第27話 生還と換金!

 危機を脱したら報告せねばか。


 ということで千島さんの言うとおりにギルドの方まで戻ってきた。


「大丈夫でしたか! いくら実力者の方々とは、いえ……」


 駆け寄る群衆、押し黙る人々。受付の女性が戦闘に立っているが、急に黙ってしまった。


 思わず後ろを見る。モンスターがついてきている……?

 いや、いないよな……じゃあどうして?

 俺の服も色々見えるほど溶けてたりはしてない。今回は大丈夫。ビリビリだけども……。


「ねえ、あれ……」

「ああ、どう見たって……」

「うっそ! なんともないの!?」


「そうみたいです」


「まったく、あんたらすさまじいな!」


 どうやら配信を見ていたらしく、帰って来れるかどうかすでに心配されていたらしい。


 確かに、イレギュラーがあっても無事というのは、驚かれることかもしれない。


「無事、だよね?」


「どう見ても大丈夫だよ」

「もちろんだとも」

「おかげさまで、ね」


「まったく、しょうちゃんは心配性だなー」


「よかったよかった」


 みんなケガもほとんどなく、全員が無事。

 当時は、俺の把握している限り、中層でイレギュラーに遭遇している人たちは他にいなかった。

 幸い俺たちで大量発生したモンスターはすべて片付けられたはずだ。


「あれだけのモンスターを……」

「すげぇな。配信見てたけど、本当だったのかよ」

「ここまで実力差があると、引退を考えるな」

「バカ言え、そもそものスタートが違うんだ。比較する方が失礼って話だろ」


 まあ、女性実力トップスリーみたいな人たちの前ならそれもそうかという反応。

 俺の囲まれている環境がよすぎて、どうにかできてしまったということらしい。

 いやぁよかったよかった。


「はいはい! あんまりここにたまってると迷惑ですからねー!」


 受付のお姉さんの号令で探索者は散り散りになった。


「戻ってきたのにあれだけの人に囲まれるなんて、すごい注目度なのねあなたたち。いや、当たり前か」


「ええ、そうです! なんてったってボスが関わるイレギュラーに対処した一人ですから」


「ん? なんだか聞いたことあるわね」


「しょうちゃんはわたしを助けてくれたんですよ!」


「伊井野さんを助けた……ああ! あたしも思い出したわ。しょうちゃんで有名になってるあの探索者! どおりで見覚えがあったわけだわ」


「は、はは」


 まさか千島さんにまで知られていたとは。

 ネットがあるとここまで簡単に広まるものなんだな。


「どうしてこの組み合わせなんだろうと思ったけど、そういうことだったのね。納得納得」


「それにしても、いくら実力者がそろっているからといって、心配したんですからね。あんまり無茶はしないでくださいよ」


「宇野さんも見てくれてるんですか?」


「それはそうですよ。あなたのことは一日たりとも忘れたことはありません」


 ゾワゾワァと悪寒が背筋を走った。


 この人、やっぱりなんだか苦手だ。

 笑顔の裏に何かありそうな感じがしてしまう。


「受付のお姉さんとも仲良しなんて、やるねしょうちゃん」


「ま、まあ……」


「イレギュラーのせいで、ワタシとしては満足いく目的を果たせなかったのだが、収穫はそこそこだったんじゃないのかい?」


「あ、そうだ。換金ですね。これまでずっと忘れてたんだ」


 関先輩のおかげで思い出せた。

 素材は俺としては金にするのがいいだろう。

 えりちゃんのおすすめドローンを買うかどうかは別にして、普通に足しになる。


「しっかり回収までしてたのか!?」

「あの状況でも冷静さを失わないなんて。こういうのが一流なんだろうな」


 離れたところから一挙手一投足が見られている気がするが、気にせず収納スキルからアイテム類を取り出してい、く。


「宇野さん。換金ってここでできるんですか?」


「そうですね。特殊なアイテムではなければ、ここでも買取はさせていただいていますよ。素材によっては運営に使えますしね」


「無理なものはなんでも屋さんに持ってくと喜んでもらえるよ」


 そっか。そういうふうに回ってるのか。


 武器そのものとかなら使えるけど、俺が持ってても素材のままじゃ加工できないしな。

 スキルがあっても、加工するための道具がないとできないだろうし。


「それじゃあお願いします。とりあえず多いのでこの間のキラー・アイアンの」


「そうだね。それがいいと思う」


「また、希少な……これも高価、ちょっと待ってください? 倒したのは一体ですよね? なんですかこの量!?」


「えーと、はは。ラッキーです」


「いやいや、配信で見るよりもすごい量ですよ」


 驚き具合からすると量だけでなく質もいいのか。


 素材というと、正直、今まで探索者じゃなかったから価値というものがわからない。

 どれほどのものだというのか。


「ざっと一生分くらいの稼ぎにはなったんじゃないの?」


「へ……?」


「そうですね。推計ですけど」


「じょ、冗談ですよね?」


「冗談でそんなこと言えないですよ」


 どうしてえりちゃん含めたお三人は平然としているのか。


「ちょっと先輩呼んできます」


「それじゃあ、ワタシがざっくり試算させてもらおうか」


 どこからともなく電卓を取り出すと、関先輩はカタカタと叩き出した。


「これくらいかな?」


 そして示されたのは学生は卒倒しそうなほどの額。


「いちお、いや、えっと」


 ここ最近桁の多い数字を見過ぎてちょっと感覚がおかしくなる。

 えっと……。


「すみません。一時金としてこれだけしか用意できず……高梨さん?」


「そ、素材だけで……?」


 アタッシュケースと大量の札束を前に、俺は、以前とは別の理由で帰り道に気をつけた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る