄せられ頭を撫でられた。
えりちゃんとしては、俺の過ごし方を心配してくれていたみたいだ。
でも、どうして俺は抱きしめられて撫でられてるんだ?
「わたしの前ならいつものしょうちゃんでいいんだよ? でも、みんなの前でもいつものしょうちゃんだと、前までとは違うんだから」
「うん」
きっと、油断するなということなのだろう。
やはり、探索者は視線というものを敏感に感じ取る生き物みたいだ。
チームプレーのためにも、仲間へ飛んでくる視線や攻撃まで感知できる必要がある。これはその序章みたいなものということなのだ。
「これからは気をつけるよ。教えてくれてありがとう」
「気をつけてよ?」
「うん」
「そうだ。せっかくならさ、放課後はちょっと出かけてみようよ。練習がてらね」
「うん。……え?」
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